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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第七章 アークパンドラ編

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第696話 バイオリンクの影響を受けない人間

 警官隊を突破し、どうにか都市を抜け出した。追跡は無く、ただ森林地帯の街道をひた走る。


「非常にマズい事になりましたね」


 クロサキに言われるまでも無く、皆が深刻な顔をしている。それは俺とて同じことで、操られているだけの無垢な市民を切り殺すわけにはいかなかった。


「操られた人間に武装されると、一方的に攻撃を受ける時間が出てしまう」


「しかも、いつどこに、操られた人間がいるのか分からん」


「不意を突かれるのは危険だわ」


 クキもミオも、どう対応したらよいものか、判断に困っていた。


「このあたりだと、多分、市民もいねえんじゃねえかな。そこの、森の横道にはいるぜ」


 タケルの判断で、森にある砂利道に入り込んで車を止める。タケルがバスを降りて、後ろの中継車の仲間を連れてきた。


「とんでもないことになったわね」


 ツバサが言うと、アビゲイルが答える。


「そうですね、翼さん。ゾンビ因子を操るバイオリンクが、人間にも応用できるようになってます」


「どうしたらいいのかしらね?」


 それに、マナが言う。


「ゾンビ因子を全て除去するのは、ヒカルがいかに凄いと言えど時間がかかりすぎるわ。なら、操る側を破壊するしかないんじゃないかしら? もしくは、バイオリンクを妨害するか」


 オオモリが頷いた。


「確かに、愛菜さんの言う通りですね。仕組みを調べないといけませんが、妨害電波的なものがあれば、カットできるとか無いですかね?」


 それに対して、アビゲイルが答えた。


「通常の通信とは違うと思います。そう簡単にはいかないかと」


「ですよね……」


「ビスク製剤が投与できれば、ゾンビ因子を除去する事は可能です」


「それを……操られている人間に投与するのは、至難の業です」


「そのとおりです……」


 かなり厄介な状況だと、改めて思い知らされる。


 そして、シャーリーンが言う。


「あれが、あの地域だけなのか、ここから先もなのか、どうでしょう?」


「敵の発信機が、ウクライナ国内にある事を考えると、むしろロシアのあの地域は、その入り口だったと考えられる。ウクライナ国境を越えられるかどうかすら、怪しくなって来たな」


「待ちかまえている……か」


 オオモリが、アビゲイルに聞いた。


「あれの、有効範囲は局所的なものですかね?」


「それは、ミスターヒカルにも聞きたいわ。バイオリンクをさかのぼれる、唯一の技の持ち主ですし」


 皆が、俺に注目した。


「限定的な、範囲になる。どこまでもさかのぼれるのではなく、親玉になっている試験体に辿り着けば、そこで途切れてしまう」


「そうよね……」


 バイオリンクの構造は、マサチューセッツの科学者に聞いたものの、この状況は間違いなくそれ以上のレベルの技術だった。


 すると、タケルが言う。


「手詰まりなら、調査するしかねえんじゃねえの」


「そのとおりだ」


「んで、こっから先は、いったん全部敵。そして、むやみに殺せねえって事だよな」


 皆が頷く。ここにきて、タケルの単純な思考が役立った。


「んじゃ、奴らに見つからねえように、発信機のところまで行くしかねえってこった」


「だな。単純に考えればそうだ。そして、恐らくそれ以外に方法がみあたらない」


「バイオリンク、偽装、できっといいんだけどな」


「偽装?」


「あっち側の人間のふり」


 それは……。皆が目を見開く。


 しかし、アビゲイルが難しい顔で言う。


「バイオリンクで操られている人間が、どういう思考をしているのかは大体推測できます。恐らくは、独立していません。あの……北極の巨大脳。意識体と似た構造で繋がっています」


 そこで、俺がアビゲイルに聞く。


「彼らの脳は、完全に汚染されていなかった。もしかすると、大元をどうにかすれば、このあたりに住んでいる人らも、目覚める可能性があるという事か」


「理論的にはそうなります」


「破壊されているわけではないと?」


「断定はできませんが、シャットダウンのような状態になってしまったかと」


「ならまず……タケルの言う通り、開放する方法を探しに行こう」


 失血のため、顔色の悪いミナミが言った。


「イライジャ・ゴールドシュミット。元凶は恐らく彼じゃない?」


「だろうな。奴の居場所を特定する事が、手がかりの一つだろうよ」


 すると、俺の気配探知に人の気配が近づいて来る。


「人が……来る」


 それは森の奥からで、徒歩で近づいてきているようだった。


「まずいな。共有で、人を集められるんじゃないのか?」


 クキの言葉を聞いて、クロサキが答える。


「いえ。なら、単体で近づいてくる事は無いんじゃないでしょうか?」


「……確かに。リスクがあるか……」


 俺が、タケルに言う。


「何かあったら、ここを守れ。俺が見て来る」


「任せろ」


 俺はバスを降りて、一気に近寄って来る気配に向かっていた。森の先に向かって砂利道を走っていくと、無防備に近づいて来る気配がある。


「あれか……」


 そして、俺が森の木々を飛び伝って、その人の側に来た。すると……ある事に気がつく。


「ゾンビ因子がない……」


 俺は木から降りて、無造作に出ていった。すると俺を見つけて、びっくりしたような表情をする。


「あんた、このあたりの人か?」


 俺はここまでの旅路、思考加速と詠唱理解によりロシア語を覚えていた。すると、その老人が答える。


「あんた、どっから来たんだ?」


「旅行者だ。道に迷ってここまで来た」


 あたりさわりのない嘘をつく。すると、その老人は、俺を伺うようにじっと見た。


「あんた……あいつらの仲間か?」


「あいつら?」


「あの、気持ちの悪い街の連中だ。まるで、ロボットみたいに、同じ動きと同じ目でこっちをみてくる。しばらくは、街にも行ってない」


 どうやら……彼はバイオリンクで操られた人間に、違和感を覚えているらしかった。それもそのはず、この人間の中にゾンビ因子が全くない。


 そこで、俺は、かまをかけてみる。


「あんた、あっち側の人間じゃないんだな?」


「あ、あんたもかい?」


「そうだ。実を言うと、迷ったのではなく、あのロボットたちから逃げて来たんだ」


「そ、そうか! なってない人間もいるのか?」


「そうだ。なってない人間たちで、ここまで逃げて来たんだ」


 だが、一瞬、あかるい顔をした男は、また怪訝そうな顔をする。


「他にもいるのか?」


「そうだ。仲間がいる」


 すると、一気に信じられなくなったのか、不安な顔で言って来た。


「やっぱり……わしを、連れ出しに来たんじゃないのか?」


「連れ出しなどしない。俺達はこれから、ウクライナに行く予定だ」


「ウクライナに……」


「そうだ。あんたは、ここに住んでるのか?」


「森の奥で、自給自足だ。あんたら、入り口のセンサーを通って来たろ」


 気が付かなかった。どうやら、俺達のバスが入って来たのを察知していたらしい。


「なるほど、それで出て来たという訳か」


「そうだ。とにかく、出て行ってくれ。わしは巻き込まれたくない」


「もちろん、邪魔をするつもりはない。静かな生活を邪魔して悪かった」


「別に、良いんだがな。あんたは、生きた目をしている。間違いなく、あちら側の人間じゃないと分る」


 そこで俺が言った。


「ある、添加物に気を付けろ。自給自足を続けるんだ。敵がばら撒く、薬剤にその秘密が隠されている」


「ある添加物? 何だ?」


「詳しくは、仲間が知っているが……」


「い、いや。いい! とにかく、出て行ってくれ」


「わかった」


 そして、俺は老いた男に背を向けて森の出口に向かって歩く。男は、ずっとこちらを見つめていたが、俺の姿が森にさえぎられると、じりじりとついて来て確認をしていた。


「だいぶ用心深いな。非常に良い事だ」


 俺がバスに辿り着いて、中に乗り込んだ。


「敵じゃなかった」


「そうなのか?」


「自給自足で、ゾンビ因子を摂取していない」


 それを聞いて、アビゲイルが頷いた。


「それなら、バイオリンクの範疇の外です」


 それを聞いて、ミオが明るい顔で言う。


「そうか! ゾンビ因子を取り込んでいなければ、操られないという事か!」


「そのとおりです。我々は、ミスターヒカルに除去されて、ゾンビ因子が入り込まない体になったため、バイオリンクに操られる事がないように、摂取していない人は操られません」


「ということは、あの添加物や、薬品がばら撒かれてない地域には、広がらないってことか」


「そうです。恐らく、この周辺は意図的にばら撒かれたのでしょう」


 確かに、ここまでの道中ではゾンビ因子の無い人間達がいた。あの物体がばら撒かれていない地域は、バイオリンクの影響から外れるという事になる。


「恐らく……この周辺が実験場になっているんだろうな」


「そうだろう」


 そこで、ミオが言う。


「なんか、ずっと人がこっちを見てるわ」


「ああ、だいぶ用心深い男だった」


「普通なら、怪しむところだけど、むしろ安全な人という事ね」


「そうなる。邪魔だから、早く出て行けと言われた」


 それを聞いて、タケルが言った。


「んじゃ、出発すっぞ。操られてる奴らを、どうしたらいいかわかんねえけど、行かなきゃ始まらねえ」


「中継車はどうだ? 回線は?」


「それが、もう、一向につながらないわ」


「なら、どこかで捨てよう。この車で動いた方がいい」


「だな。てか、どっかで、車パクった方がいい。いつまでも、同じ車はまずい」


「なら、車を探すところからだな」


「だな。んじゃ行くぜ」


 そうして俺達の車は、森の横道から出て、国境に向かって走り出す。俺達が去ったのを確認したのか、森の男の気配も、奥へと向かって歩いて行くのだった。

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