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現実世界で世界を救った俺、異世界で魔王に転生したみたいだけどなんやかんや世界を救うはめになりそう ~世界を救う魔王の英雄プロトコル~  作者: 足本 弘
神域に生まれた子

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第十一話 選ばれてしまった子

「……どこから話そうか」


父さんが、少しだけ目を伏せた。

母さんは、ぼくの背中に手を置いたまま、静かにうなずく。


「アオ。これは、お前が生まれる前の話だ。……いや、正しくは“ここに来る前”の話だな」


(来る前……やっぱり、“生まれた”じゃないんだ)


胸の奥が、ぎゅっとなる。

でも、耳はちゃんと父さんの声を追いかけていた。


「俺が守護長を祖父から引き継いで、まだ間もない頃だ。ちょうど五年前。……冬だった」


父さんの視線が、少しだけ遠くを見る。


「その年の冬は、ベイラには雪が多くてな。森も、家々の屋根も、白くかぶっていた。

そんな日に“金獣”が現れたんだ」


金獣――この前、話に出てきた、強い魔獣の名前。

ぼくは黙ってうなずく。


「守護長になってから初めての大きな出撃だった。

シェイラからの連絡は早かったが、

レイランの冒険者だけでは押し切れない状況だった。

最悪、街そのものが落ちる可能性もあった」


「……こわくなかったの?」

気づいたら、ぼくの口がそう聞いていた。


父さんは、少しだけ苦笑する。


「怖くないことなんて、今まで一度もないよ。

ただ――それでも行かなきゃいけないから、怖いまま行くだけだ」


(怖くないわけじゃない、のか)


「隼丸と一緒に飛んで、金獣を斃して、……ベイラに戻ってきた。

最初の報告を済ませたあとで、やっと家に帰れる、そう思ったんだ」


そこまで話して、父さんはふっと息を吐いた。


「雪は、まだ降っていた。

森の上には霧みたいな白いもやがかかって、家々の灯りがぼんやり滲んでいた」


ぼくの頭の中にも、その光景が浮かぶ。


「家が見えてきたとき――変なものが見えた」


「変なもの?」


「家の前に、母さんが立っていた。サラを抱いて、空を見上げていたんだ」


母さんは小さく笑った。


「寒かったわよ。サラを毛布でくるんで、外に出るなんて本当はダメなのにね」


「でも、見えてしまったんだ」


父さんが続ける。


「空から、光が落ちてきたのが」


心臓が跳ねた。


「細い光の筋が、雲の切れ間から真っ直ぐ降りてきてな。

雪と一緒に、ふわり、ふわり――でも、確かに“落ちて”きていた」


母さんの手に、少し力がこもる。


「最初、流れ星かと思ったの。

でも、ベイラでは見た事のない動きだったし、途中で止まったのよ。

家の少し手前で、ふっと」


「光の中に、小さな影が見えた」


父さんの声が低くなる。


「俺が着いたときには、もう母さんはそれを抱きとめていた。

雪の上に落ちる前に、腕を伸ばして」


ぼくは、思わず母さんの顔を見る。

母さんは、少し照れたように笑った。


「泣き声が聞こえたの。“ふぇ……”って。

それで、気がついたら走ってた」


父さんが言葉を継ぐ。


「そこにいたのは――」


一瞬、言葉が止まる。


「……お前だ、アオ」


喉の奥が熱くなった。


「冷たくならないように、変な布でくるまれていた。

見たこともない繊維だったが、雪は弾いていた。

顔だけ少し出ていて、赤くて、小さくて、……ちゃんと泣いていた」


「最初に見たとき、心臓が跳ねたわ」


母さんが小さく笑う。


「伝承にあるでしょう? 神域ベイラに“子どもが降る”話」


5大英雄ごっこで聞いた、あの物語。

神様みたいな人たちが、世界を救うために旅に出る話。


「五大英雄の昔話には、神域に“子どもが落ちてくる”場面がある」

父さんが静かに言う。

「それは“英雄の子ども”が来るときの(しるし)だと、言い伝えられている」


「……ほんとうに、あるんだ。そんな話」


ぼくの声は、自分でも小さすぎて驚いた。


「その話を聞いて育ったのは、お前だけじゃないんだぞ」


父さんが、少しだけ笑う。


「俺も、母さんも、祖父も皆、同じ昔話を聞いて育っている。

だから――一目で分かったんだ」


「この子は、ただの迷子じゃない。

“預けられた子”だって」


母さんがそっと付け足す。


「神域にいていい子かどうかを決めるのは、本当は私たちじゃないの。

評議会と、もっと古い“何か”の仕事」


評議会。

さっき、世界の話で出てきた、偉い人たちの集まり。


「だから、その場で評議会に話を上げた」


父さんの声が少し硬くなる。


「『空から子どもが降ってきました』なんて話、本当は信じたくないだろう?

だが、ベイラでは“ありえない話”じゃない」


(おかしいのが“普通”の場所、なんだ)


「評議会は、お前を預かることにした。

少なくとも“正体が分かるまでは”と」


母さんが少しだけ苦い顔をする。


「そこまでは、まだ良かったのよ」


父さんも、ゆっくり息を吐いた。


「問題は、そこからだった」


部屋の空気が、静かに重くなる。


「……そこから先は、次の話だな」


父さんがぼくを見る。


「ここまでで、聞きたいことはあるか?」


聞きたいことは、山ほどあった。

どうやって落ちてきたのか、本当はどこから来たのか――


でも、いちばん聞きたいのは、それじゃなかった。


「……寒くなかった?」


自分でも変な質問だと思った。

でも、口から出ていた。


母さんは少し目を見開いて、すぐに笑った。


「ええ、寒かったわ。でも――抱きしめたらね、ちゃんとあたたかかったのよ」


父さんも、やわらかく笑う。


「泣き声がうるさいくらいには、元気だった」


雪の中に落ちてきた“ぼく”。


あたたかかった、という言葉だけが、胸の真ん中で灯った。


──そして、話は続いていく。

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