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現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
第三章 特別教育機関

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第三十七話 適正検査

  午後、ロッドに導かれて向かったのは、施設の中でも奥まった区画にある一室だった。


 廊下を折れ、最後の扉の前でロッドが一度だけ立ち止まる。


「こちらです」


 低く告げて扉を開く。


 中へ足を踏み入れた瞬間、空気が切り替わった。


 広さはあるが、無駄がない。

 中央には長机が一つ。周囲に椅子が整然と並び、壁面には淡い光を放つパネルが配置されている。

 講堂でも会議室でもない。だが、用途ははっきりしていた。


 すでに、数人が席についていた。


 全員、着席したまま動かない。

 それでも、入室した瞬間から視線は揃っている。

 こちらを“見る”というより、到着を確認している――そんな空気だった。


 ロッドは自然な動作で一歩前に出る。

 フジワラは入口脇で足を止め、場全体を見渡す位置に留まった。


「それでは」


 ロッドが、静かに口を開く。


「これより、碧殿の特別教育を担当する教員をご紹介します」


 最も手前の席にいた男が立つ。


「ミナトと申します」


 低く、落ち着いた声。


「数学、物理、倫理を担当いたします。

 本日より、碧殿の基礎教育を受け持ちます」


 一礼。角度は浅いが、正確だった。

 感情を挟まない、職務としての挨拶。


 続いて、隣の席の人物が立ち上がる。


「カノウです」


 背筋は伸び、動きに無駄がない。


「文化理解、世界史、および公式見解の説明を担当します。

 必要な情報は、段階に応じて提供いたします」


 規則を前提とした話し方。

 柔らかさはないが、拒絶もない。


 ロッドが一拍置き、自身も一歩前に出る。


「改めまして、ローデリック・ヴァルクです」


 視線がこちらに向く。


「外界事情と文化理解を担当いたします。

 また、生活面の調整および連絡役も兼任します」


 他の教員よりも、わずかに距離が近い。


 次に、壁際に立っていた大柄な男が前へ出る。


「ゲンマです」


 短く、はっきりと。


「体育および実地訓練を担当します。

 必要な訓練は、段階的に実施いたします」


 言葉は少ない。

 だが、立ち姿だけで訓練内容が想像できた。


 続いて、端末の前にいた女性が立ち上がる。


「アヤセです」


 名乗りながらも、視線は一瞬も逸れない。

 手元の端末に表示された情報と、こちらとを交互に確認している。


「観測、理解度、適性評価を担当します。

 教育全体の進行管理も兼ねます」


 声は淡々としている。

 瞬きの回数が、他の誰よりも少なかった。


 最後に、ほとんど動きのなかった人物が立つ。


「ハクです」


 一呼吸。


「神の道具、都市インフラ、ならびに安全機構を担当します。

 本計画における環境維持を受け持ちます」


 抑揚はない。


 全員が、同時に着席する。


 室内が静まり返った。


 ロッドは一歩下がり、控えの位置へ戻る。

 その視線を受けて、フジワラが初めて前に出た。


「本日紹介した教員が、碧殿の教育計画を担当します」


 短く、区切る。


「この後、適性検査を実施します。

 本日は移動せず、このまま進行します」


 淡々とした声。

 説明はそれだけだった。


 椅子に座るよう、静かに示される。


 深く息を吸い、視線を前に向けた。

 アヤセが端末を操作しながら、こちらを見た。


「まず、確認します。文字は読めますか?」


 少しだけ間があった。

 だが、答えは決まっている。


「読めます」


 アヤセは小さくうなずいた。


「では、それを前提とした試験を行います。

 画面が表示されたら、指示に従って回答してください」


 合図もなく、空中に淡い光が浮かび上がった。

 透明な板のようなものが、目の前に並ぶ。


(……これ、見たことあるな)


 問題文を追いながら、そんな感覚がよぎる。

 文章を読んで、選択肢を選ぶ。

 次の瞬間には、もう次の問題が出てくる。


(IQテスト……みたいだ)


 時間を気にする必要はない。

 考えるより先に、答えが浮かぶ。

 画面が切り替わる速度だけが、少しずつ上がっていった。


 いつの間にか、最後の表示が消える。


「以上です」


 アヤセの声は変わらない。


 短い移動の後、場所は広い空間に変わった。

 床は硬く、天井は高い。体育館のような施設だった。


「次は身体能力の確認です」


 合図とともに、走る。

 止まる。

 跳ぶ。

 方向を変える。


 単純だが、休む間はない。

 息が上がる頃には、脚が少し重くなっていた。


(……結構、きついな)


 動きながら、視線を感じる。

 全員ではない。だが、いくつかの視線が、常にこちらを追っている。


 測られている。

 そういう感覚だった。


 最後の動作が終わると、短い間を置いて声がかかる。


「以上です」


 次に案内されたのは、天井の高い別室だった。

 広い室内の中央には、視線を引き寄せる何かが、静かに留まっている。


 ロッドが一歩前に出る。


「次は、魔法適性の確認です」


 一度、言葉を選ぶように間を置いた。


「過去の英雄たちは、魔法を使えたとされています。

 ただし、伝承では、多くが成長後、特別な儀式を経てからでした」


 視線がこちらに向く。


「今回は、魔法は使えない前提で準備してきました。

 もし使えない場合、ここで本日の試験は終了です」


 静かな声。


「使えるなら、試験を行います。

 どうしますか?」


 少し考えた。

 だが、迷いはなかった。


「……使えます。

 試験、してみたいです」


 一瞬、ロッドの動きが止まった。

 ほんのわずかだが、確かに。


 入口付近に立つフジワラは、何も反応を示さない。


「……分かりました」


 ロッドが息を整える。


 空中に、立方体が浮かび上がった。

 一辺は、人一人が抱えるほどの大きさだ。

 ハクの端末が静かに反応し、装置が起動する。


「合図が出たら、魔法を、あの四角い箱にぶつけてください。

 属性は問いません。得意なものを、すべて」


 短い沈黙。


「始め」


 熱を放つ。

 風を重ねる。


 立方体が揺れ、表面に光が走る。

 空間の端に、数値が表示された。


 三五。

 三三。

 四〇。

 三八。


 数字が切り替わるたび、立方体がわずかに震える。


「――終了」


 ロッドの声で、動きを止めた。


立方体の光が落ち、静止した。


「最大値は、四〇ですね。

 お疲れさまでした」


 周囲が静まり返る。

 誰も言葉を発しない。


 ロッドの表情は変わらない。

 他の教員たちは、それぞれ端末に視線を落としていた。


「本日の測定結果は、こちらで再確認します」


 ロッドが淡々と告げる。


「詳細なフィードバックは、明日あらためて行います。

 今日はこれで終了です。部屋に戻って、休んでください」


 一拍置いて、フジワラが視線を向けた。


「長い一日でしたね」


 それだけ言って、場を譲る。


 ロッドの案内に従い、部屋へ戻る。

 扉が閉まった瞬間、ようやく周囲の気配が消えた。


 椅子に腰を下ろし、息を吐く。


(……長い一日だった)


 天井を見上げる。

 ようやく一人になれたはずなのに、胸の奥は落ち着かなかった。


 この教育も、この場所も。

 全部が嫌なわけじゃない。


 でも――


(早く、ここを終えて)

(みんなと、また同じ場所に戻りたい)


 それだけは、はっきりしていた。


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