表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

序章

「ワグナーがやられた……!」


 鎧をまとった屈強な男性、ガレスが、両手を震わせながらそう告げた。

 その報告に、その場にいた面々が沈痛な面持ちでうつむいた。


「ワグナーが……そうか……」


 それまで気丈な態度を貫いていた団長も、その報告を受けて表情を曇らせた。


「……クソッ」


 旅団最高の魔法使い、ルイーゼが舌打ちをした。


「このタイミングで死ぬなんて……使えないわね」

「おい、ルイーゼ!」


 旅団で実質的にリーダーとして振る舞っていた女騎士、リゼッタが怒鳴る。


「仲間にとってその言い草はなんだ! お前はいつも……!」

「だってそうでしょ!」


 ルイーゼは、焼け焦げた平野の先にある、禍々《まがまが》しくそびえ立つ城を指差した。


「魔王の城は目と鼻の先なのよ! 私たちはここまで頑張ってきたの、みんなの期待を背負って! あとちょっとなのに……!」


 歯を噛みしめるルイーゼ。


「だからって……」

「……みんな、疲れてるんですよ」


 喧嘩寸前の二人を眺めていたフィーネが、力のない声で二人をなだめた。

 普段は笑顔を振りまく彼女も、今は憔悴しょうすいしきっており、覇気が感じられない。


「だから、あまり怒らないで——」

「……」


 ルイーゼに詰め寄っていたリゼッタだったが、大きく息を吐き、肩の力を抜いた。

 そのときだった。


「いいにおいがする」


 不意に、エルフの少女リーフが声を上げた。

 リゼッタもそれに続く。


「確かに良い匂いがするな……ハルか?」


 程なくして、旅団パーティの食事係、ハルが姿を現した。


「皆さん、ご飯ができましたよ」

「お〜」


 リーフが真っ先に駆け寄る。

 リーフは首を傾げて問うた。


「これなに?」

「おにぎりだよ」ハルは無垢なリーフに対して笑いかける。「やっぱ旅と言ったらこれだよね」

「おこめだけ?」

「まさか、聞いて驚け」

「ふおおおお!」

「いや、まだ何も言ってないから……。

 あのな、このおにぎり、なんと味噌みそが入ってるんだよ」

「みそ?」

「そう、味噌」ハルは頷く。「荷台でずっと寝かしてたんだけど、この世界でもちゃんと作れるんだな」


 ハルはリーフに説明しつつ、おにぎりを一つずつ配っていく。

 旅の面々は渡されたものを不思議そうに眺めていたが、まあハルの作ったものなら大丈夫だろうと、次々に食べ始めた。

 瞬間、頬が緩んでいく。


「少し塩っけが強いが、うまいな」


 女騎士リゼッタが感嘆の声を上げる。


美味おいしいですぅ〜〜ハルさん〜〜」


 フィーネが涙声で感想を述べた。

 また泣いてるな、とハルは苦笑する。

 その他、魔法使いルイーゼ、団長のエリスなども感謝の言葉を述べ始めた。


 ——一方。

 ただ一人、ワグナーと竹馬ちくばの友だったガレスだけが、眉をひそめていた。


「気に食わんな」ガレスは腕を組みながらそう言った。「こんなときに呑気のんきに飯の準備をしていたとはな。しかもヘラヘラと笑いおって」

「まあ、そうですね」


 ガレスの嫌味ももっともだった。ハルも、自身の態度が軽薄に見えるであろうことは自覚している。

 ——そのうえで、ハルはなおも笑う。

 まるで、何も意に介していないように。


「腹が減っては戦はできぬ、ですよ」

「また例の異国のことわざか……」


 ガレスはため息を漏らした。


「それに……」


 ハルは、わずかに視線を落とし、やや自嘲気味に言った。


「……役立たずの俺には、これくらいしかできることはありませんから」


 ——暗い影を落として横たわるワグナーの遺体を見ながら、そう言った。


「……そこまでは……」


 さすがに言い過ぎたと思ったのか、ガレスは言葉をバツの悪そうな顔をした。

 ……そして、それ以上は何も言わず、ハルの作ったおにぎりを口にした。

 しばらく咀嚼した後、ポツリと呟く。


「……なるほど、独特な味だが——旨いな」


 強張こわばっていたガレスのほおが、わずかに緩んだ。

 味噌の塩気と米の甘味が効いているのだろう。

 最初は怪訝けげんな顔で口にしていたが、次第に食べる手は止まらなくなり、気づけば二つ目に手を伸ばしていた。

 ようやく食事を摂り始めてくれたガレスを見て、ハルは安心したように息を吐いた。


「大丈夫ですよ」


 ハルは穏やかに告げる。

 自身に言い聞かせるかのように。


「この旅団は最強です。あなたたちなら、必ず魔王を倒せるって——俺は信じてますから」


 ——そして、一晩明けて。

 腹を満たした彼らは、再び魔王の城へと歩み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ