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脇役才女の生存戦略 私の初恋が終わるまでと、再会の七年後について  作者: 雪嶺さとり


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2話 ヒロイン登場

「ああ……疲れた」


 講義を終え、真っ先に向かうのは食堂だ。

 食事を取るわけではない。働くのだ。


 週三日の清掃の手伝いを行うことで、ちょっとした賃金とまかないを貰っている。

 それでなんとか食事にありつけるのだ。


 基本は一日一食か二食。

 清掃バイトのまかないと、自室内のプランターで栽培している野菜。あとは、購買のタイムセールで手に入った割引の売れ残り商品。

 プランターは、定期的に提出する実験レポートと引き換えに手に入れた魔術肥料で栽培しているため、通常よりも育ちが早く、食生活を支えてくれている。

 割引された残り物も寂しい財布に優しい価格で、なんとか食べていける状況だ。


 今日のご飯は何かと心を踊らせながら、足早に食堂へ向かう。


 が、その時だ。


「あれ、ベアトリスさん!」

「……っ、ソフィアさん。偶然ね」


 すれ違ったのは漫画の主人公、ソフィアだ。

 金髪をなびかせて颯爽と歩いていた彼女は、こちらを見るなり嬉しそうに駆け寄ってくる。


「今日の授業、大丈夫だった? ごめんね、うちのジュリアンが。あいつ、私が何度注意してもつんつんした態度ばっかり取るんだから!」


 ペアワークのことを言っているのだろう。

 ジュリアンの態度にぷんぷん怒っているが、可愛らしさ満点で全然怒りを感じない。

 さすがヒロインと言ったところだろうか。

 

「いえ。全然、気にしないで」


 だがこの先の惨劇を知っている私にとっては、可愛いソフィアは死神にしかならない。

 必要以上に関わるべきではないだろう。

 どうにかしてさっさと立ち去りたい、のだが。

 

「そうだ、ベアトリスさんっていつも成績良かったよね? もし時間があれば、少し課題手伝ってくれない? これから、セリーヌたちと参考書を買いに行くところなの」

「そ、そうなんだ」

「おしゃれなカフェにも寄るんだ。良かったら、ベアトリスさんも一緒に来ない? ベアトリスさん、いつも一人だし、みんなと仲良くなるきっかけにもなるんじゃないかなって思うの!」


 ソフィアは目を輝かせている。

 学園で浮いているぼっちを仲間に入れてあげる心優しさを発揮してくれるのはありがたいが、残念ながらおしゃれなカフェに行く余裕もお金もどこにも見当たらない。


 そもそも、私が浮いている原因のひとつが、貴族階級なのに奨学生であることだ。

 そのせいで貴族の生徒たちとも馴染めず、かといって平民の生徒からしたら、貴族のくせに奨学金をたんまり貰っている嫌な奴という印象にしかならないわけであって、友達なんてできるわけがない。

 我ながら悲しくなってくるぐらいだ。


「あー、ありがたいのだけれど、私これから少し用事があって……」

「そうだったの……。ごめんね、急に誘っちゃって」


 ソフィアはしょんぼりと落ち込んでしまった。

 胸が痛むがこれ以上財布を痛めつけるわけにもいかない。

 

「いえ。でも、良ければ課題は手伝うわ。何か分からないことがあったら聞いて」

「本当!? ありがとう! じゃあ、これお願いしていい?」

「……ん?」

「生態系調査レポートなんだけど、すっかり忘れてて! 今からだと間に合わないし、ベアトリスさんのものを写してくれればいいから! じゃあ、よろしくね!」


 社交辞令のつもりで言ったのだが、ソフィアは真に受けたのかカバンからレポートを取り出すとドサッと手元に置いてしまった。

 

「うそぉ」


 ルンルンで走り去っていくソフィアの後ろ姿を呆然と眺めるしかできない。

 そもそも、このレポートはとっくの昔に提出し終えていたもので今から提出したところで写したのがバレバレ、成績は付かないに決まっているじゃないか。

 そんなことも知らず、私が全部やってくれれば完璧だとでも思っているのだろう。


 だがそこへ、呆気にとられたままのベアトリスの背後から、足音が聞こえてきた。


「あーあー、真面目ちゃんってばホントに損することしかしないよねぇ」

「!?」


 ジュリアンだ。

 ソフィアとのやり取りを見ていたのだ。

 

「貸して。あいつの課題はあいつにやらせなきゃだろ」


 クスリと笑いながら、手元のレポート用紙をサッと奪い去る。

 そしてそのままソフィアを追いかけていった。


「ソフィア! 待てこら!」

「え!? ジュリアン! ねぇ、ジュリアンもこれから一緒にカフェ行こうよ」


 ソフィアは嬉しそうにジュリアンに抱きついているが、その頭をジュリアンがレポート用紙でぺちりと叩く。

 

「バカ、お前は俺と一緒に居残りだ。カフェはまた今度連れてってやるから、さっさと課題終わらせるぞ。人のもん写してちゃ意味ないだろ」

「えー、だって今からじゃ間に合わないし……」

「だから俺が手伝ってやるって言ってるんだろ。ほら行くぞ。二人で頑張りゃすぐ終わるだろ」

「……うん! えへへ、やっぱりジュリアンは頼りになるな」


 二人は寄り添いながら廊下を歩いていく。

 

 その後ろ姿を存分に見せつけられ、なんとも言えない気分になる。


 なんですかこの青春は。

 漫画だと萌えたけど、ダシにされる当事者視点だとなんか複雑だ。


(知りたくなかった、こんな感情……)


 とりあえず、ジュリアンとソフィア両者にも極力関わるのはやめよう。

 もし次課題を頼まれても、断った方が身のためだ。


(それにしても、ソフィアってあんな子だったっけ……? 確かに、初期の頃は課題に追われてばっかりの落ちこぼれって描写が多かったけど、人にやらせるようなことまではさすがにしてなかったような)


 まさか遠慮なく課題をやらされるとは思わなかった。

 漫画ではベアトリスは仲良しグループの一員に加えてもらっていたようだが、その内部ではただの課題要員扱いだったのかもしれない。

 現実は残酷だ。


(でも多分、『ベアトリス』はそれでも良かったんでしょうね。カフェなんて行くお金もないのに、何度も一緒に行ってたし……)


 友達がいないゆえに、課題の為だとしても、ソフィアのグループにしがみつきたかったんだろう。

 その結果が死だとも知らずに。


「ま、考えてもしょうがない。人の心なんて分からないものだし」

 

 そんなことより、お腹が空いてしょうがなかった。

 漫画の中がどうであれ、ここは現実だ。

 働かざる者食うべからず、と言うように、おしゃれなカフェよりまかないを選んだのだった。

 

 

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