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妹が「お姉様の代わりは務まります」と言うので、婚約者も役目も譲りました。ですが務まらなかったようです【連載版】  作者: 本城オブリゲータ


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第十四話 妹はまた、私なら何とかできると思っていたようです

週間ジャンル別ランキングで一位を頂き、日間総合ランキング(連載)でも2位を頂けました。

読んでくださる皆様に、本当に感謝です。

 午後、王宮の外応接室にリューネ公爵家の者たちが呼ばれた。



 父。


 母。


 リネット。


 そして、リネット付きの侍女。


 以前なら、家族が王宮へ呼び出されたと聞くだけで、私は先に謝る言葉を探していただろう。


 けれど今日は違った。


 私の手元にあるのは、差し替えられた招待状の写しと、取次女官の証言をまとめた控え。


 それから、王弟宮と王家儀礼局の連名で作られた正式抗議の書面だった。



 紙は軽い。


 でも、これを見せればたいていの人間は青ざめるだろうと思う程度には重い中身だった。



 外応接室には、私一人では入らなかった。


 クラウディア次席儀礼官。


 記録書記。


 近衛が二人。


 そして、レオンハルト殿下が上座の横に立っている。


 家族の話をするには、あまりに公的な場だった。


 だからこそ、これでよかった。



「本日は、リューネ補佐官の家族としてではなく、王家儀礼局に関わる者としてお呼びした」



 レオンハルト殿下が、最初にそう告げた。


 父の顔が強ばる。


 母は扇を握りしめ、リネットは椅子の端で唇を噛んでいた。


 リネット付きの侍女は、最初から顔色が悪い。


 その顔だけで、もう大半は分かる。



「王女殿下の婚約披露式典に関する招待状が差し替えられました」



 クラウディア次席儀礼官が言った。


 机の上へ、差し替えられた二通の写しが置かれる。


 さらに、持ち出し控え。


 取次記録。


 ルビナ女官の証言控え。


 順番に並べられた紙を見て、母の顔から血の気が引いていった。



「何かの間違いでは」



 父が低く言う。



「王宮の招待状の話が、なぜうちに」


「リネット嬢付きの侍女が、王妃宮装飾確認室の外取次で招待状束に接触しています」



 クラウディア次席儀礼官の返答は、乾いていた。



「その際、北部公爵夫人の甥君の来訪と席に関する未確定情報を確認しようとした。さらに、その後二通の招待状が差し替えられて戻った」


「わ、わたくしは」



 リネットが慌てて顔を上げる。



「ただ確かめたかっただけですわ。北部公爵夫人の甥君が本当にいらっしゃるのか、その席がどこなのか」


「なぜ、それを確かめる必要があったの」



 私が静かに訊くと、リネットは一瞬だけ黙った。


 その沈黙が答えだった。



「ヴェルナー公爵家との縁談が凍結された娘のために、王女殿下の婚約披露式典を縁談の場として使おうとした」



 クラウディア次席儀礼官が、淡々と言った。



「そう記録してよろしいですか」



 リネットの顔が真っ赤になる。


 母が慌てて口を挟んだ。



「そこまで厳しく書かなくても。娘はただ少し焦っていただけで」


「少し、では済みません」



 私は母を見た。



「相手は王女殿下の婚約披露式典です。リネットの縁談を立て直すために、勝手に覗いていい場ではありません」


「家族だぞ」



 父が言った。


 いつもの声だった。


 でも、今日の私はその声に戻らなかった。



「ええ」



 私は頷いた。



「だから、今まで私は何度も家族として処理してきました」



 一呼吸置く。



「でも今回は違います」



 リネットが、泣きそうな顔で私を見る。



「お姉様なら直せるでしょう?」


「直しました」



 私は答えた。



「だから今、こうして証拠も残っています」



 リネットの目が揺れる。


 たぶん彼女は、私が直すということを、ずっと《《なかったことにする》》と同じ意味で考えていたのだろう。


 違う。


 私はもう、なかったことにはしない。



「リネット」



 私は彼女の名を呼んだ。



「あなた、自分が何をしたか分かっている?」


「わたくしは、ただ少し見せてもらうだけのつもりで」


「その《《少し》》で、招待状は差し替えられた」



 クラウディア次席儀礼官が言った。



「王家行事では、それで十分です」



 部屋が静まる。


 リネット付きの侍女は、もう椅子に座っているのもつらそうな顔だった。


 けれど、誰も慰めない。


 今は慰める場ではない。



「処分を申し渡す」



 レオンハルト殿下の声が落ちた。



「リネット嬢付きの侍女は、聴取が終わるまで王宮への出入りを禁じる。今後、王宮行事の取次、招待状、席次に関する一切の接触を認めない」


「はい……」



 侍女は震える声で答えた。



「リネット嬢についても同じだ」



 リネットが息を呑む。



「本件の記録が整理されるまで、王宮行事への臨席希望、取次、面会申請を停止する。リューネ家名義の申し出であっても、王家儀礼局案件については受け付けない」


「そんな」



 リネットが呟く。



「私は、ただ」


「ただ、ではない」



 レオンハルト殿下は短く言った。



「王家の式典に関わる招待状を、家の都合で触らせた。それだけで十分だ」



 母の扇が、膝の上でかすかに鳴った。


 父は、何か言い返そうとして、けれど言葉を飲み込んだ。



「リューネ公爵家には、王弟宮および王家儀礼局より正式抗議を入れる」



 クラウディア次席儀礼官が書面を差し出した。



「三日以内に、当主名で経緯説明と再発防止の誓約書を提出してください。今後、未確定の王家行事情報を私的に求めた場合は、家族間の頼みではなく、王家儀礼への妨害として扱います」


「次があれば、ではありません」



 私は言った。


 父と母が、同時にこちらを見る。



「今回はもう、王家儀礼局の妨害控えに記録されています。そのうえで、さらに繰り返せば、より重く扱われるという意味です」



 ここだけは、はっきり言っておきたかった。


 次があるから甘いのではない。


 今回を記録に残したうえで、次はもっと重くなる。


 そうでなければ、公の線を引いたことにならない。



 母の顔が白くなる。


 父もさすがに言葉を失った。


 リネットだけが、信じられないという顔で私を見ている。



「お姉様、本気でそんな」


「本気よ」



 私は答えた。



「だから、私一人で家へ行かなかったの」



 これが最後の家族扱いだ。


 そう言いたかった。


 でも、もう言わなくてもよかった。


 この場そのものが、その答えになっていたからだ。



「……分かりました」



 最初に折れたのは父だった。


 声は低く、悔しさも滲んでいた。


 でも、少なくとも今日ばかりは分かったらしい。



「誓約書は、当主名で出します」


「お願いします」



 私はそれだけ返した。


 母は黙って頷き、リネットはまだ目を潤ませていた。


 でも、その涙を慰めたいとは思わなかった。


 今は、それより大事なことがある。



「では、通告は以上です」



 クラウディア次席儀礼官が書面を閉じた。



「リューネ家の皆様は、近衛の案内に従ってお帰りください」



 誰も止めなかった。


 止められなかった、と言ったほうが近いかもしれない。



 扉を開ける直前、リネットの小さな声が背中へ飛んだ。



「お姉様ばっかり……」



 私は振り返らなかった。


 その言葉へ答える時期は、もう過ぎている。



 外応接室の扉が閉まると、私は静かに息を吐いた。


 少しだけ手が震えていた。


 でも後悔はない。


 あれでよかったのだと、自分へ言い聞かせる必要もないくらい、はっきりそう思えた。



「戻れますか」



 クラウディア次席儀礼官が訊いた。


 優しい声ではない。


 けれど、仕事へ戻れるかを確認する声だった。


 今の私には、それがありがたかった。



「戻ります」



 私は答えた。



「まだ式典は終わっていませんから」



 王家儀礼局の書記室へ戻ると、机の上には新しい席次案が置かれていた。


 エミルの書き込みがあり、マルタ女官の修正札も入っている。


 私がいないあいだも、ちゃんと動いていた形だ。


 それを見て、少しだけ笑う。



 昔の私なら、家に呼ばれた時点で全部を置いて戻っていた。


 今の私は違う。


 戻った先にも、まだ机がある。


 たぶん、それがいちばん大きな違いだった。



 その瞬間、廊下からかなり速い足音が近づいてきた。


 王妃宮付きの侍女が、息を乱して扉口へ現れる。



「リューネ補佐官、クラウディア次席儀礼官」



 その顔色を見ただけで、ただごとではないと分かった。



「婚約相手側のご母堂が、ご自分の席にはお着きにならないと!」



 書記室の空気が、また一瞬で張り詰めた。


 王女殿下の婚約披露式典まで、もう後戻りはできない。


 そしてよりによって、婚約相手側の母君が席を拒否した。


 最悪に近い種類の火種だった。



 私は立ち上がる。


 家との話は、どうやら終わったばかりで終わらないらしい。


 けれど今度こそ、これは完全に仕事だ。



「理由は?」



 私が訊くと、侍女は青ざめたまま答えた。



「《《この席では、まるで息子が王家へ婿入りしたように見える》》と……!」



 なるほど。


 思っていたより面倒で、でも、思っていた通りの種類の火種だった。

次話は明日の19:40投稿予定です。

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
>「次に王家儀礼に関する私的干渉があれば、 次があるんだ!? 凄い公私混同の甘さで驚きました!
まだ席次は決まっていないというお話では?なぜその段階で婚約相手のご母堂が自分の座る席を認識しているのですか?というか9日前になってまだ席次が決定していないというのは危機的状況な気がします。
王家の式典なのに次は無いって今回は見逃してるけど、 エルシュナにはそんな権限があるの? リネットが婚活してるけど、あと姉から奪った婚約者はどうなったのかな?
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