3. 城の森の神隠しと、ユリウスの楔
二百年の末、その年は二つの大きな喪失に塗りつぶされた。
始まりは、安全なはずの城の敷地内、その深い森だった。
同時多発的な魔物氾濫が各地を襲ったあの日、
当主の双子の弟妹――ルナとテオが、行方知れずとなったのである。
記録は乏しい。
ただ、城の内外に争乱の痕跡はなく、
連れ去りか、保護か、あるいは隠匿か、断じ難い。
確かなのは結果だけである。この時、ローゼンベルクの家は底知れぬ喪失を抱え込むことになった。
それから幾ばくかの時を経て、ひとつの死があった。
ユリウスである。
辺境の嘆きの谷、地下深くで古代の魔物が目覚めた夜、当主は討伐の最前線に立った。
戦いのさなか、漆黒の力は限界を超えて奔流し、己の身体を内側から焼いた。
魔力は増える。
本来なら循環し、大地へ還るはずの力が、
出口を失って内側へ押し返される。
その時ユリウスは、遅すぎる理解に辿り着く。
――ローゼンベルクの魔力は、元から壊れていたのではない。
――壊されたのだ。
誰の手によって、とは記録に残らない。
ただ当主は呟いた。
「……王家、か」
このまま暴発すれば、城が、領地が、民が消える。
そして何より、残された幼い息子がすべてを背負わされる。
ユリウスは決断した。
魔力を外へ逃がすのではなく、封じ込める。
呪いの増幅を止めるのではなく、今だけでも留める。
それは勝利の術ではない。
未来へ繋ぐための楔である。
彼は最期、暴発を許さず、
自らの命を楔として力を沈め、
家督を繋いだ。
死と喪失。
ローゼンベルクの家は、その一年のうちに、あまりにも重い代償を支払うこととなった。
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