5話 料理
お昼ごはんは、鶏肉とジャガイモ、その他根菜の具だくさんスープ。大きな鶏肉がごろごろ。カットされた数種類のチーズと塩漬けの冷製肉。そして温められたふわふわのパンとたっぷりのバター。庭の木に生っていた黄色蜜柑の搾りたてジュース。
美味しい……。どれも絶品。
私は、これからは一緒に食卓を囲みたいと希望して、ユースティスとココと同じ卓で食事を頂いた。
最初は全員少し緊張していたけれどすぐに打ち解けて、ココが村の子供達とやる遊びや、ユースティスが庭の家庭菜園で育てている野菜の話、そして私が王都の学園で錬金術を学んでいた話を少し……色々な話をした。
ユースティスは黙って落ち着いた様子で私やココの話を聞いてくれて、丁寧に相槌を打ち、そして、私がこの村へ来る事になった経緯などについては一切触れなかった。やっぱり、ちょっと気を遣われているのかもしれない……。
私も自ら進んで話したい事でもないので、詳細は語らなかった。
昼食後、地下工房にて。
私は深呼吸を一度。
集中する。
まずは<錬金紙>の錬成を開始。これも錬金術の基本材料。よく使うから多めに作っておこう。藁と蒸留水と蛍光石から出来た触媒を錬金釜へ。そしてお次は、仕上がった<錬金紙>と桃スミレ、触媒を混ぜて錬成を行う……。
成功!魔力付帯[痛みを治す]+[回復力++]の2つが付いた<桃色湿布>が完成!
最高の仕上がりです。新鮮な材料が良かったのか、私の腕が鈍っていなかったのか、学園の実習で作ったものより、ずっと強い魔力が付帯している。
私は湿布10枚を茶封筒に入れて、封蝋で封印。
2階に駆け上がってユースティスにその封筒を掲げてみせた。
「でーきたっ!いい仕上がりよ」
「早かったな。どれ……村長にとどけてこよう。喜ぶだろうな」
ユースティスはエプロンを外して、廊下の掃除を中断。
「村長宅に行ってくる。廊下の掃除は帰宅後になりそうだが、いいか?」
「もちろん!」
「ココも行く、ココも行く!」
居間でお絵かきをしていたココが飛んできた。
私は出かける二人を見送り、再び地下の工房に降りた。
さて……。
今日採取した植物で、錬金術の基礎アイテムをいくつか調合しておこうかな?
おかしなものだ。
悠々自適のなにもしない隠居生活を決め込むつもりが、気付いたら錬金釜の前にいる。
私は錬金術……好きだったんだ。
王都にいた頃は、好き嫌いなど考えたこともなかった。
――幼少期から叩き込まれた錬金術。錬金術大国のサンドル王国は、貴族階級なら錬金術の追求は必須。
貴族の子供は、普通の学園ではなく、王立の錬金術学園に通う。
王侯貴族御用達のアカデミーは、高いレベルの教育を施してくれるけど、すごい階級社会でもあった。錬金術に失敗すれば嘲笑され、錬金術で一歩抜きん出れば称賛される。
そこで私はひたすら錬金術に打ち込んでいた。
称賛が欲しかったわけではない。
名門バーネット家の娘として、恥じないように生きるには、それしかなかったのだ。
浮気グセのある婚約者を尻目に、ただ、ひたすらに。
私はなにに駆り立てられていたんだろうか。
何を目的に生きていたんだろうか。
錬金棒を握る手が震える。
明り取りの窓から差し込む光が、橙色に変わりつつある。
私は我に返り、もう一度深呼吸をした。
雑念を捨てよう。
私は錬金釜に向かい、錬金棒を構えた――。
◇◇◇◇
出来上がった湿布は、ユースティスが早々に村長に届けてくれた。
そして、ユースティスが屋敷を出てから一刻ほどしてからだろうか。
ユースティスが帰ってきた。
私は上の階から聞こえるココのかん高い笑い声に気付いて、今日の錬金術を終えることにした。
うん。いい仕上がりのアイテムが沢山出来た!
大成功と言っていいんじゃないでしょうか。
階段を上がり、キッチンに行くと、ユースティスとココが笑顔で迎えてくれた。
油紙に包まれた大きな骨付き肉が、調理台の上に乗っていた。
「なにそれ、お肉!?すごい大きさね!」
「アンジュ、おにく、おにくだよお!」
ココがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
どっしりと置かれた肉は大きくて新鮮、見事な骨付きの牛肉の塊だった。私は興味しんしんで前のめりになってその塊肉を眺めた。
「これは一体どうしたの?」
私の問いに、ユースティスは喜びの滲む落ち着いた声で答えた。
「湿布を届けた村長の家で、今日、大角牛を一頭ほふったそうだ。腰を痛めた村長は、食事で滋養をつけようとしていたらしいが、届けたアンジュの湿布を貼った途端、即痛みがとれて前より元気になったと泣いて喜んでいたよ。大喜びで、捌いた大角牛の肉を分けてくれたよ。アンジュ。お前の錬金術はすごいな。村長が後日、直接アンジュに礼を言いに来ると言っていたぞ。さて今夜は、この肉の塊でローストビーフを作るか……それともステーキでも焼くか。余った肉は氷室で保冷して、それでも余る分は少し干し肉にでもするか」
ステーキ?ローストビーフ?最高!この村に来てから鶏肉と、ハムやソーセージといった塩漬け肉ばかりだったから(それも、とても美味しいんだけれどね)、新鮮な牛肉の料理が食べられるのは感動もの。
私とお肉大好きなココは歓声をあげて喜んだ。
「あ、氷室があるなら、氷は錬成するから任せて!干し肉も、錬金術ですぐ完成出来るから。何か必要な魔力があれば付帯するように作れるわよ。」
「本当か。それは助かる。氷も村の氷室蔵から買うと高いからな」
ユースティスもとても嬉しそう。
私の錬金術が人の役に立っている。
王立錬金術学園では、試験合格、良い成績をとるためだけの錬金術だったけど、ここにはもっと日常に密接した錬金術がある。
自分の役に立つ錬金術。誰かが喜んでくれる錬金術。
こうして――。
婚約破棄で王都を追放された悪役令嬢の私の辺境スローライフは、本当にのんびりまったりとはじまった。
自由を謳歌して、楽しい錬金術生活を満喫。
元勇者、そしてその娘と一緒に同じテーブルを囲んで、笑顔で美味しい料理を食べ、村の人達を元気にして、なおかつ三食昼寝&家政夫付きの追放生活。
後日、私を追放した元婚約者のクリストファーが、ミミに嫌気がさして迎えに来たり、新勇者パーティーがユースティスに戻るよう言ってきてすったもんだがあるんだけど……それはまた後日語らせて?
(続く)
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