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現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
第二章 守れなかったもの、守りたいもの

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第十九話 守護長の判断

ベイラの奥、

 普段は限られた者しか足を踏み入れない円形の会議室に、

 静かな緊張が満ちていた。


 壁には古い紋章と淡い光の刻印が浮かび、

 ここが単なる話し合いの場ではなく、

 国の進む方向を決める場所であることを示している。


私は、円卓の一席に着いた。

 父としてではない。

 守護長として、ここにいる。


 評議員たちはすでに要件を把握していた。

 よって、前置きは最小限だった。


「レイラン地区、視察申請の件――以上で相違ないな」


 議長の声は低く、抑制されていた。


「英雄の子が、教育開始前に外界を経験する。

 その必要性は、従前より共有済みである」


 別の評議員が続ける。


「ただし今回は、当代グリフォンの同行を含む。

 当該判断の妥当性が、確認事項だ」


 私は一度うなずき、口を開いた。


「結論を述べる。

 当代の同行は必要だ」


 室内の空気が、わずかに張りつめる。


「根拠は三点」


 私は指を折らず、言葉で区分した。


「第一。

 レイラン地区の情勢は、ここ数年で明確に変化している」


「魔獣の出現頻度。

 滅びた集落からの流入。

 人の流れと、土地の歪み」


「各々は小さい。

 だが重なれば、判断を誤らせる」


 評議員たちは黙って聞いている。


「第二。

 英雄の子に外界を見せる目的は、強さの誇示ではない」


「世界は、守られているから安全なのではない。

 多くの判断と犠牲の上に、辛うじて均衡している」


「それを、言葉ではなく現実として見せる必要がある」


 間を置く。


 その前に、ひとりの評議員が口を開いた。


「……一点、確認したい」


 円卓の空気が、わずかに引き締まる。


「当代を外に出すということは、

 守護隊単独では対処困難な事態に対し、

 “切る札”を当初から同行させる判断だ」


「すなわち、

 非常時にのみ投入すべき戦力を、

 常時“見える位置”に置くことでもある」


「承知している」


 私は即座に答えた。


「その前提で、先代とも調整済みだ」


 そして、静かに続ける。


「――第三」


 私は視線を上げ、円卓を見渡した。


「守護という役目そのものが、変わり始めている」


「内側を固めるだけでは不十分だ。

 守る者自身が境界に立ち、

 “何が起きつつあるのか”を自分の目で確かめる時代に入っている」


「これは見回りではない。

 守護という仕組みが、いまも機能していることを、

 内と外に示すための行動だ」


 議長が静かに問う。


「……当代でなければならない、ということだな」


「その通りだ」


 私ははっきり答えた。


 短い沈黙の後、年長の評議員が言った。


「備えは」


「整えている」


「先代とも話は通してある。

 非常時の代替は確保済みだ」


「守護隊の配置も、通常より厚くする」


 議長は目を閉じ、しばらく考え込んだ。

 やがて、静かにうなずく。


「……了解した」


「レイラン視察を許可する。

 通行手続きは、評議会側で整える」


 そして、少しだけ声を落として言った。


「慎重に進めてくれ。

 今回の判断は、これからの時代を測る指標になる」


「承知した」


 私は一礼し、会議室を後にした。


***


 家に戻ると、居間にはいつもの光があった。


 サラは本を読み、

 母さんと短い言葉を交わしている。


 以前より、少し静かだ。

 それでも、ちゃんと“ここ”にいる。


 私は、全員が揃っているのを確かめて、息を吸った。

 ――言葉が喉で止まる。

 父の声だと説明が揺れる。だから、守護長の声で言う。


「……少し、話がある」


 声は、いつも通り低く、落ち着いていた。


 サラが顔を上げる。

 アオも、こちらを見る。


「レイランへ行く」


 一拍置く。


「外界の視察だ。

 守護長の仕事としてな」


「……危ないことはさせん」


 サラの指が、本の端をきゅっと掴んだ。


「明後日、出る。

 家族で行く」


 アオは、思わず背筋を伸ばしていた。

 自分でも、なぜそうしたのかは分からない。


 理由は語らない。

 説明もしない。


 ただ、事実だけを置く。


「初めて見るものも多いだろう」


 私は、サラを見る。


「怖いと思ったら……無理に笑わなくていい」


 次に、アオを見る。


「分からないことがあったら、聞いてくれ。

 答えられることは、全部答える」


 母さんが、そっと頷いた。


「行くこと自体は、公務だ。

 そこは変わらん」


そう言ってから、声を落とす。


「……ただ、気持ちまで

 今すぐ追いつかなくていい」


 サラはすぐには答えなかった。


 けれど、席を立たなかった。

 本を閉じもしなかった。


 アオは小さく息を吸って、うなずいた。


「……分かった」


 それで十分だった。


 無理にまとめる必要はない。


 今は、同じ場所に立てていればいい。


 それでいい。


 すべてが整ったわけではない。

 気持ちが追いついたわけでもない。


 それでも――


 家族で過ごす、最後の夏が、

 静かに始まろうとしていた。

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