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【連載版・完結済】婚約破棄&追放された悪役令嬢、辺境村でまったり錬金術生活(元勇者家政夫&その娘の女児付き)  作者: シルク
一部 辺境村の悪役令嬢錬金術師と追放勇者家政夫

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38/51

番外編 アンジュの午後

番外編です。番外編「ユースティスの午前」の午後のアンジュが主役です。

ちょっとした日常回ですが、お楽しみいただけると幸いです。

 長い遠回りの末、雲雀館に帰ってきた。

 私は、工房に降りると言って玄関ホールでユースティスと別れた。


「俺は家の掃除をしている。昼前にココを迎えに出る。昼食の用意ができたら、呼びに来る」


 こうやってユースティスは一日の予定をちゃんと伝えてくれる。

 おかげで私がユースティス親子と生活していて困ることはない。ユースティスはとても細やかに気遣いしてくれて、私のことを考えてくれる。


「わかったわ、ありがとう」


 私は工房に降りて、ふうとため息。


 先程の散歩の意味を考えていた。

 意味なんてないんだろうけど。

 ユースティスの気まぐれなんだろうけど。

 でも、胸があったかくなる素敵な時間だったな。

 ――なんて余韻に浸ってぼんやりしていたらダメ!仕事しなきゃ。


 私は作業台に、調合に必要な材料を並べていく。

 

 基本の触媒、蛍光石の粉。大陸のあちこちで採れるけれど、私はムルシア王国黒の森(フォレ・ノワール)産とサンドル王国モノディオ鉱山産を混ぜたオリジナル蛍光石粉を使う。黒の森(フォレ・ノワール)産を使うとアイテムに込められた魔力が安定するし、モノディオ山産を仕えば、効果が長持ち。この二つを独自の比率で配合する事を思いついたのは十四歳の時だった。


 そして、新鮮なカップ一杯の牛乳。以前調合した錬金植物油。


 香り付けに、夏に収穫して乾燥させた、ユースティスが庭で栽培してくれた薫衣草(ラヴェンダー)


 そして、アイテムを私オリジナルのレシピにするための隠し材料。乾燥した羊の胎盤。手に入れるのに苦労した。

 牧畜をやっている家を尋ねて、無理を言って用意してもらったのだ。

 

 今日作るのは女性向けの高品質保湿剤。顔にも全身にも使えるもの。

 プリシラから依頼されたアイテム。

 これから寒くなるからね。村の人達の手足をヒビやアカギレから守らないと。


 私はまず錬金釜に牛乳と錬金植物油を注ぎ入れる。そしてドライ薫衣草(ラヴェンダー)を入れて、触媒を振りかける。

 錬金棒に魔力を込めてかき混ぜて……魔法発光現象が起きたら、羊の胎盤をすりつぶした粉を少々。

 

 ――釜から放たれる光は一瞬赤く染まった後、白い光に戻り、安定した。


 よし。隠し材料が効いた。

 この加減が難しい。

 本来レシピにないものを入れる加減を間違えると、失敗する確率がぐんと上がる。どの程度の量、どのタイミングで、レシピにない材料を入れるかは、経験と勘に頼るしかない。

 ――今回は成功。

 

 釜の中に、サラッとしたテクスチャの乳白色のクリームが完成した。[効果抜群+4]の魔法付与(エンチャント)付き!

 

 オリジナルレシピだし、香りもつけた。独自の名前をつけようかな。

 <スズ村産薫衣草(ラヴェンダー)全身保湿クリーム>なんてどうだろう。

 

 試しに、手の甲に塗ってみる。油を使ったけどサラッとしていて重たくない。しっとりした質感が肌を守ってくれる感じがする。羊の胎盤が肌の再生能力も活性化させてくれるはず。

 うんうん、いい感じ。

 私は金属柄杓とじょうごを使って、用意した瓶にクリームを入れていく。

 納品用に二十瓶が完成した。

 

 もうちょっと売れる気がする……。余分に作ろうかな?依頼が来てからがいいかな?と悩んでいると、工房(アトリエ)の階段に続くドアがノックされた。

 ユースティスの低くてよく通る声が私を呼んだ。

 

「アンジュ、昼食が出来たぞ」

「はぁい!」


 うん、続きはお昼食べてからにしようかな?


 ◇◇◇◇◇


 ダイニングに行くと、既に料理が並んでいた。

 そして、幼稚園から戻ってきたココが食卓についている。


「アンジュー!きょうはようちえんでね、みんなとおさんぽしてね、おはなつんだの!あとでみてね!」

「ええ、見せてね。ココ」

「今日の昼食は、精霊加護エビ(エンジュカマロン)と秋野菜のアヒージョだ」


 机の上のスキレットの中で、ぐつぐつと油が煮えていい香りが立ち上っていた。

 殻を向いたエビと、マッシュルーム、サイコロ状にカットされた芋のアヒージョ。たっぷりのにんにくと赤唐辛子入。刻んだ玉ねぎが入ったトマトのスープ。そしてトーストされた食パン。


「アヒージョに食パンを浸して食べてくれ」

「はあい!いただきます!」

「いただきまーす!」

 

 旨味たっぷりの油を浸して、トーストを一口。

 にんにくの香りが口いっぱいに広がって鼻に抜けていく!

 そして、精霊加護エビ(エンジュカマロン)とマッシュルームをフォークで刺してパクリ。プリプリに張り詰めたエビの身を噛むと、甘い濃厚な味が舌の上に広がる。マッシュルームの土の香り、にんにくの味とマッチして満足感がすごい……。


精霊加護エビ(エンジュカマロン)って確かルドガンド産よね?」

「そうだ。冷凍モノだが、いいのが手に入ってな。アヒージョが合うと思ったんだ」

「すごく美味しいわ。噛み応えがあって、プリプリしてる!」


 ユースティスも満足そうにアヒージョを食べている。

 カップにはいったトマトスープも一口。お口がさっぱり。ユースティスの作るトマトスープは、全然トマトの酸味がとがってないの。


「このスープの隠し味は?」

「それは……」


 ユースティスは少し首を傾げて考える。


「内緒だ」


 そういって彼はいたずらに笑った。

 

「内緒!?そんな重大な秘密なの!?」

「俺独自のレシピなんだ。仕上げに数種類食材を混ぜている――簡単に再現されたら困るからな」

「もう、意地悪ねえ」

「パパいじわるー。アンジュにいじわるしちゃだめなんだよ」


 ココが笑った。


 結局ユースティスは隠し味を1つだけ教えてくれた。黒糖らしい。なるほど……あと数種類、一体何なんだろう?

 でも私はそれ以上追求しなかった。

 私も錬金術の調合で隠しアイテム使うからね。内緒にしたい気持ちはわかるもの。


 ユースティスは、食後のデザートに梨を切ってくれた。スズ村の農家から頂いたものだって。

 紅茶と一緒に頂いて、秋の果物の芳醇な甘い汁に酔いしれた。

 ああ、秋っていいわね。なんでも美味しくなるんだもの。


「アンジュ、みてみて、おはな!こうえんにさいてたの!」


 ココが大事そうに一輪の花を持ってきた。


「どれどれ。あら。これは……」

 

 それはかわいい黄色い花、陽だまり花だった。


「かわいい花ね」

「うん!ひとつだけもってかえってきたの!アンジュにみせたくて!」

「私に?」

「うん、アンジュ、かみにつけてあげる」


 ココは手を伸ばし、私の髪の毛に陽だまり花をさしてくれた。


「きれいだよ!アンジュ!」

「ふふ、ありがとう、ココ」

「でもこれしおれちゃうねー」


 そう、生花の寿命は短い……だけど、待って!?

 錬金術で急速乾燥させて、錬金透明樹脂で固めれば……。


「ココ!このお花で、髪飾りを錬金していい?」

「れんきんじゅつにつかえるの?」

「ええ、このきれいな状態で長く保存できるように加工出来るわ。やらせてもらっていい?」

「うん!」


 こうして、私は工房(アトリエ)に戻った。

 まずは、陽だまり花のお花の部分だけを切り取って、乾燥砂、触媒とともに錬金釜へ。

 陽だまり花のドライフラワーが完成。

 そして、陽だまり花と錬金透明樹脂、触媒を入れて……完成をイメージして錬金棒を振るい……完成した。

 丸い透明な樹脂の中で、陽だまり花がきらめく。

 その樹脂の裏に、錬金接着剤で金属のヘアクリップを接着して……出来た!

 <陽だまり花のヘアクリップ>!


 私はすぐに一階に上がって完成品をココに見せた。


「わあー!おはなのかみかざりだあ!」


 ココは目を輝かせてクリップを手に取った。


「かわいい!アンジュ!これつけてあげる!」

「いいの?私がもらっちゃっていいの?」

「うん!アンジュにとってきたんだもん!」


 ココがヘアクリップをつけてくれた。


「かわいい、アンジュ!」

「ああ、似合ってるぞ。アンジュ」


 ユースティスもココの後ろで静かに微笑んでいる。


 なんだか照れくさいけど嬉しいな。


「――これで長い間、きれいなまま使えるよ。大事にするね、ありがとう。ココ」


 私はココを抱きしめた。

 蜂蜜色の巻き毛に鼻を埋めて、ココの甘い匂いをかいだ。

 こういうちょっとしたことが、すごくうれしい。

 ココが私のためにとってきてくれたお花。長く、大事にするからね。


 午後の暖かな時間が過ぎていく。

 ココははしゃぎ疲れると、居間のソファで眠りはじめた。


「すっかり寝てしまったようだ。すまない、ベッドに連れていく」

「いいのよ。ここで寝かせておいてあげて」


 私は自分の上着をそっとココにかけてあげた。


「ゆっくりお休み……」

 

 その様子を、ユースティスは優しいい笑顔で見守っている。


「ありがとう、アンジュ。俺にも、ココにも良くしてくれて」

「そんな。三人暮らしだもの。今は私もココを――家族だと思ってるわ」

 

 娘って言おうとして、それはいきすぎかも!と思って家族と表した。

 この方がいいよね?


「家族――か」


 ユースティスは噛みしめるように言い、目を伏せて微笑んだ。


「いいものだな……。家族との定住……俺にはない体験だ。孤児院での暮らしもあったが……こうして一つの家でココとお前と……いや。なんでもない。掃除をしてくる。ココが寝ている間、二階のアンジュの部屋を掃いていいか?シーツ交換もする」

「え。ええ。お願い」


 なにか話を変えられたような。

 でも、その方がいいんだ。

 油断と近くなりすぎちゃう!

 一応彼は家政夫で、他人。家族じゃない。でも……私は家族みたいに思ってる。

 

 私は工房(アトリエ)に降りて、錬金術に励んだ。

 今後使うかもしれないアイテムを次々と錬金していく。


 うーん、それにしても。


 どうしても採取だけでは足りない材料がでてきてしまうな。

 王都だったら街の錬金術ショップで買えるんだけど……。

 王都には戻れないし、他の街にも錬金術ショップはありそうだけどな。

 私は近くの大きな街を思い浮かべる。

 スズ村はサンドル王国のカンポス州に位置する。内陸部、国の南西部で、お隣のベルモンテ州を抜ければ自由国境地帯、そしてさらにその先には隣国ルドガンド王国が広がっている。

 カンポス州の州都はサン・カンポの街。

 来る途中に通ったけど、大きな街だったな……。

 錬金術の材料や道具を見に、一度行ってみようかなあ?


 そんな事を考えながら錬金術書をめくっていく。


「これ、いいわね。これならあるもので作れる」


 ふと見つけた<温熱袋>。冬でもポケットに忍ばせておけば暖かい袋。これがあれば、寒い冬外に出ても袋を握ればぽかぽかだ。

 

 材料は太陽石と竹炭、蛍光石の触媒。錬金紙と麻布。

 太陽石は紅葉渓谷に行った時、数個採取している。

 あとは基本的な材料だからストックがあるしね。

 

 私は材料を集めて釜に入れて、錬金棒を振るう。

 

 複数個の<温熱袋>が完成した。

 これはココにも登園の時持ってもらおう。これから冬がくるからね。一つはユースティスに。一つは自分に。

 残りはスズ村の雑貨屋さんに置いてもらおうかな?

 

 私は錬金術を続ける。

 時間も忘れて調合に励んだ。


「アンジュ。仕事中か?夕飯がもうすぐできるぞ」


 工房の扉がノックされた。ユースティスの声が私を現実に引き戻す。

 もう夜!?

 夢中で作業に励んじゃった……。


「ありがとう!今上に行くわ」

 

 道具を軽く掃除して一階へ上がる。

 ダイニングに行くと、既にいい匂いが漂っていた。


「今日はラタトゥイユだ。朝と昼ご飯が少し重かったからな」


 そういってユースティスは大皿を並べていく。

 

「ラタトゥイユ、いいわね。お野菜がいっぱいとれて体に良さそう」

「ココおやさいだいすき!」


 ココもニコニコだ。

 今日の夕飯は、薄いベーコン、なす、ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎなどがハーブと一緒に煮込まれたラタトゥイユ。バターナッツ・スクワッシュで作ったというかぼちゃのスープ、ほうれん草とナッツのサラダ、白パン。

 まずはサラダからいただく。新鮮なほうれん草と、ナッツのカリカリした食感がたのしい。ドレッシングはシンプルだけど旨味がしっかりある。すりおろした玉ねぎがはいっているそうだ。ラタトゥイユはトマトの風味が野菜に染み込んで良いお味。スープは濃厚でクリーミーなのに後味がしつこくない。

 野菜中心でも満足感はしっかりあるのがすごい。

 味付けの多様さと、ナッツやハーブで風味がつけられているせいだろうか?

 ここに来てから、本当の美食の楽しみを知ってしまった……。もう王都の実家には戻れないだろうな……。


 デザートには、生クリームとリコッタチーズの中にドライフルーツが入ったカッサータ。半冷凍状態で、アイスクリームのようなケーキなような、不思議なデザート。

 すっとフォークが通るくらいに溶けていて、口に運ぶとリコッタチーズの風味と生クリームの風味が混じった官能的な甘さが口いっぱいに広がる。

 

「カッサータ、初めて食べたけど美味しいわ!生地が本当にクリーミーで……感動的!」

「喜んでくれて良かった。ムルシアを廻っている時に食べたんだが、作れそうだったんでな。シンプルなレシピだ。アンジュの作ってくれた生クリームの風味の良さが際立っているな」

「役に立って良かった!ミルクを買ってきたらまた言ってね。生クリームを作るわ」


 ユースティスの料理に、錬金術で作った材料が使われてて嬉しい。


 夕飯後は居間でまったり食休み。

 ココと絵本を読んだり、のんびりすごす。


「アンジュ。ココ。月がきれいだ。表庭に出てみるか?」

「いくー!」

「ええ。いくわ」


 私はここの手を引いて玄関を出た。


 魔法灯に照らされた門の上の方……大きな満月が青白く光っていた。

 神秘的な光りがスズ村の家々の屋根を照らしている。

 遠くで鳴く虫の音も、幻想的だ。

 月に照らされたスズ村は、精霊の加護なる安寧の息吹で静かに眠っているかのようだった。


「東方では、秋の満月の夜、菓子を食べてお月見をするそうだ」

「へえ、素敵ね。お花見じゃなくて、月見ってことね……」

「おつきさまのもようはうさぎさん!」


 ココは月を指さして言った。

 ユースティスはココを抱き上げ、月に近づけてあげる。


「うさぎさんがみえるよ!」

「人の顔じゃなくて?」

「うん、うさぎさん!」


 この辺りでは、月の模様は男の顔に見えるというけれど……そういわれて見ると、うさぎが踊っているようにもみえるような。


「本当だ、うさぎが踊ってるね」

「ココうさぎさんだいすき!だからおつきさまもだいすき!」


 ココは月に手を伸ばした――。

 決して届かないけれど。

 月を掴んでみたいって、私も子供の頃手を伸ばしたな。

 どうして人は手の届かないものにも手を伸ばすんだろう?


「月は無理だが……ココが望めば、きっと欲しいものがいつか手に入るさ」


 月を見上げたまま、ユースティスは言った。


 そう。

 手を伸ばせば。

 欲しいものはいつか手に入る。

 それが夢を持つってことなんだよね。

 

 秋の冷たい風が足元をすり抜けていく。

 私たちは雲雀館に戻った。

 私は<温熱袋>を二人にプレゼントして、寒い日に使うように言った。

 二人はとても喜んでくれた。

 ユースティスとココの笑顔が、私の胸を温かくみたす。

 これから秋が終わったら、冬がやってくるけれど……この二人と一緒なら、温かく過ごせそうだって思っちゃうな。


(続く)

これで一部と番外編は終了となります。

お楽しみ頂けた方、続きが読みたいよ!という方は、評価とブクマで応援いただけると幸いです。

一週間~二週間後に、二部を更新開始予定です。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

感想などもお待ちしております。

いつもありがとうございます。

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