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【連載版】婚約破棄&追放された悪役令嬢、辺境村でまったり錬金術生活(元勇者家政夫&その娘の女児付き)  作者: シルク
一部 辺境村の悪役令嬢錬金術師と追放勇者家政夫

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17話 魔法灯

 染めた反物を服屋に納品した数日後。

 私が錬金術で染め、[涼やか+2]のエンチャントを付与したテラコッタ色の服がスズの村の洋品店で売られはじめた頃。


 朝早く、スズの村の村長が雲雀館にやってきた。


「朝早くに失礼します。アンジュお嬢様にお願いしたいことがありましてな」


 リビングに通された村長は穏やかにそう切り出した。

 

「魔法灯の光芯が必要?」

「はい。スズ村の夏祭りに毎年沢山の魔法灯を灯すのですが……そろそろ魔法灯が古くなってきておりましてね。村でも評判の錬金術師のアンジュお嬢様にぜひ光芯の作成を依頼したいのです」


 村でも評判の錬金術師……。

 私、評判になっていたのか……。たしかに最近、日焼け止めに反物と、続けて錬金術のアイテムを村に卸しているけれど。


「正直言って、スズ村の財政は決して豊かで潤沢とは言えません。魔法灯の光芯は買うととても高い」

「そうね、光芯は一度作れば長持ちはするけれど……沢山買い替えるととても高くなってしまうでしょうね。必要な数は?」

「およそ百ほど……」


 百個の光芯!


「予算は?」

「夏祭り予算から……銀貨十枚……でいかがですかな」


 銀貨十枚。

 スズ村にとっては、決して軽い額ではないはずだ。

 それだけ期待されている、とういうことなのね。


「ええ、材料の採取に行く必要があるけど、いいわ。引き受けます」

「おお、ありがたい!」


 村長は笑顔を見せた。


「スズ村の村祭りは毎年恒例。桃の収穫の終わりに、豊穣を祝い執り行われるのです。村人たちも楽しみにしているイベントです。ありがとうございます、アンジュお嬢様!」

「いいのよ、村長。私も村に馴染むため、期待に応えたいわ」


 村長は何度も頭を下げて帰っていった。

 一応納期として十日ほど時間を貰った。

 さて。

 魔法灯の光芯。

 早速準備しますか!


 ◇◇◇◇◇


「ユースティス。採取に行きたいんだけど、月石が採れる岩場を知ってる?」


 キッチンで掃除をしているユースティスに声をかけた。

 ユースティスは顔を上げ、少し考える様子を見せた。


「月石……白い光る石だな」

「そうそう。魔法灯の光芯を作るのに必要なの。普通は、河原や山の岩場にあるんだけど、この村の周囲で見たことない?」

「ふむ。村から東に行った、紅葉渓谷の辺りで見た気がするな……」

「紅葉渓谷……」

「ああ、山の湧き水が流れる渓谷だ。その周辺で見たような……。村の東門から、半刻ほど歩いた場所だ。俺が知る限り、危険はないはずだ」

「あら、結構近いわね。早速今日、採取に行きたいんだけど、護衛を頼める?」

「もちろん。ココも連れて行っていいか?」

「ええ、危険がないならね」

「助かる。早速準備しよう。昼ごはんの下準備は済んでいる。弁当用に仕上げて包むから、待ってくれ」

「素敵。まるでピクニック気分だわね。ええ、ココと一緒に支度して待ってるわね!」

 

 私はウキウキと二階にあがり、お出かけの荷物を準備。

 使用人部屋で絵を描いて遊んでいたココにもお出かけの準備をしてもらった。


「アンジュー、またさいしゅするの?ココもいっしょにさいしゅするー」

「うふふ、もちろんまた手伝ってもらうわ。ココ、お出かけ用の服と靴に着替えましょう。自分で出来る?」

「できるよー!えっとね、えっとね、おでかけのときはこのふくなの!」

 

 ココはタンスの下の段を開けて嬉しそうに服を引っ張り出しはじめた。

 ふと見ると……。

 床の上の画用紙にはクレヨンで書かれた子供らしい絵が。

 三人の人間と、少し離れた画面の端っこにもう一人、小さな棒人間。

 

「これは……何を描いたの?」


「これはね!アンジュとパパとココ!」

「そうなの。描いてくれたのね……。この端っこの人は?」

「ココのおかあさんなの!たびしてるから、とおくにいるの!」


 ドキッとした。

 ココのお母さん……つまり、ユースティスの元奥さん……。

 あまり触れないようにしてたけど、こうして話を聞いてしまうと、なぜか心臓が跳ねて一瞬息が止まってしまった。


「あのね。またあえるんだけどいいこにしてないとダメなんだって!ココいいこにしてまってるんだ!」


 ……ユースティスの子どもの母親は、勇者パーティーの一員だったはず。現在も、現勇者パーティーの一員として、ムルシア国内を旅して回っているのだろうか。

 どんな気持ちでユースティスと別れたんだろう。

 どんな気持ちでココをユースティスに預けたんだろう。

 ……そして、ユースティスは、ココの母親を今どう思っているんだろう。


 って、なんで考え込んでしまうんだろう!

 私が気にすることじゃないはず!

 想いにとらわれた瞬間、なぜか心に冷たい風が吹いた。私は考えを振り払って、気を取り直す。


「いいね。きっと会えるよ。さあココ、着替えよう。手伝ってあげる!」


 ◇◇◇◇◇


 お弁当を用意したユースティスは鎧をまとい、剣を帯びた。

 そして彼が旅用のバッグを担ぎ、私たちの待つリビングに現れたのは昼の一刻前。


「今から行けば、昼には着くだろう」

「いいわね。出発!」

「しゅっぱーつ!」


 そうやって意気揚々と村の東門に向かったんだけど……。


「紅葉渓谷?今あそこに行くのはやめておきな」


 東門の前に立つ村の門兵が困ったように告げてきた。


「最近、あそこに火喰い狸が住み着いたって話だ。こないだセドじいさんが釣りに行って襲われてな。怪我はなかったんだが、魚を全部置いて逃げ帰ってきたって話だったよ」

「火喰い狸!?」


 火喰い狸。繁殖期になると月石を齧って、その体に光を蓄えてしまう迷惑な魔物。

 私はユースティスと顔を見合わせた。


「下級の魔物だな。問題ない。俺が狩る」

「ユースティスさん、さすがだなあ。もし狩ってもらえたら村の者も助かるよ。あそこは良い釣り場だしなあ。なに、この時期を過ぎたら勝手に山奥に引っ込んでいくと思ってほっておいたんだがね。討伐、おまかせしちゃおうかな」

 

 門兵は呑気に言った。

 

「ああ、採取のついでだ。俺が火喰い狸を狩る」

 

 ◇◇◇◇◇


 一歩村の外に出ると、重たげな葉を茂らせた深い森が広がっている。

 村の東。以前採取に出たのとは違う方面に向かう。

 木々に囲まれた、踏みならされた道を辿り、緩やかな下り坂を下っていく。


「この先が紅葉渓谷だ。秋は紅葉が綺麗だそうだ。前、俺が釣りに行ったのは冬だったが……」

「ココもいったんだよー!おさかないーっぱいとったんだよ!」

「いいわね。何が釣れるの?鮭とか?」


 私の言葉にユースティスは静かに笑った。


「小川だから鮭は無理だな。ヤマメやギンブナが釣れるぞ。今日は釣り竿がないがな」


 そうか。鮭は大きな川にいるのかあ……。都会暮らししか経験したことない私は、ついずれた事を言ってしまうことがあるようだ。


「ちいさいかにさんもいっぱいいたよ!」

「へー!面白いわね。楽しみだわ」


 私たちは呑気な会話をしながら、山道を歩いて渓谷に向かう。

 そして半刻ちょっと歩くと……。


 森が開け、目の前には小川のせせらぎが。

 山の奥から流れてくる水、転がる岩や石!


「ここが紅葉渓谷!」

「ああ。油断するなよ。火食い狸がいるかもしれん。あいつらは夜行性だが、縄張りへの侵入者に気づいたら、目を覚まして襲ってくる可能性があるからな」


 はしゃぐ私を制し、ユースティスは油断無く辺りを見回した。


「ええ……そうね。気をつける。ユースティス、周りを警戒していて。さて……月石はあるかな……」


 私は岩場に降りて、よろよろとおぼつかない足取りで小川に向かう。

 そっと流れる水に手を浸す。

 もう夏が来るっていうのに、水は全身がゾワッとするほど冷たい!


「かにさんいるかな?」


 ココがよちよちとついてくる。


「いるかなー?ねえ、このカニは食べられる?」

「出汁にはなるぞ。少し捕まえて帰るか?」

「いいわね。蟹のスープなんてしばらく食べてないわ」

「えー!かにさんたべちゃだめ!」


 ココが怒り出して、私は慌てて謝った。


「ごめんごめん。ねえ、ココ、河原や水の中で光ってる白い石を探して?川に入っちゃダメよ。危ないからね」

「はーい」


 涼やかな風が渓谷に吹く。

 最近暑くなってきたけど、ここはとても涼しい。自然ってすごいな。都会育ちの私はいちいち森に囲まれると感心しちゃう。


 ゆっくりと辺りを見て回ると、川の中で鈍く白く光る石が……!


「あったわ!月石!こういうのよ。こういうのが十個くらい欲しいの」


 ココはしげしげと私が拾った月石を眺め、キョトンとしている。


「ねーアンジュ」

「んー?」

「ここにはないって。もっとかわのうえのほうにいくとあるんだって!このへんのひかるいしはね、ぜんぶわるいたぬきさんがたべちゃったんだって!」


 またココの不思議な話が……。

 月石があるのはもっと上流ってこと?悪い狸って……。


「だそうだ。アンジュ、移動するか」

「そうね。前もココが採取物を見つけてくれたし……ねえ、ココのこの不思議な力って……」


 私が疑問を口に出そうとした時。

 ユースティスが素早く私とココの前に背を向けて立ちふさがり、腰に帯びた剣を抜いた。


「静かに!いるぞ……!」


 ユースティスは低く言った。


 風が吹き、渓谷の木々を揺らす。水音と葉っぱが揺れる音だけが響く。

 そしてその自然の合奏の奥から……。タン……タン……と規則正しい音が聞こえてくる。

 何も知らなければ、森に誰かいるの?と思っちゃうけど……これは噂に聞く火喰い狸の腹太鼓の音?

 

 ユースティスの肩越しに見える茂みが揺れた。


 葉の影から、赤銅色の獣が顔を出した。

 ギラギラと光る瞳が2つ、私たちを捉えていた。


「オイテケ……ヒカルイシオイテケ……」


 獣は言った。

 人間の声とは違う鈍く低い音で、そう言った。

 魔物が喋った……!


 ユースティスが動いた。彼の動きは電光石火。ほんの一瞬で距離を詰めて、彼の剣はまたたく間に獣を薙いだ。

 獣はシューッという音を立てて岩場に倒れ、その動きを完全に止めた。


「下等な魔物だ。人間のマネをするが、聞いてやることはない……」


 ユースティスはそういって冷酷に剣を収めた。

 

「こいつの毛皮は錬金術の材料になるか?」

「ううん……残念ながら」

「そうか。魔物の気配は消えた。火喰い狸は単独行動だ。この辺りにはもういないだろう。安心していい。さて……少し上流へ行くか」


 私は頷いた。

 ユースティスは本当に強い。下等な魔物とはいえ、一瞬で倒してしまうんだから。

 元勇者、元剣聖というのは伊達じゃない……。

 そして……今朝の事がふと思い出された。

 そんなユースティスは、一体どんな女性と愛し合ったんだろうか。

 なんて。気になってしまうのは、なぜなんだろう。


(続く)

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