第697話 勇者、紛争地帯へ
俺達は、国境の監視所を通らずに、森や草原の中を通り抜けてウクライナに入った。道なき道を進み、足が取られれば俺が車を持ち上げた。そのおかげで、バイオリンクに操られている人らに見つからずに、ウクライナに入り込むことができた。
「紛争地帯だけに、もう警察なんかも、機能していないだろう」
「そもそも、車が通ってないですね」
「この先の都市は、恐らく壊滅状態だろうからな」
クキの話を聞きながら走っていると、あちこちに戦闘車両や、焼け焦げた普通の車の残骸が出始めた。もはや、通常の生活が行われている感じはしなかった。
ツバサが言う。
「多分、ドローンが近づいているわ」
「どうするか?」
するとクキが答える。
「恐らく、俺達を確認した訳ではないと思う。偵察機だろうが、墜としていい。敵も味方も無いからな。こんな所を走っているマイクロバスは異常だから、下手をすると攻撃されかねない」
「わかった」
聴力強化を施し、ドローンが飛んでくる方向を捉える。
「空接瞬斬!」
遠くの空に浮かぶドローンが、真っ二つに斬れて落ちていく。
「どうなるか?」
「恐らくは、故障したと思うか、攻撃されたと思うか、破壊された機体を見つけなければ分からないさ」
そこで、タケルが言った。
「で、どうすっかだな?」
「この状態から考えても、通常の状態ではないはずだ。このあたりは恐らく、ロシア側が占領している」
そこで、シャーリーンが言った。
「思うに……この紛争……」
「ああ」
「アークパンドラの、ジェネシスプロトコルオーダーが、絡んでいるんじゃないでしょうか?」
「の、可能性は高いと思う。どちらが、どうなっているかも分からないが。関与は間違いない」
すると、アビゲイルが腕組みをしながら言う。
「ミスターヒカルは、ゾンビ因子の影響を受けていない人いあいましたよね?」
「会った」
「奴らの仲間には、なりたくないと言っていたと」
「そのとおりだ。だから、街にはいかないと言っていた」
「そう言う人……もっといるんじゃないでしょうか?」
「というと?」
「ロシア周辺では、ファーマー社が一部供給をストップしましたから。あの物質が入って来なかった場所もあるはずです。完全にゾンビ因子が無い地域も、あるかもしれません」
「確か、他の国でもそんな事があったか」
「はい」
ゾンビ因子の件が引き金となって、紛争が起きた可能性があるという事だ。
「なんにせよ。やはり、人の平和を奪ってるという事か」
「そう言うことです」
クキが、完全に決断する。
「なら、ドネツクに行けば、何か手がかりを得られるかもしれん。ここからは、最前線は危険だからな。注意して進まねばならん」
「わかった。ドローンは全て撃墜する」
「そうしてくれ」
車通りの無い道を、ひたすら西に向かう。するとそのうちに壊れた家や、ビルが目に飛び込んで来る。ミサイルや爆撃で壊された、学校や庁舎などだった。
「どうするか……兵士が三人ほど歩いてる」
「だが……隊列を組んでないな」
「なにかから、逃げてる感じじゃないか?」
その足取りは重いが、俺達の車を確認すると、林の中に逃げ込んでいった。
「ドローンだ」
俺はまたバスから身を乗り出して、ドローンを消し去る。
「空接瞬斬!」
ドローンは落ち、音は消え失せる。
「どうやら、ドローンに追われてたみたいだな」
「教えてやるか」
クキが、窓を開けて言う。
「ドローンは墜とした!」
だが、特に返事は無かった。気配はただひたすら、俺達から距離を取るように離れていく。
その時だった、遠くから爆音が響いた。
パン!
「……手榴弾か、小型の爆弾だな」
「やはり、紛争は続いている……か」
「そういうことだろうな」
俺達はいつしか、紛争地帯に足を踏み入れていたのだった。
「みんな。念のため窓から離れて、床に座った方がいい」
クキが言うと、皆が座席から離れてしゃがみ込む。
「レベル百解放。気配感知! 最強化! 範囲拡張!」
更に、気配感知の範囲を拡大する。あちこちに点在している気配と、人が固まっているところがある。
「さっきみたいに、少人数でいる奴らもいれば、人数が多いところもあるようだ」
「たぶん、人数の多い所が、敵の駐屯地である可能性がある。それか、中隊規模かも」
「んじゃ、そっちか」
「ああ、気を付けて行ってくれ」
俺の指示で、道を曲がりバスは、人の多い地域を目指す。
「あの森だ」
「なるほどな、でも、どっちの軍隊だ……?」
タケルが言った。
「つうか、どちらにせよ無条件で攻撃されるんじゃねえの?」
「大丈夫だタケル。俺の気配感知の方が、発見が早い」
「りょーかい」
俺達の車が砂利道を走り出すと、その集団に動きがあった。
「俺達に気が付いたぞ」
「攻撃は任せたぜ。ヒカル」
「ああ。進め」
そして俺達は、その人らがいる場所へと進んでいった。
そこで俺は剣技を繰り出す。
「空接瞬斬! 二連!」
ドン! ドン!
「撃ってきた。砲撃だ」
「撃墜したのか?」
「そうだ」
「音が……後か」
俺達はいよいよ、紛争地帯に突入し、どちらの軍か分からない人間達と、交戦状態に突入する。
「恐らくは、ミサイルランチャーの可能性が高い」
「どっち軍なんだろうな?」
「わからん」
森に隠れているのが分かるが、きっと普通の兵隊ならば、さっきの砲撃をもろに受けていただろう。
「て、いうか。出てこないね」
「確かに……隠れてる……」
ミオが、首をひねりながら言う。
「バイオリンクに操られている人なら、まとめてかかって来たりするかも」
「という事は、ゾンビ因子を持っていない可能性もあるか」
「まあ、一概には言えないけど」
「空接瞬斬! 二連!」
ドン! ドン!
「またか?」
「そうだ。クキ」
「俺達を、どちらかの兵隊だと思っているんだろうな」
「操られているのか、自分の意志で戦っているのか?」
「流石に、ヒカルでも判別は出来ないだろ?」
「そうだな。敵から逃げるか、接触を試みるかしかないだろう」
「いきなり攻撃を仕掛けて来るから、かなり危険ではあるか……だが、どうなっているか分からんな」
「なら、突撃しよう。全ての攻撃は俺がかわす。タケル、行け」
「あいよ!」
そうして俺達は、攻撃を仕掛けてきた、森の中に潜む軍隊の方に向かってひた走るのだった。




