13話 礼金
翌日。
私は<雪蜜蜂の日焼け止め>と<安眠剤>をかごとリュックに入れて『プリシラの店』に向かおうとしていたんだけど……。
「重そうだ。俺が持とう」
「えっいいわよ。なんとか持てるから」
「そういうな。運ばせてくれ。『プリシラの店』に用もあるしな」
ユースティスが『プリシラの店』に用事?
あそこは女性向の化粧品店だと思ったけど……まあいいか。
「じゃあお願いするわ」
「よし。いい子だ」
ユースティスはかごとリュックをひょいと取り上げて、家を出た。もちろんココもついてくる。こうして私達三人は村のメインストリートにある『プリシラの店』に向かった。
◇◇◇◇◇
「ふむ……テクスチャ良し、爽やかな香り良し」
店の中は、やはり化粧品店だった。
カウンターの奥でプリシラは、<雪蜜蜂の日焼け止め>を一缶開けて、自分の手の甲に塗りはじめた。
「これは上等なものだね。日焼け止め効果は本当にあるんだろうね?」
「ええ。レシピ通りに作ったから間違いないわ。材料も新鮮なものを調達して作った上物よ。納品できるのは二十缶。今後追加納品を希望されたら、あと八十缶は作れる材料があるわ」
プリシラは私の話を聞いて、ブツブツ言いながらそろばんを弾きはじめた。
ちらりとみると、ココは店に並ぶ商品をしげしげと見つめ、ユースティスはなにかの瓶を二つ、手にとって見比べている。
何を買うんだろう?男性用化粧品とかあるのかな?
「うん。アンジュ嬢。これ、二十缶を銀貨二枚で買い取ろう」
「えっ、そんなに安いの?苦労して雪蜜蜂の巣をとってきたのに……」
私は提示された額にびっくり。
プリシラさんは呆れたように首を振って言った。
「この村の者たちは、皆王都の者のように裕福ではないのさ。これを一缶、原価の銅貨一枚で売るとしても、村の女の生活費はだいぶ切り詰めなきゃいけないことになるね」
「た。確かに……<雪蜜蜂の日焼け止め>はもともと、貴族向けの高級日焼け止めだから……普通の村の人が買える価格で売れるかどうか、考えてなかったわ……」
「だいぶサービスして二十缶で銀貨二枚だよ。それでも、この村では一週間は贅沢に食べていける額さ。いずれにせよ、貴族のお嬢様にとっちゃはした金だろうがね」
「……私、家のお金で生活していて、仕事するの初めてなの。勉強することばかりだわ。プリシラ、ありがとう。その値段で売ります。追加が必要になったら言って。また作るから」
「で、そっちのアイテムはなんなんだい?」
「これは<安眠剤>。眠りが深くなるアイテムよ。魔法が付与されていて、深く眠れるだけじゃなくて、体力回復効果もあるの。睡眠薬みたいな眠くなる効果はないんだけど。農作業で疲れた人にいいんじゃない?十五瓶。だいたい一瓶百錠位入ってるわよ」
「ほう、いいね。農家に売れそうだ。それは全部で銀貨三枚、どうだい?」
「いいわ。交渉成立ね」
こうして、私は銀貨五枚を受け取った。
これ、自分で初めて稼いだお金だ。
王都での貴族暮らし。当然全て親のお金だった。アルバイトなんてしたこともない。
そんな私が、初めて労働で得たお金を得た……。ちょっとした感動だった。しかも、銀貨五枚って、悪くないんじゃない?
なんだか、胸がいっぱい。
「商売成立!評判次第だが、今後もアンジュ嬢のアイテムを扱ってやってもいい。何かうちで売れそうな物が出来たら、持ってきな」
「ありがとう、プリシラ!ユースティス、ココ、用事は終わったわ」
私が振り返ると、ユースティスは持っていた瓶を店に戻した。ココは退屈そうに床に座っていたけど、ぴょこんと立ち上がり、私のスカートの裾をつかむ。
「おわった?おわった?ココのけしょうすいはかわないの?」
プリシラはしわがれた声で笑った。
「おやまあ、ませたオチビさんだ。いいよ。一瓶この商売のおまけだ。もっておいき。効果はこのアンジュ嬢のお肌が保証してくれるよ。宿無しユース、いいね?」
「ああ。ありがとう、プリシラ」
こうして、ココはプリシラの化粧水を手に入れた。
もうお肌のお手入れをはじめるなんて、おしゃれな子になりそうだ。
瓶を手にしたココは笑顔で店を出て、メインストリートを雲雀館の方に向かって歩いていく。
「ねえ、ユースティス、『プリシラの店』に用事があるって言ってたけど、一体何を見ていたの?」
「リネン類につける香油だ。まだ家に残ってはいるが、新しい匂いでいいものがないか探していてな」
「結局買ってないじゃない」
「ふむ……」
あ。そういうことか。
「……荷物持ってくれる、口実だったんだ。ありがとう」
「さて、どうかな」
ユースティスはいつもの無表情、視線で先を行くココを追っている。
でも、ほんの少し、口の端が緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
結局、また助けてもらっちゃった。
ユースティスったら、私に甘すぎない?
(続く)
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