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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第七章 アークパンドラ編

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第703話 平和な田舎町に忍び寄る脅威

 武器をトラックに積み込みながら、シェフチェンコがクキに言う。


「俺が、案内役として、ついて行くのは問題はないか?」


「ああ、シェフチェンコ少佐。助かる、我々は土地勘がない」


「わかった。他は、残ってここで、市民達を守る事になる」


「その方がいいだろう。市民達には、一人でも多くの守りがいる」


「ありがとう。あと、ドニプロにはウクライナ軍事産業の拠点がある。奴らがそこにある兵器を使えば、かなりの脅威になると思うが」


 少佐の重々しい言葉に、クキが目を細めた。


「仕方ない。それでも、俺達は突き止めねばならん」


「わかった」


 そして、俺達が出発する時、タラフが握手を求めて来る。


「あんたが居れば百人力だが、それでも厳しい戦いになるだろう。だが、あんたらに希望を感じている。どうか、仲間達を……市民を救ってくれ」


「最善を尽くそう」


 すると、小さな女の子が、何故か俺のところに来る。


「これ、宝物なんだ。あげる」


 そう言って、小さな熊のぬいぐるみを手渡して来た。


「そんな大事なものを、俺にか?」


「うん。お守りだよ。悪い奴を食べてくれるの」


 俺は少し考えて、それを手にした。


「わかった。俺が必ず、悪い奴らをぶっ潰す。こいつと一緒なら、心強いな」


「うん!」


 仲間達が目を細め、その光景を見ていた。そして、大学教授が言う。


「だが、あんたたちは本当に、このさきの地獄へ行くのか?」


 俺が笑って言う。


「そうだな。敵をぶちのめさないと、気がすまん」


「そうか。では、アビゲイル博士、みなさん。どうかご無事で」


 仲間達が拳を握って、手を突き上げた。朝霧が白く染める中を、俺達はトラックに乗り込んでいく。


「皆も、十分気を付けろ。夜に、明かりは灯すな」


「わかってます。お気をつけて!」


 トラックが出発し、俺がクマのぬいぐるみを眺めていると、ミオが嬉しそうに言う。


「正義の味方に、心強い助っ人ね」


「そうだな……あの子の為にも、絶対にケリをつけねばならん」


 コンテナの小さな明かりが揺らぎ、皆の笑顔が揺れる。そこで、オオモリがぽつりと言った。


「しかし、なんで、ウクライナなんですかね……」


 一瞬、皆が沈黙したが、アビゲイルが言う。


「ファーマー社は、ロシアから追い出された経緯があります」


「そうなんですか?」


「はい。ロシアの大統領が、あの薬品を入れたがらなかったんです」


「なんで、ですかね?」


「残念ながら、そこまでは分かりません。ですが、辻褄はあうかと」


 そこで、シェフチェンコが低い声で言った。


「もしかすると、ロシアは……アークパンドラと戦争をしていた??」


「その可能性は、大いにあるでしょう」


「……それで、ウクライナが……アークパンドラのターゲットになった……」


「あくまでも、可能性の話です。推測の域を出ません」


「ですが、辻褄はあいますな」


「はい」


 少しずつ日が昇り始め、シェフチェンコが懸念を表明する。


「こんなに白昼堂々と進んで、奴らに見つかるのでは?」


 だが、そこで俺が首を振る。


「奴らの気配を感知したら、車を止めてしまえばいい。人が動かなければ、気付かれる事も無いだろう」


 そして、マナもつけ足した。


「あとは、通信妨害されているという事は、相手も通信が使えない可能性があるわ」


「なるほど……慣れてるんだな。やつらの対応に」


 そこで、オオモリが言う。


「もしかすると……これも推測ですが、通信がバイオリンクに影響してしまうのかもしれません」


「バイオリンクに?」


「バイオリンクは、生体同士で情報を共有する技術らしいんですが、従来の方式とはまるで異なるかと。それを発動するためにも、この大陸の広範囲で、通信を妨害する必要があったのかもしれません」


「確かに……辻褄はあうか……」


 今までの状況を見て、それぞれが推測した見解を述べていく。そして俺の聴覚に、何かの音が響いた。


 コンコン!


 運転席の後ろをつつくと、トラックが止まる。ツバサも分かっているようだ。


「どうした?」


「ああ、シェフチェンコ。恐らくは、偵察機が飛んでいる。じきに、あんたにも聞こえるだろう」


 すると、まもなくして、皆の耳にもヘリコプターの音が鳴り響いた。


「あれが……聞こえたのか?」


「そうだ」


 それから、息を潜めてしばらくそこで待っていると、少しずつ、ヘリコプターの音が遠ざかっていく。完全な距離が離れたのを確認し、俺は運転席の後ろを叩いた。


 コンコン!


 すると、トラックは再び走り出す。


「あんたらが、ドネツクまで生きてたどり着いた理由が分かるよ。本物の、人間兵器なのか?」


「そうだ」


 二時間も走ると、シェフチェンコが言う。


「まもなく、パブロフラードという、十万人規模の小さな都市が見えて来るだろう」


「迂回するか……」


「いや、ほかに道はない」


「なら、行くしかあるまい」


「ドネツクがあの状態だ。おそらくは、壊滅しているか、全員が操られている可能性がある」


「それでもだ」


 そして俺達のトラックは、ゆっくりとパブロフラードの町に近づいて行く。だが、トラックが止まり、運転席側のドアが閉まる音がして、後ろのドアが開いた。


「おい! おかしいぞ」


「どうした?」


「見てくれよ」


 俺達がトラックを降りて、その街の方角を見る。すると……。


「車が動いてるな」


「バイオリンク人間かな?」


「生活しているようにも見えるが、というか……耕運機が動いてないか?」


 タケルとクキの会話にもあるように、何か異変などは感じなかった。畑では、農作業をしている。


「どうする?」


「行ってみよう」


 そして俺達が、パブロフラードに入り込んで分かる。この町は、普通に生活しているように見えた。


「ヒカル! どうなんだ? あれは」


「いや、ゾンビ因子を保有したり、していなかったり……だが、操られている形跡がない」


 それを聞いて、クキがアビゲイルに聞いた。


「どう思いますか? 博士?」


「恐らくは……コストパフォーマンスの話かもしれません」


「コストパフォーマンス?」


「人間スープのように維持が大変なのは、ドネツクでよくわかりました。もしかするとバイオリンクは、維持が難しいのかもしれません。はっきりとした事は、分かりませんが……」


 それを聞いて、オオモリが頷く。


「もしくは、バイオリンクの繋がりが保てない可能性もあります」


 マナがオオモリに聞いた。


「ということは、やはり通常回線ではないという事?」


「じゃないですかね。僕も推測なので、はっきりとは言えませんが」


 そこで、クキが皆に言う。


「とにかく調査……の必要がある。トラックをどこかに隠して、街に潜伏してみるか」


 俺達は、トラックを隠した。


「俺とヒカル、そしてシェフチェンコ少佐で行こう」


 クキの言葉に俺達が頷く。


「タケル。みんなを頼むぞ」


「ああ……指一本触れさせねえ」


 そして俺達三人は、徒歩でパブロフラードの街へと入り込んだ。素朴な街で、ただ閑散としているが、人々は普通に歩いている。中心に向かって走り込むと、スーパーマーケットらしき建物が見えて来る。


「普通に……駐車場に車が止まってるぞ」


 クキが言うが、バイオリンクで操られている雰囲気はない。そこで、シェフチェンコも聞いて来る。


「危険ではないか? 一斉に操られたりはしまいか」


「今のところ、意識はバラバラだ」


 俺達は恐る恐る、スーパーマーケットの敷地を歩いて様子を見る。


「子供もいるし……ベンチでアイスクリームを食べてるぞ。ヒカル」


「あれは、操られていない」


 視線も別で、至って普通に生活しているようにしか見えない。そこで、シェフチェンコが言う。


「今日は、学校がある日だ。なのに、あちこちに子供がいる……」


「飲食店に入ってみよう。シェフチェンコは、金を持っているか?」


「ある」


「よし」


 俺達は、ショッピングセンターにある、店に向かってみる。そこで、クキが言う。


「ケンタッキー・〇ライド・〇キンがあるんだが……」


「子供が……いるな」


 そこでは若者たちが、フライドチキンをパクついていた。俺達も店内に入って、適当に見繕って頼む。すると普通に商品が出て来て、金を払った。


「普通だ……」


 俺達は、オープンテラスで食っている、男の子四人組の隣りに陣取った。


 そこで、シェフチェンコ少佐が、少年たちに聞く。


「君ら、学校は?」


「あ、休校だよ」


「休校?」


「ああ、都会から来た奴らが、急に意識を失う病気が続発して、新しい感染症じゃないかって騒いでる。それで、学校が閉鎖されてるんだ」


 俺達は、顔を合わせただ。


「知らなかったな。詳しく教えてくれ」


「ああ。なんか、週末にドニプロに行った連中が、いきなり意識を失って動かなくなったんだ」


「そんな事があったのか?」


「うん。後は、行ったっきり返って来なくなったり。変なことが起きてるんだよ」


「どういう事だ?」


「僕たちに聞かれてもなあ……知らないよ」


「そうか……」


 これ以上、少年たちから聞けることは無さそうだったので、シェフチェンコが少年に言う。


「俺達はそろそろ、行かなきゃならん。良かったら、これを食ってくれ」


「えっ! いいの?」


「ああ」


 フライドチキンを置いて、俺達はその場を離れた。やはり、普通に暮らしをしているのは間違いない。


「クキ、さっきの話は間違いなくバイオリンクだろうな」


「そうだな。ゾンビ因子の入った人が、ドニプロに行って操られた。帰って来なくなったものもいれば、帰って来た者もいるか……」


 すると、シェフチェンコが、何かに気づいたように言う。


「さっきの少年たちは幼い。もしかすると、親が俺達のように、その因子を持ってないのでは?」


「なるほどな……、調べる必要がありそうだ」


「となると、学校に行くのが手っ取り早いか……」


「もしくは病院だな」


 クキの言葉に、俺達は賛成した。皆の場所に戻り、その事を言うとオオモリが言う。


「なるほどですね。では、病院に行ってみた方がいいですね」


 そこで、シェフチェンコが言った。


「屈強な男が、三人で病院に行ったら警戒されるぞ」


「確かに……」


 そこで、アビゲイルが言う。


「ならば、本職が行けばいいのです」


 そういって、エイブラハムを見る。


「じゃな。わしとアビゲイルが行けば、何か分かるかもしれん」


「では、ガソリンスタンドによって、病院の場所を聞くとしよう」


 シェフチェンコが、助手席に乗り込みトラックが出発した。しばらくして、一度止まりまた動きだす。そして、後ろのドアが開いてシェフチェンコが顔を出した。


「病院の前だ」


「わかったのじゃ」

「はい」


 アビゲイルは有名人なので、サングラスをかけて準備をした。そして俺が護衛について、アビゲイルとエイブラハムと共に病院へと入って行く。だが、その入り口で止められる。


「すみませんが、検温をお願いします」


 エイブラハムが聞く。


「感染の事で来たんじゃが」


「失礼ですが、どなたですか?」


 それには、俺が答えた。


「ウクライナ保険省からきた」


 シャーリーンが、そう言えと言っていたのだ。


「ああ! 検査官の方ですか! どうぞ」


 シャーリーンの言う通りにしたら、うまくいったらしく、三人は、すんなりと病院に入る事ができた。そして廊下を歩きながら、その看護師にエイブラハムが尋ねてみる。


「どういう状況かね?」


 いつの間にか、エイブラハムもアビゲイルもロシア語を話ていた。もう、覚えてしまったのだろう。


「体温が著しく低下しており、昏睡状態です」


 アビゲイルが尋ねた。


「遺伝子の検査をする必要があります。この病院に施設は?」


「ありません。ドニプロに行かないと」


「そうですか」


 そうして医局に連れていかれ、アビゲイルが一通り、医師たちに挨拶をした。流石は手慣れたのもで、誰も怪しんでいる様子はなかった。そして、問題の病室に通される。


「こちらです」


 中に入ると、俺にはすぐに分かった。傍らに座っている、親らしきものにゾンビ因子は無い。


「こちら、当局関係者です」


 親に紹介されると、母親が俺達に聞いて来る。


「息子は! 息子は助かるんでしょうか?」


「すまんが、すぐにどうこう出来る病気ではないかもしれんのじゃ。見せてくれるかの?」


「はい……」


 それから、脈を取ったり、寝ている子供の目を見開いたりと、細かく調査し始める。


 そこで、アビゲイルが医者に聞いた。


「BISC製剤を、投与してみても良いかもしれません」


 すると医者が、驚いたように答える。


「あれは、まだ未完成だと聞いています。新薬の投与は、危険を伴います」


「確かに。この病院には、ないでしょうね……」


「残念ながら、このような田舎では、それは入手困難です」


「ドニプロか、キーウですか……」


「はい」


 なるほど、だが手に入れられる方法はありそうだ。そうだとしても今すぐは、何もする事も出来ない。そこで、アビゲイルが言う。


「採血と細胞の検体を、保存して運びます。準備をお願いできますか」


「分かりました」


 それから、エイブラハムが母親に聞き始める。


「いつから?」


「はいドニプロに出かけてからなんです。突然言う事を聞かなくなって、無理やり連れ帰ってきました。暴れるわけでもなかったのですが、帰る途中で突然意識を失って……」


「それで、そのまま?」


「はい。しかも、学校で数人がこの状態だと聞きました」


 エイブラハムが、医者を見ると医者も頷いた。


「その患者は、他の病院に収容されています。でも、どの病院でいくら調べても異常はないんです」


「なるほど……」


 そこで、アビゲイルが言う。


「体温が著しく低いわ……」


 医者も頷いた。


「はい。この状態で生きています。まるで、仮死状態です」


「そうですか……」


 それからしばらく子供を調べ、親の血液と体組織をサンプルとして収集する。最後にエイブラハムが、母親に言った。


「遺伝などでは無いと思うが、この病気が治るように我々も尽力します。あなたも心配だと思いますが、気を落とさずに希望を持ち続けてください」


「はい……」


 そして俺達は検体を入手し、病院を後にする。適当に歩いていると、脇にトラックがそっと止まった。俺達は周りを見て、トラックのコンテナに乗り込むのだった。

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