第704話 バイオリンク人間の中核を発見する
俺達はトラックの中で息をひそめ、ドニプロから離れた場所で休憩を取り、夜になるのを待っていた。ドニプロの軍事拠点に、進入するための計画を遂行するためだ。
「暗くなったぞ」
タケルが、後ろの扉を開けた。
「行くか」
そしてパブロフラードのホームセンターで入手した、四人乗りのゴムボートをトラックから運び出す。シェフチェンコの言う通り、川から都心部へ侵入するためである。そしてやはりドネツクと同じように、明かりは無く、ただ静まり返っているようだった。
「不気味だな」
「ああ、やけに静かだ」
シェフチェンコとクキが周りを警戒しつつ、会話を交わしている。
「こっちには、人の気配がないぞ」
俺が誘導し、人気のない川べりにやって来る。川に船を浮かべて、それぞれに乗り込んでいく。
「これから、都心部に入る。音を立てるな」
オールを上げて、皆が出る合図をした。俺達は静かに川を滑り始め、真っ暗な闇の中を進んでいった。電気がついていない分、こうした隠密行動がとりやすいのが、かえって俺達にとって有利に働いている。都市部に入っても、生活音などが一切聞こえず、車も走っていないようだった。
「ドネツクと……同じか」
「だろうな」
気配感知では、あちこちで人間の気配がするが、どれひとつとして動いていないようだった。俺達は、都市部の川べりにボートを乗り付ける。周りにバイオリンク人間がいないと、気配感知で確認していた。
「服で隠せ」
オオモリが端末を取り出し、服で明かりを漏らさないように隠して、地図を見る。
シェフチェンコが言った。
「丁度、川が交差しているこのあたりにいる。軍事関連施設はこのあたりだ」
「まずは、そこを押さえる」
俺の言葉に、皆が静かにうなずいた。シェフチェンコが、暗視ゴーグルをつけて先に歩きだしたので、俺はそのすぐ後ろをついて行く。何かを感じたら、すぐにシェフチェンコに伝えるためだ。
すぐに、シェフチェンコの肩に手をかけ耳打ちした。
「いる。この近くの建物にバイオリンク人間がいる。迂回しよう」
「了解だ」
そして俺が誘導し、その場所を迂回していくのだった。真っ暗な街並みが、俺達を隠してくれている。それから三十分ほどかけて、目的の施設へとたどり着いた。
「ここか……不気味だな」
「ああ…‥異様に静かだな」
軍事施設のフェンスにたどりついたが、周辺は草木が生え放題だった。日本でもこんな感じだったが、おそらくは、手入れなどをしていないのだろう。人が、まともに動いていない証拠だった。
「まわるか?」
シェフチェンコが聞いて来るので、俺が首を振る。
「ここから入る」
「ここから?」
すぐに村雨丸を抜いた。
「冥王斬」
ジャキ! フェンスが切れ落ちて来たので、俺が片手で受け取る。
「……スーパーウェポンだったか……納得だ」
「いくぞ」
暗闇の中を静かに進み、施設の構内を一気に通り抜けていく。壁に張り付いて建物中の様子を伺うが、やはりバイオリンク人間は、数カ所に固まっているようだった。
「ドネツクと同じだな。やつらは休止時間のようだ」
「……考えたくもないが……」
静かに窓をくりぬいて、そっと地面に降ろす。そこから、仲間達も静かに入り込んだ。
「武器はどこにあるだろう?」
「本来なら武器庫だが……奴らの行動が読めん」
シェフチェンコの言う通りだった。普通の人間でない以上は、常に武器を携帯しているかもしれない。そして、扉を一つ開けた時だった。俺の気配感知が、違和感を告げて来る。
「なんだ?」
「どうした?」
クキが俺に聞いて来る。俺にもよくわからなかったが、通路の奥の施設の中央あたりに違和感がある。
「何か……おかしなものがいる」
「試験体か?」
「いや、違う気配だ。かなり……大きいぞ」
「なんだ?」
シェフチェンコが、俺達に聞いてくる。
「どうした?」
「おかしな気配を感知したんだ。何かが、あるが……分からん」
皆が顔を見合わせた。そこで、ミオも頷いて言う。
「なんとなくわかる。変な生体反応がある気がする」
「確認する必要があるな……」
俺が先行してゆっくりと進む。やはりあちらこちらに、バイオリンク人間が固まっているのが分かる。だが、この奥にいるのは、明らかに違う気配だった。
真っ暗な通路を進むと、幾重にも鉄の扉が立ちはだかった。すべて、剣技で切り裂いていく。
「凄いな……これなら、敵に感知される事も無いか……」
「油断は出来んがな」
そして下に続く階段を見つけ、そこを下っていく。するとそこに、より一層分厚い鉄の扉があった。
「この奥だ。周りを特殊な鉄で囲まれていて、気付きづらかったが……」
「何があるんだ?」
「確認するしかあるまい」
ジャキ!
厚い鉄の扉をくりぬいて俺達が中に入ると、ようやく薄明かりが灯る所に出た。シェフチェンコも、暗視ゴーグルを外す。
「ここだけ……電気が通ってるのか?」
「そのようだ。この奥にいる」
さらに進んでいくと、高さ五メートルほどの、巨大なドーム状の鉄の物体にぶち当たる。
「なんだこりゃ?」
タケルが、そのドームに触れた。
「鉄の……なんか、あったかいぜ」
直径十メートルほどの、そのドームを回ってみると、後部からは太いパイプが出て壁に繋がっている。それを見て、アビゲイルが呟くように言った。
「北極の下の……意識体があった施設にも似てますね」
「確かにな」
その先に、ディスプレイと、操作盤の様な物があった。そこに行って、書かれている内容を読み取る。すると、シェフチェンコが驚いたように言う。
「これは……」
「なんて書いてあるんだい」
「中心核。コア……と読むのだろうな」
「コア……」
「なんのコアだろうか?」
だがそこで俺が言う。
「いすれにせよ、このドームの中は……生体だ」
「生体?」
「の、類だろう」
その巨大なドームの中いっぱいに、その気配を感じていた。するとオオモリが、何かを見つけた。
「見てください!」
オオモリが見ているディスプレイに、奇妙なものが映し出されていた。
「まるで、脳ミソみたいじゃないですか?」
「だが、動いているようにも見える」
「ちょっと、隣にも部屋があるわ」
そこに行って見ると、事務所の様な場所があった。デスクやパソコンが、そのまま置いてある。
「見てみます」
オオモリが言う。
「奴らにバレないか?」
「いや、今、通常回線が死んでますから、端末を触る分には問題ないと思います」
「なるほど」
オオモリが直ぐにパソコンのパスワードを解除し、中に入っているデータを読む。そして驚愕の表情を浮かべた。
「これ……大変です……」
「なんだ?」
「あのドーム、バイオリンク人間の……中継サーバーみたいなもんですよ。これで全てが繋がってる……」
「コア……とはそういうことか」
そこで俺が、アビゲイルに聞いた。
「これを破壊したら、どうなるだろう?」
「恐らく……大勢が仮死状態になるかと」
「それは、厄介だな」
しばらく沈黙していたが、アビゲイルがオオモリに言う。
「ミスター大森。もしBISC製剤がここにあったとしたら、どう仮定しますか?」
「なるほど……このコアに入れると……」
「死ぬことはないのでは?」
「あり得ますね。そして、違う指示が出せるかもしれない」
「シェフチェンコ少佐。この都市で、最も大きな病院はどこでしょう?」
オオモリが差し出した端末を、シェフチェンコが指さして言う。
「ここです。メチニコフ病院」
「では、そこに行って見ましょう」
「目と鼻の先です」
そして俺達は、再び、その不気味なドームのある部屋を抜け、バイオリンク人間に気づかれる事無く、夜の都市へと進んでいくのだった。




