表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
神域に生まれた子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/24

第一話 神域ベイラの朝

──何か、大切なものを失う夢を見ていた気がする。

悲しかったはずなのに、目を開けた瞬間、全部が霧みたいに消えてしまった。


ここはベイラ。

森と光に守られた、神域と呼ばれる特別な場所だ。

外の世界とはちがう──ここだけは、ずっと“安全で変わらない場所”なんだと、みんなが言っていた。


家の壁は、朝になると金色に光って、

床には青い線がふわっと浮かぶ。

むずかしい理屈は分からないけど、

“この家は生きてる”って言われると、なんとなく納得してしまう。

(……どういうことだ?)


今日は、ぼくの五歳の誕生日だ。


わくわくして飛び起きた瞬間──

クローゼットがぽん、と勝手に開く。


今日の服がふわっと宙に浮かんで、

ぼくの前まで泳いでくるみたいに近づく。


「……えへへ、ありがとう」


袖がぼくの手を探してきて、じっとしているとひとりでに着せてくれた。

誕生日だから、服もいつもより少しかっこいい。


そして、服を着終えた瞬間──


「おはようニャ、アオ!」


足元にふわっと柔らかい重み。

ケットシーのミケが、ぼくに抱きついてきた。


「ミケ、びっくりするよ」


「今日はアオの誕生日ニャ! 起きるの、ずっと待ってたニャ!」


「ミケのほうが楽しみにしてるんじゃない?」


「してるニャ!!」


尻尾がぴんと立つ。かわいい。


その瞬間だった。


家の外壁が“すうっ”と透けて透明になり、

朝日を背負った大きな影があらわれた。


「……隼丸?」


黒と金の羽毛が光り、獅子みたいな体。

ベイラを守る唯一の戦力──グリフォンの隼丸だ。


家には入れないから、

いつもみたいにテラスに顔だけ近づけてくる。


「おはよう、アオ。今日は早いな」


「今日はぼくの誕生日だから!」


「知っている。守護長どの──お前のお父さんが昨夜からずっとそわそわしていたぞ」


隼丸の目の端がすこし上がる。

……絶対、笑ってる。


ミケが口をとがらせながら言った。


「もっとふつうに『おめでとう』って言うニャ……!」


「祝うべきことは祝う。それだけだ。……おめでとう、アオ」


「うぅ……そういうところニャ……」


拗ねたミケの声が、なんだか可愛い。

そのとき──ふわっと甘い匂いが鼻をくすぐった。

パンの焼ける香りが、ゆっくり家の中へ広がってくる。


「アオ、もう起きてたの?」


透明の壁が消え、お母さんが立っていた。

漆黒の髪が朝の光を受けてゆれ、とても美しかった。


「……おはよう、お母さん」


「誕生日だもの。早起きしちゃうわよね」


 お母さんの耳がぴこっと揺れる。嬉しい時の仕草だ。


「アオー! こっちこっち!」


 手を振っているのは姉のサラ。

 七歳でしっかりしてるのに、笑うと急にやわらかくなって、ぼくはなんだか安心する。


 部屋の隅では、幼いグリフォンのフィオが

 藁の巣ですやすや寝ていた。


「朝ごはん! すごくいい匂いする!」


「ええ、誕生日ですもの」


「アオー! 今日は街に行くぞ!」


 エプロン姿で、お父さん(守護長・常長)が登場した。

 ぼくは「お父さん」、サラは「パパ」、

 隼丸や守護隊は「守護長どの」と呼ぶ。

同じ人なのに呼び方がいっぱいあって、

なんだか別の人みたいで、不思議だった。


「食べたいもの、見たい劇、欲しいもの──全部言っていいぞ!」


「パパ、声おっきい……!」


「誕生日だからな!!」


 サラが笑い、ミケがぴょんっと椅子に飛び乗る。


「ミケもアオと同じもの食べるニャ!」


「ミケ、それ毎日言ってるよ?」


「誕生日はもっと特別ニャ!!」


 朝食は、パンがふわっと浮いて皿に乗り、

 スープが勝手に注がれる。

 

 楽しく食べていると──


 お父さんがふっと真顔になった。


「……お父さん?」


「ああ、ちょっと仕事のことだ」


 お母さんも少しだけ眉を寄せる。


「最近、レイラン地区で……魔獣が増えていてな」


 魔獣。

 よく分からないけど、胸がひゅっと冷たくなる単語。


「隼丸を呼べばいいニャ! 全部やっつければ──」


「そう簡単ではない」


 隼丸が静かに言った。


「私が飛べば、一つの危機は消える。

 だが、空を翔ける時間――その間、誰も守れぬ土地が生まれる。

 強き者ほど、守りきれぬものが増える……そういうものだ」

その声は、風のように静かで、重かった。


 ぼくは分からない。

 でも、隼丸の声の重さだけは、胸に落ちてきた。


 お父さんはぼくの頭をそっとなでる。


「アオ。心配いらんよ。

 金獣きんじゅう黒獣こくじゅうが来ても、

 お父さんは守護長だ。何があってもお前たちを守る。」


「……うん」


 サラが肩に手を置いた。


「大丈夫だよ、アオ。パパは強いから」


 それを吹きとばすように、お父さんが手を叩いた。


「よし! 誕生日だ! 今日は街で遊んで食べて、全部だ!」


「全部は多いニャ!」


「全部やる!」


「やるニャ!?」


 隼丸が大きく翼を広げた。

 朝日で羽が光って、とてもかっこいい。


「良い一日になりそうだな、アオ」


「うん!」


 家族がいて、ミケがいて、隼丸がいて、フィオもいて。


 ぼくは思った。


──この朝が、ずっと続けばいいのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ