16話 友達
「アンジュ・バーネット!捕まえに来たわよ!」
玄関を開けると、元気いっぱいのダイナがそこに立っていた。
後ろには、村の若い御婦人たちが数名。みんなニコニコして、手には布やらかごやらを持っている。
「ど、どういうこと?ダイナ」
ダイナはずかずかと雲雀館の中へ入ってきた。
その後ろから、若い奥さんたちまでぞろぞろ続いてくる。
「まあ~立派なお屋敷だこと。いつも外から見るだけだったんだけど、こんな風になっていたのね」
「さすが名家バーネット家の邸宅だねえ」
みんな玄関ホールでキョロキョロして、左手に左手の居間を見つけるなり、そちらへ直進。
ちょっと、ちょっと!?何事なの?
「婦人会の若手の人たちを一部、ここに呼んだってわけ。」
ダイナがぎゅっと私の肩を抱いた。
「右から、ベルタ、セリア、フローラ。ほら挨拶して?」
「こんにちはアンジュ嬢。ベルタです。布屋の女将やってます」
「こんにちはぁ、アンジュ嬢。セリアよ。私は酪農をやってるわ。乳と新鮮な卵がほしかったら言ってね」
「ごきげんよう、アンジュ嬢。フローラよ。私は酒場でウエイトレスをしてるの。情報通だから、村のことで知りたいことがあったら教えちゃう!」
三名の女性が、次々と挨拶してきた。そして皆勝手にソファに腰掛けて、ローテーブルに布を並べはじめた。
「アンジュ・バーネットです……よろしく……お願いします」
展開が掴めないけど、一応反射的に挨拶する私。
全員が自然な笑顔で、嫌な感じは全然しない。
ダイナが元気良く話しだした。
「今からね、村で仕入れた麻や綿やシルクの反物を、何色に染めるか相談するところなの。染め上がった布は、村の服屋で仕立てて売るのよ。」
「王都から来た商人が、色々染料を見せてくれてね。買ったんだけど、何色のドレスがいいかって所でね。毎年村の婦人会で相談して決めるのよ」
そう言って、フローラはかごの中の瓶を取り出し、テーブルに並べはじめた。
「何色がいいと思う?王都みたいに、色とりどりの服が大量に用意できるわけじゃないからね。この会議で村の夏の流行色が決まるってわけ」
ダイナはそう言って肩をすくめた。
「去年は黄色と、薄い青、くすんだ赤を中心に染め物をしたのよ」
「そ、だから服屋にもそういう色の服が多く並んだわけ。もちろん染色しない布で作った服もあるし、服屋が商人から仕入れた違う色の服も並ぶけどね」
なるほど……。
ココが着ていた黄色いワンピースを思い出す。なるほど、そういうわけだったのね。
私は村に来てから、薄い青のスカートと、染色のない綿や麻のワンピースを何着か買ったけど、そろそろ新しい服が欲しくなってきていた所。
「王都はみんなおしゃれなんでしょう?きっと趣味が良いよ。だから、あなたが今年のスズの村の服の色を選んで!」
「そんな責任重大な!?婦人会の皆さんが好きな色とかにすればいいのでは……」
「それが、毎年選ぶからもう選ぶのにも飽きちゃって。迷子状態で会議が進まないのよね」
ベルタが言った。
「アンジュ嬢!あなたの趣味で選んで!ズバリ、何色が好き?」
私の好きな色……。それは……。
「緋色と、テラコッタ色かなあ……」
王都から持ってきたシンプルなドレスも、だいたいが緋色かテラコッタ色だ。
ダイナが唸る。
「おおー、テラコッタ色っていうのはこれまでなかったわね。染料にある?」
「橙色と茶色を混ぜたら作れるかも……!麻はテラコッタ色にして、シルクは緋色にする?」
「さあ、アンジュ嬢、あなたも座って!」
気づけば、私までソファに座らされて、すっかり会議の輪の中に入れられていた。
「客人か。今紅茶を入れる」
ユースティスが居間に一瞬顔を出して、すぐ台所の方に引っ込んでいった。心なしか嬉しそうだったのは気のせいか?
「アンジュー。おきちゃった~」
そこにココが登場。
「あらココちゃん。お昼寝してたの?」
「やだわ、騒がしくて起こしちゃったかしら」
「ねーこれなにー?なにこれー!」
雲雀館の居間は、かつてないほど騒がしくなった。
私はココを膝に抱き、布地や染料を一つ一つ見せてもらった。
「ねえ、錬金術で染色って出来ないの?」
「出来ますよ。しかも普通に染めるよりムラなく早く出来ます」
全員がどよめく。
「ねえ、村の金庫からお金出すからやってよ!」
「アンジュの腕なら安心してお願いできるよ!あの安眠剤のおかげで、睡眠の質があがって昼間働くのが楽しくなっちゃって!あなたはすごい錬金術師だわ」
「うんうん、日焼け止めもいいのよ。お陰で今年の夏は真っ黒にならないで済むわ」
めちゃくちゃ褒められている……!
なんだか照れくさい。
ユースティスが人数分の紅茶と、出来立ての桃のコンポートを持ってきた。氷室に置いた<急速冷凍箱>を使ったのか、ひんやり冷えた状態で。
「宿無しユース、これあんたが作ったの!?」
「ああ。口に合うといいんだが」
婦人たちは大歓喜。
冷えたコンポートを美味しい美味しいといって頬張る。
沢山作って貰ってよかった……。これって最高のおもてなしじゃない?
ココもコンポートを食べて、とても幸せそうな顔をしている。
会議は夕暮れまで続いて、最終的に綿をテラコッタ色に、麻を紫に、シルクを緋色にすることで話がまとまった。
そして、私が染色を引き受けることで話はまとまった。依頼料は村の税金から銀貨五枚が支払われることになった。安すぎてごめん!と言われたけれど、全然安くなんかない。材料は全部そろえてもらってるんだから。
「納期までに染めて、服屋に届ければいいのね。いい感じのエンチャントを付けられるように頑張るわ」
玄関先までダイナ達を見送った。
「うん、楽しみにしてるよ!」
「今日いきなりおしかけちゃってごめんね!」
「コンポートもごちそうさま!宿無しユースにもお礼を言っておいて!」
「アンジュとゆっくり話せて良かった。あんた貴族の娘にしては、お高く止まらないいい子じゃない!」
皆口々に別れの言葉を告げて、村の方に去っていく。
「ばいばーい、またきてねえ」
ココは彼女らの背中が見えなくなるまで手を振っていた。
「ココ。家に入りましょう。夜が来るわ」
居間に戻ると、ユースティスが食器を下げていた。
「楽しめたか?」
「うん……ちょっとビビり過ぎてたかも。みんないい人だった……誰も、私を醜聞の張本人だなんて、扱わなかった……」
「ああ。この村の人達は皆、優しい。これからも少しずつ、関係が出来てくるさ」
ユースティスはそういって、お盆を持ってキッチンに消えていった。
私はソファに腰掛け、ふと昼間の涙を思い出す。
よじのぼってきたココを抱きしめ、蜂蜜色の巻き毛に顔を埋めた。
「アンジュー、くすぐったい!」
「少しずつ……私にも、友達出来るかも……」
それは、希望。
未来に怯えることなんてない。
私は、私にできることをやればいい。
今をちゃんと生きよう。不安にばかり囚われていても、きっと意味はない。
これから、この村に自分の居場所を作っていくんだから。
(続く)
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