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4. アンジェリカ――曇りゆく瞳と、身代わりの歳月
父の急逝により、カイルは若くして当主となった。
そして父の死とほぼ同時に、抑え込まれていた歪みは一気に活性化し、激しい魔力暴走が始まる。
母アンジェリカは、悲しみに沈む猶予を持たなかった。
彼女が見たのは、息子の破壊的な奔流である。
アンジェリカはカイルを守るため、
その奔流を自らの身体へ逃がし、肩代わりし続けた。
代償として、アメジストの瞳は曇り、
心身は衰弱し尽くし、死期は早まっていく。
だが彼女は、理由を語らなかった。
恨みも、呪いも、真実も。
ただ、最後まで母であり続けた。
アンジェリカが残したのは、告発ではない。
公式の文書でもない。
辺境に根付く古い物語を、
一冊の絵本へ束ねたものだった。
それは呪いの説明書ではなく、
血筋の正当性を訴える文書でもなく、
王家を告発する告発状でもない。
ただひとつの目的のために作られた。
――絶望の淵に立つ未来の子が、
それでも自分を怪物だと信じずに済むため。
こうして城には、いくつもの喪失が積み重なる。
当主ユリウスの死。
双子の失踪。
そして母アンジェリカの死。
残されたのは、若い当主と、埋めようのない孤独。
だが同時に――
物語という名の防壁もまた、確かに残されていた。
第三章は、ここに閉じられる。




