37話 秋の雲雀館
二部が開始します。1日2話~3話追加していきます。完結まで執筆済み。二部では、ユースティスとアンジュの恋愛が進展していきます。
工房にて。
私は近くの森で採取した、グリーンハーブをはじめとする材料を作業台に並べた。
行商人に依頼された痛み止めを調合するのだ。
スズ村にやってきた行商人が、宿で足のマメの痛みに苦しんでいたそうだ。そこで彼は噂に聞いた錬金術師の住む雲雀館にやってきた。よく効く傷を癒す薬を求めて。
グリーンハーブと蛍光石の触媒、蒸留水。これが基本の回復薬の材料。
そして私の開発したオリジナルレシピで作るため、黒点キノコも少し。
錬金釜に入れて錬金棒でかき混ぜて……。
魔法発光現象が起きて、錬金釜は光を放ち……もったりとした半透明のクリーム状の回復薬が完成した。
<回復薬>[効果抜群+5]の完成!
これを缶に詰めて……と。
私は宿に向かい、行商人のおじさんに<回復薬>を渡す。特別な魔法付与が付いていることを説明すると、報酬を弾んでくれた。
一缶で銀貨5枚。
うん。いい感じ。
その足で薬屋にも向かい、行商人に渡すより小さな缶入りで卸した。銀貨10枚の報酬を受け取って帰路につく。
雲雀館に戻ると、食事のいい匂いが庭まで流れてきていた。
「アンジュ。おかえり」
「おかえりーアンジュ!きょうはパスタだよ!」
台所に顔を出すと、ユースティスとココが迎えてくれた。
今日の夕飯は……松の実と秋のキノコ、アンチョビのパスタ。春菊とハムを和えたサラダと、焼いたチーズに雪蜜蜂の蜂蜜をかけたものと、黒パン。
食卓も秋色。
キノコとアンチョビのパスタを頬張ると、キノコとアンチョビの旨味がいっぱいに広がる。そして松の実の食感が楽しい。サラダはにんにくの風味が効いていて大人っぽい味。春菊って生で食べられるのね。焼いてあるチーズは近くの村の名産だそうだけど、とてもまろやかないい香り。雪蜜蜂の蜂蜜の甘みがよくあう!
私たちは今日あった事を報告し合いながら食事を進めた。
「塗り薬タイプの<回復薬>、ユースティスにも何缶か渡しておくわね」
「助かる。アンジュの薬はよく効くからな。市場に流れているものとは比べ物にならない即効性がある」
「薬はオリジナル調合してるからね……。王都でも、新レシピの開発が好きだったの。レシピ通りにやっても良い魔法付与がつくとは限らないからね。少しだけ、オリジナルにない材料を足すのがコツよ」
「さすがだ。そういえば、夕刻頃、村長が新聞を持ってきていた」
「新聞?週刊新聞のサンドル・スター新聞?」
「ああ」
大都会の王都では日刊新聞があったけれど、スズ村にはそういうものはまだない。週刊新聞が雑貨屋で売ってはいるけれど……。
「ムルシア王国で勇者パーティーが北の魔物を打ち倒した、というニュースの続報だ。その功績には、サンドル王国の辺境村の錬金術師が調合した、複数のアイテムが貢献している、と書いてあった。今日入荷した新聞を見て、村長は辺境村の錬金術師とは、アンジュのことじゃないかと気付いたようだった」
……え?それ私よね?
私は食事の手を止めて目をパチパチ。
「な、名前は出てないわよね?」
「ああ。詳細は書かれていない。スズ村の事も、アンジュのことも名前は出ていなかったが……」
「良かった。私はひっそり暮らしたいんですからね。一応隠居の身だもの」
「依頼が増えるかもしれないぞ」
「名前が出てないなら大丈夫じゃないかしら?」
私は気楽に言った。
そしてパスタをくるくるとフォークに巻き付けてパクリ。うん。美味しい。
夕飯後、その新聞を見せてもらった。
勇者パーティーは辺境村の錬金術師に感謝を示していると書いてあるけれど……。彼らが全てを自分たちの功績にしなかったのは意外だった。そういえば、あの一件の時も、最後はシドも他の仲間も、暴走するエイドリアナを止めてくれた。血迷っていたけれど、完全に悪い人たちじゃないのかもしれない……。
私は新聞をテーブルに置いて、自室に戻った。
今日は、思ったより疲れた。
早く寝よう。
私は寝間着に着替えると、魔法灯を消してベッドに横たわった。
そろそろ暖房がいるかも……シーツから出たつま先が冷えて、足を引っ込めた。
睡魔が襲ってきて、私の意識はすぐに途切れた。
◇◇◇◇◇
翌朝。
朝食後、ユースティスと一緒にココを幼稚園に送った帰り道。村の広場を通り抜けようとした時。
「アンジュ!アンジュー!」
ダイナが駆け寄ってきた。
「ダイナ。おはよう」
「アンジュ!見たわよ!サンドル・スター新聞!あれ、あんたのことでしょ!?」
「えっ……なんでわかっちゃったの?」
「そりゃあ、この半年、アンジュがこの村で大活躍してたからに決まってるでしょう!サンドル王国の辺境村に現れた凄腕錬金術師といったら、アンジュ・バーネット嬢しかいないんだから!」
わ、私そんな大活躍してる!?
私が戸惑っていると、ダイナは私の手を握りしめてぶんぶんと振るった。
「凄腕錬金術師様と友達だなんて鼻が高いわ!もう、村の人でアンジュを知らない人はいないわよ!みんな薬屋とプリシラの店でアンジュのアイテムを買って、感心してるんだから!井戸水の件もあったしね!あんた、これからもっと忙しくなるかもよ。皆アンジュの仕事には期待してるんだから!」
ダイナは興奮気味にまくしたてた。
そ、そんな。喜んでもらえるのは嬉しいけど目立つのは困る……でも、村に貢献を続けるってこういう風になっていくってことなのかも?
農作業があるといってダイナは風のように去っていった。
私が動揺していると、ユースティスがぽんと肩を叩いた。
彼は珍しく、いたずらっぽく笑ってこう言った。
「凄腕錬金術師様」
「も、もう!からかわないで!」
「怒るな。冗談だ」
私は真っ赤になって、ずんずんと雲雀館に向かって歩き出した。
それにしても、ユースティスも人をからかうなんてことをするのね……ちょっとビックリ。
雲雀館に戻ると、ポストに郵便物が。
私はポストから手紙を取り出す。
私宛の手紙だ。……お母様から。
実家の家紋の封蝋を見て、一気に気持ちが憂鬱になった。居間で手紙を開いて、恐る恐る読む。
――私は一気に血の気が引くのを感じた。
「マジで……?」
(続く)
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第二部は完結まで予約投稿済みです。朝・昼・夜に更新します。




