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現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
神域に生まれた子

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第十二話 呼ばれた名前

「評議会は、お前を“保護対象”として扱うことにした」


父さんの声が、少しだけ硬くなる。


「神域に関わる“特別な子ども”として、だ」


母さんが、横からそっと言葉を挟む。


「アオ。ここからは、少しだけいやな話になるかもしれない。

でも、全部じゃなくていいから、覚えていてほしいの」


ぼくは、こくりとうなずいた。


(聞きたくない。でも、知らないままのほうが、もっとこわい)


父さんが続ける。


「評議会は、お前の扱いを決めるまで、『正式な名を与えてはいけない』と言った」


「……どうして?」


自分の声が、かすれる。


「名前は“居場所”を作るからだ」

父さんの言い方は、淡々としているのに、どこか悔しさが混ざっていた。


「名を与えれば、その子はその家の子になる。

神域の子どもなら、“誰のものでもない”状態で様子を見るべきだ、と」


母さんが、申し訳なさそうに目を伏せる。


「だから、最初、私たちはあなたを名前で呼べなかったの」


(……名前も、なかったんだ)


胸の奥がひゅっと冷える。

でも、そのすぐあとに、別の記憶が重なった。


――サラの小さな声。


『ななしちゃん!』

『ここだよ、こっちこっち!』


父さんが、ふっと笑う。


「サラが、勝手に“ななしちゃん”って呼び始めてな」


母さんも、肩を震わせる。


「評議会には怒られたわ。“名もなき子に変な呼び方をするな”って」


「でも、サラにとっては“呼ばない”ほうが変だったんだろう。

一緒に遊ぶのに、呼ぶ名前がないなんて」


父さんの目が、一瞬だけやわらかくなる。


「お前は、その頃からサラとよく遊んでいた。

何も分からないはずなのに、サラが泣きそうなときは、いつもそばに座っていた」


「……いまもだよね」


母さんが、小さく笑う。


「サラが困っているとき、あなたは何も言わずに横に座って、ただ一緒にいるでしょう?」


(そんなつもり、なかったけど)


思い返せば、そうしていた気がする。

言葉より先に、体が動いていた。


「評議会は、お前を調べたがった。

神域との“縁”がどれほどあるのか、本当に伝承どおりなのか」


父さんの声が、少しだけ低くなる。


「でもな、アオ。お前は、俺にとって“調べ物”じゃなかった」


その言葉に、胸がじんとする。


「俺は守護長になったばかりで、たしかに責任も重かった。

神域のことも、英雄のことも、たぶん誰よりも真面目に考えていたつもりだ」


父さんは、ぼくをまっすぐ見る。


「それでも、お前を『ただの預かりもの』のままにしておくのは、どうしても嫌だった」


母さんが、静かに頷く。


「時間ばかり過ぎて、何も決まらなくて……

その間、あなたは“ななしちゃん”のままサラと笑っていた」


「心の中では、とっくに決まっていたのよ」

母さんの声が、ほんの少し震える。

「――この子を、うちの子にしたいって」


父さんは、苦笑気味に息を吐く。


「評議会室で言ったんだ」


『この子は、俺の責任で育てる』


「向こうは反対した。“神域の子を個人の家に入れるなど前例がない”と」


そこで俺は、伝承を持ち出した。

『じゃあ、前例にしろ。』

『伝承には“英雄は守護長の手で育てられた”とある。そして、守護長には“緊急決裁権”がある。神域に関わる案件は、最終的に俺が決められる仕組みだ。』と俺は言った」

母さんが、思わず吹き出す。


「本当に言ったのよ。この人」


「……カッコつけたくてな」


父さんが少し頬をかく。


「ただ、その代わり条件を突きつけられた」


英雄プロトコル――という言葉が、静かに落ちた。


「神域に預けられた子を、“英雄候補”として育てるための手順。

昔の伝承に書かれている“英雄の育て方”を、できるだけなぞること」


「神域で心と力を育てたあと、

世界に散らばった“神域のような場所”を巡り、封じられた力を解いていくこと」


「そうすればいつか、また世界を救える。

――そういう“おとぎ話”を、現実の約束にしようとしてきた人たちがいたんだ」


母さんが、少し苦い顔をする。


「私は、本当はそんなものに縛られたくなかった。

あなたに“英雄になりなさい”なんて、言いたくなかった」


父さんも、首を振る。


「だから評議会にはこう言った」


『英雄にするかどうかは、この子自身が決める。

俺たちは、この子が“決められる”ところまで心を育てる。

それが守護長としての責任だ』


静寂が落ちる。


「……それで、合意した」


父さんが静かに言う。


「お前を“守護長の子”として迎え入れる。

ただし、“英雄候補”としての道があることは、いずれどこかで向き合わなければならない」


母さんが、やわらかくぼくを抱きしめる。


「でもね、順番は決めたの。

英雄である前に、まず“うちの子”でいること」


「名前をつけることを、やっと許された」


父さんの目が、少しだけ明るくなる。


「お父さんとおじいちゃんと二人で、ものすごく悩んだぞ。

どう呼ぶのがいいか。どんな意味を込めるか」


祖父――めったに会えない“おじいちゃん”。

守護長になる前の父さんをしごいてきた、秀長ひでながという人だ。


「この星のことを、おじいちゃんは“青と緑の星”と呼んでいた。

青い海、緑の海や森、神域の光。どこを見ても、その二つの色が根っこにあるからだ」


父さんは、窓の外をちらりと見る。

夜でも、森の輪郭は、神域の光に照らされて

うっすらと青く浮かんでいた。


「この星そのものみたいな名前がいい、とおじいちゃんが言った。

ただの願掛けじゃなく、“ここで生きる”という証になる名前」


母さんが、続ける。


「どんなところから来ていても、

どんな力を持っていても、

最後にはこの星で、自分の人生を作っていけるように」


父さんは、まっすぐぼくを見る。


「だから――“アオ”だ」


音も意味も、胸の中央に落ちてくる。


「星そのものの名前。

青と緑をまぜた、深い色の名前。

どこから来ても、最後にここへ帰ってこられるように」


母さんが、少し笑う。


「サラもね、『アオーアオー!』って。

“ななしちゃん”の時よりも、とっても楽しそうで」


サラの笑った顔が浮かぶ。

『アオ!』と呼ぶ声が、胸の奥でよみがえる。


「……それからは、どうでもよくなったの」


母さんの声が、少しだけ涙を含む。


「英雄プロトコルも、評議会も、伝承も。

あなたにとって一番大事なのは、“ここにいていい”ってことだと思ったから」


父さんも、頷く。


「お前は、たしかに特別な生まれ方をした。

伝承にあるような、不思議な落ち方をしてきた子だ」


「だがな、アオ」


父さんの声が少し低くなる。


「それより先に決まったことが一つある。

“お前は、俺たちの子どもだ”ってことだ」


喉が熱くなって、声が出ない。


「英雄になるかどうかは、お前が決めればいい。

世界を助けるかどうかも、お前が選べばいい」


母さんが、ぼくの頭を撫でる。


「でも、どんな選び方をしても――

碧はアオ。……それだけは変わらないわ」


その言葉が、胸の中にゆっくり染み込んでいく。


ぼくは、やっと一言だけ出せた。


「……ありがとう」


それは、今まで言えなかった、たくさんの“ありがとう”が重なった言葉だった。


父さんも母さんも、何も言わず、ただ微笑んだ。


──その夜、何かが静かにかたちを変えた。

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