12話 依頼品と桃
翌朝。地下の工房にて。
私は気合を入れて錬金棒を握っていた。
まずは、錬金釜に雪蜜蜂の蜜蝋を一欠。触媒。蒸留水。錬金植物油。
錬金釜にすべてを入れて、錬金棒に魔力を込めて混ぜる。
錬金釜は魔法発光現象で金色に光り、うっすらと蒸気が立ち上ってきた。
……発光が収まっていく。
そして、錬金釜に出来上がったのは、白色のもったりしたクリーム。
「成功!」
<雪蜜蜂の日焼け止め>の完成!
手をかざすと、魔力付与もうまくいった気配がする。
[効果抜群+5]。
肌につけるアイテムとしては、最高位のエンチャントだ。
これは、大成功!
「やったー!成功、大成功っ!」
私はいそいそとプリシラから預かった平たい缶に日焼け止めを詰めていく。
蜜蝋一かけで約二十缶分ができた。
まだまだ蜜蝋はあるから、追加納品も出来る!
全部の日焼け止めを缶に詰めると、錬金釜を持ち上げて部屋の隅の床にある釜洗い場へ持っていく。洗浄剤と水とたわしでしっかりとクリームを洗い流し、もう一度錬金釜を台にセット。
次作るのは、安眠薄荷を使ったアイテムだ。
せっかく収穫したんだし、新鮮なうちに調合しちゃいたいからね。
そして丹精込めて作ったのは<安眠剤>。
タブレット状に生成してみました。
安眠薄荷と精製水、触媒で作るシンプルな一品。
これは王都ではよく売れる。寝不足気味の貴婦人たちが寝る前に一錠飲むのが定番。うちの母も飲んでいた。睡眠薬ではない。眠りを深く安定させるためのアイテム。
私はそっとタブレットに手をかざす。
魔法付与成功。
[回復力増加+2]。
うん、いい!
深く眠れて体力も回復!最高じゃない。
「これも『プリシラの店』で売れるかも?農作業に疲れた人達が深く眠って、体力を回復出来たらすごくいいじゃない?」
私はタブレットを瓶に詰めて、丁寧に蓋をしていった。
十五瓶ほどの<安眠剤>が出来た。
ふう、疲れた。
錬金釜は魔力と精神力を使う。梱包の体力、集中力も使った。
まだ昼前だけど、一旦午前の部は終了!
階段を上がって居間に行く。
ココとユースティスはいない。
昼ご飯の準備でもしているのかと台所を覗くと、机の上にはお昼ごはんが用意してあり、食事が乾かないように<耐水布>のクロスがかけてあった。
そして、一枚の置き手紙が。
『ココと村内の用事に行ってくる。すぐ戻る。先に食べてくれ。鍋のスープも良ければ飲んでくれ。 ユースティス』
要件のみのそっけない書き置き。無骨なユースティスらしい。
あら。じゃあ、先に頂いてしまおうかな。
用意されたお昼ご飯は、パンチェッタのペペロンチーノと、鍋の中にはオニオンスープが。
私は釜に火を入れるのが面倒で、そのままスープをすくってカップにイン。大丈夫、まだあたたかい。スパゲッティも冷めきってない。
ユースティスは出かけたばかりらしかった。
うん。美味しい。
パンチェッタの塩気と旨味が、オイリーなソースによく合う!隠し味ににんにくとバジルをつかっているのも憎い。そして、オニオンスープの優しい甘み!野菜から出た出汁が本当に甘い。ユースティスったら、レストランでも開けばいいんじゃないかしら?
そんな事を考えたけど、ウチで家政夫やってもらわないといけないしね。採取の護衛もやってもらわなきゃいけないから、レストラン計画は没で。
私は食べ終わった食器を台所の洗い桶につけると、居間で一息。
お茶を出してくれるユースティスがいないから、自分で淹れた<薔薇ベリーの紅茶>を一口。うん。ユースティスが淹れてくれたほうが美味しいわ。なんでだろうな。私料理の才能壊滅的かも?
でも、体力は回復。しっかり魔法が効いている。
さて。引き続き、私は錬金術の鬼になる!
地下工房に降りて、私は再び錬金棒を振るった。
新鮮な材料で、作れるものを作っておくのだ!
私が気合を入れて次の調合を開始しようとした時、上の階からコロコロとした笑い声が聞こえてきた。ココ、帰ってきたのかな?
階段を上がると、ユースティスとココがいた。
ユースティスの手にはかごに入った山盛りの桃。
「おかえりなさい」
「アンジュ。留守にしてすまなかったな。村の者に呼ばれて、初収穫を手伝ってきた」
「スズむらめいぶつのももなんだよー!」
ココは嬉しそうにぴょんぴょんとその場を飛んでいる。
「これでデザートでも作る。――昼は食べたようだな。一人にしてすまなかった、一声かけようか迷ったが、錬金術の邪魔をするのもどうかと思ってな」
「気遣いありがとう。スパゲッティ、美味しかったわ。ところで、すごい量の桃ね」
「ああ、三人暮らしだからこんなに要らないといったんだが……初モノだからと言われてね」
「ジャムにでもするの?」
「そうだな、余ったらジャムがいいだろう。アンジュ、桃は錬金術の材料にはならないのか?」
「んー。ドライフルーツは作れるわよ。後は何かあったかな……香料とかも作れるけど……あっ!牛乳があれば生クリームを錬成出来るわ!そしたらあなた、生クリームと桃で、ケーキが作れない!?」
「牛乳なら新鮮なのが氷室にあるぞ。卵と小麦粉もある!」
『桃のケーキを作ろう!』
私とユースティスは綺麗にハモった。
そして、一拍黙り込んだ後、二人とも、腹を抱えて笑い出した。
ココもつられて笑い出した。
しばらく三人で大笑いして、涙が出るほど笑って――。
午後は工房で生クリーム作りをする私。
そしてユースティスはスポンジケーキを焼いて、ココはお昼寝。
ココがお昼寝から冷める頃には、見事な桃のケーキが完成していた。上にはたっぷり新鮮な桃を乗せてジェル状のナパージュもかけて。
三人で食卓を囲んで、桃のケーキを頂きます。
一口食べると、新鮮な桃の果汁と、クリームの甘さが口の中で溶け合う。口の中が幸せでいっぱい……。
「桃、あまーい!」
ココもにっこりだ。
そして、ユースティスも満足そうに笑みを浮かべている。
「うん、旨い」
幸せそうな二人の笑顔に、私の気持ちも和らぐ。
新鮮な桃のケーキ、素晴らしいお味でした。
こんな幸せな午後、あるかしら?
(続く)
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