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現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
神域に生まれた子

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第八話 守りたいもの

宙船そらふねは静かに高度を下げていた。

学校の透明な門が見える。

座席のランプが一度だけ「カチッ」と光った。


その一瞬、光が“遅れる”ように感じた。


(……まただ)


昨日も、今朝も。

世界が、少しだけ噛み合っていない。


その瞬間、床がすっと傾いた。


「……え?」


言葉より早く、景色が動いた。

森がぐんと寄ってきて、透明な窓いっぱいに木の枝が広がった。


サラが叫んだ。

「ちょ、ちょっと……下がってるよ!?」


ミケが毛を逆立てる。

「ニャ――これ、止まってないニャ!」


そらふねはまっすぐ門に向かうはずだった。

なのに、ほんの少し、横にズレて――


まるで“神の導き”から外れて滑っていくみたいだった。


(なんだこれ……)


サラがぼくの手をぎゅっと握ってきた。

「アオ……こわい……」


その声が胸の奥に刺さる。

昨日の“俺が始まる”という気持ちが、

一瞬で、鋭い警戒に変わった。


床の光がまた点滅する。

「ピッ、ピッ――」


その点滅のテンポが、妙に不規則に感じた。

規則制御のはずなのに、まるで“迷っている”みたいに。


次の瞬間、木の枝が窓いっぱいに迫った。

避けられない速さ。


サラがぼくの顔を抱き寄せる。

震える声。


「アオ、目つぶって……!」


目を閉じたら終わる。

そんな気がした。


(終わるのは、俺じゃなくて……サラだ)


(……やめろ)


頭の中で、何かがはじけた。


(サラに、触るな)


次の瞬間、世界が変わった。


手が勝手に動く。

右手を前へ――ただそれだけ。


(動け、動け、止まれッ……!)


心の中の叫びと同時に、


――世界が、静止した。


音も、揺れも、ミケの叫びも。

ぜんぶ、遠い膜の向こう側に置き去りにされた。


木の枝が目の前にある。

だが、遅い。

まるで粘土の中を進むみたいに遅い。


右手の先で、空気が波打った。

電子ノイズのような“パチパチ”とした感覚が走る。

透明な膜が、わずかに光った。


枝が、ぐい、と横に滑った。


そらふねが枝をかすめずに通過した。


音が戻った。


「っ……!」


今度は、機体が急に落ちた。

――そう認識した瞬間、胸の奥がひりつく。


支えを失ったみたいに、地面へ引き寄せられる。


サラの悲鳴。

ミケの叫び。


「アオ――!」


考える前に、サラを抱き寄せていた。

身体が勝手に動く。

カイルだった頃の反射なのか、アオの本能なのかは分からない。


そらふねが、ごとん、と落ちる。

衝撃は軽い。

草の上に投げ出されるようにして、止まった。


静かになった。


サラが、ぼくにしがみついている。

小さな指が服を掴んで、離れない。

息が乱れて、言葉にならない音だけが漏れている。


「……アオ……」


名前を呼ばれただけだった。


ぼくは、抱きしめ返すことしかできなかった。


ミケが、大きく息を吐く。

「ニャ……今の……なんだったニャ……」


答えられない。

右手が、まだ熱い。

内側から、じりじりと焼けるみたいだ。


サラが、ゆっくり顔を上げた。

涙で濡れた目が、ぼくを見ている。


「……こわかった」


そう言って、また胸に顔を埋める。


「でも……アオが、ここにいたから」


胸の奥が、ちくりと痛む。


そらふねが完全に停止し、扉が開いた。


外から、足音がいくつも駆け寄ってくる。

声が重なり、どれも少し震えていた。


「大丈夫か!?」

「子どもは……!」

「……どうして、こんな落ち方を……?」


誰かが、息を呑む。


「警めの光が……入っていない……?」

「そんなはずが……」


別の声が、小さく言った。


「……風、横に流れたように見えなかったか」

「枝が……避けたような……」


それ以上、続かなかった。


ぼくは何も言わなかった。

言えなかった。


サラは、まだ手を離さない。

涙の跡を袖で拭って、

少しだけ、口元を持ち上げた。


「……また、乗れるよね?」


ぼくは、うなずく。


「……うん。たぶん」


手のひらだけが、

ずっと、熱いままだった。


(ほんとは、分からない)


でも言う。

言わないと、サラが泣くから。


草の上に伸びたそらふねの影が揺れる。

太陽はきれいなのに、

視界の端だけが、ほんの少しだけ暗く沈んでいた。


(昨日の“俺が始まる”。あれは……)


胸の奥で、なにかがゆっくり回りだす。


(――やっぱり、間違いじゃなかった)


気づかれないように、サラの手をそっと握り返した。

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