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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第七章 アークパンドラ編

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第695話 完成したバイオリンクの脅威

 ヴォロネジを過ぎて数十キロ離れた時、後方がまた閃光に包まれてしまう。大きなキノコ雲が上がり、一切の通信が途絶えてしまった。


「また、核だ」


 救われた人達は、間一髪で核攻撃の脅威から逃れる事が出来た。


「どうやら、ロシア政府は、ゾンビ試験体を核で封じ込めようとしているようだな」


 クキの言葉に、オオモリが頷いた。


「ですね。モスクワ周辺の都市は、恐らく全滅じゃないですかね」


「だろうな」


 それを聞いてミオが、悔しそうに言う。


「最悪だわ。これで……世界の二大国家が崩壊した訳ね」


「いや……ミオ。俺達は、ノヴォシビルスクを救った。恐らく敵の狙いは、広い大陸を汚染するために、何カ所かであれを始めるつもりだったのだろう」


「ヒカルの言う通りだな。そのおかげで、ロシア東部はまだ被害にあっていないかもしれん」


「情報が無いのが痛いですね」


「まあ、そう願うしかないさ」


 俺達の助けたロシア人たちも、悲壮感漂う顔で皆が泣いている。故郷が核弾頭で燃やされたのだから、その心中は察しても察しきれない悲しみに溢れているだろう。


 そこで、銀行の支店長が言う。


「ロシアは……もう終わってしまったのでしょうか?」


「そんな事はないさ。まだ生きている人は大勢いる」


「そうですか……」


 絶望の中を、ウクライナとの国境に向けてひた走るが、何故かそこからは異様に静かだった。


「近くで核弾頭が炸裂したってのに、随分と普通に人がいるもんだな」


 タケルの言う通りだった。周辺はまるで、日常的な生活をおくっているような雰囲気に包まれている。だが、そのおかげでスムーズに走る事が出来た。五時間を経て、ようやく国境沿いに辿り着く。


「難なく、来れてしまいましたね」


「こんなもんなのかね?」


 周りを見渡せば山一つなく、どこまでも続く草原が続いている。先に、都市らしきものが見えてきた。それを見て、銀行の支店長が言う。


「あそこに、駐屯地があります」


「そうか……」


 ようやく軍の拠点に来れたことで、助けた人達も少しは安堵の表情を浮かべた。ここの街を通る間も、特に何かおかしなことがあるわけでは無く、俺の気配感知にもゾンビの確認はなかった。


「あそこです」


「まあ、軍人がウロウロしてるな。いきなりこの車列が行ったら、警戒されそうだが」


 クキが言うと、銀行の支店長が言う。


「待っていてください。私は、軍の大佐に知り合いがいます」


「わかった」


 支店長は、部下二人に対して言う。


「では、君達もついて来てくれ」


「わ、わかりました」


 支店長と二人が車を降りて、軍の駐留地に向けて歩いて行った。


 クキが首をひねる。


「ロシアが大変な事になってるのに……妙に危機感が無いな」


「確かにそうですね」


 そう、モスクワ近郊で核弾頭が炸裂しているというのに、何か平和な雰囲気さえ漂っているのだ。


「ヒカルの気配感知では、何か異常はないか?」


「特には無い。人が、普通にいるだけだ」


「そうかい」


 すると俺達の視界の先で、軍人と話をしていた支店長がこちらに手を振る。


「おっ。上手く繋がったか?」


 俺達の車列がそこに近づいて行くと、軍人達がぞろぞろと出てきた。


 すると、クキが言う。


「警戒しておけ。恐らく銃の安全装置が外れてる」


 クキの特殊能力である、危機察知能力が働いた。俺達が車を降りずに待っていると、支店長のほうからこちらにやってきて、窓の外から告げてきた。


「保護してくれるそうです」


「保護……か」


 クキは、連れてきた残りの四人に聞く。


「あんたらはどうする?」


「えっ? 保護してもらうために来たんでしょう?」


「いや。俺達はここで去る」


「そうなの?」


「ああ」


 すると銀行の支店長が、驚いた顔をした。


「何を言っているんだ? ここは安全だ。敵もここまでは来ない」


「いや、俺達はやる事があるからな。ここまででいい」


 だがその次の瞬間だった。向こうにいる軍人たちが、一斉にこちらを向いた。示し合わせたような、見事な動作の統一感だった。


 支店長は、ただ微笑みながら繰り返す。


「ほら、みんなが安全だと言っているよ」


「……」


 すると、車両の後ろから声がしはじめた。


「なに?」

「ちょっと!」


 救出して来た食品工場の人間が、急に隣のミオとクロサキに抱きつき始めた。


「あんたら、何してんだ?」


 クキが言うが、窓の外の支店長も、身を乗り入れてしがみついて来た。


「なんだ!?」


 そこで、俺がバスの運転席に言った。


「タケル! 車を出せ」


「了解」


 バスが走り始め、後ろの中継車を運転しているツバサも黙ってついて来る。恐らく、こちらの会話を、超聴覚で聞いていたのだろう。


 パパパパパパ!


 突然、軍人が車に向けて銃を撃ってきて、支店長の背中にあたり地面に落ちて行った。


「なんだ? なんで撃って来た?」


 俺達の車列は、軍の駐屯地をすり抜けて先に進んだ。


「おい、先の道路!」


 そこには、市民がぞろぞろと出て来て塞ぎ始めている。


「ゾンビか?」


「違う。人間だ」


 その市民達も、銃を持っていてこちらに向かって撃って来る。


「変だ……」


「どうした? ヒカル?」


「全く、殺気がない」


「なんだって?」


「タケル。避けろ」


「分かった」


 後ろの席では、クキとクロサキ、ミオが四人の市民と取っ組みあいをしている。俺はすぐ後ろに行き、四人の首根っこを掴んで後ろ座席に放り投げた。だが表情も変えずに起き上がって、前に向かってくる。俺はそいつらを、来ないように抑えた。


「まるでゾンビだな」


「いや、クキ。気配は間違いなく人間だ」


 バスは脇道や歩道を走りながら、止まる車にぶつかりながらも人を回避して街の中を走り抜けていく。中継車も、なんとかバスの後ろにくっついて走っていた。そして、ようやく人の波を越えたと思ったら、また先に人が立ちはだかっている。


「どうしたんだ? あんたら?」


 すると突然、俺が、押さえている人らが口を開いた。


「異分子。排除」

「異分子は不要」

「お前達は異分子」

「異分子は消せ」


 これは……。


「塞がれた!」


 進行先には市民が溢れており、道路を完全に埋め尽くしている。


「轢くしかないか?」


「まて!」


 おさえている四人から、ゾンビ因子の気配がした。そこで俺はすぐ、ゾンビ因子除去魔法を発動する。パアアアと光った後、目の前の人らが真っ白になってドサドサと倒れた。


「どうなった! ヒカル!」


「これは……まるで使役だ……」


「バスを止めるか?」


「いや」


 俺はそのまま前部に走り、フロントガラスを突き破って、瞬間的に集まっている市民達の中に降りる。すぐさまゾンビ因子除去魔法を発動すると、この周辺の人間が真っ白になりながらバタバタ倒れていく。バスに手を振ると、タケルが車を止め後ろの中継車が止まった。


 クキが駆けつけて来て、俺に聞いて来た。


「どうなってやがる?」


「オオモリとアビゲイルを呼んで来る」


 俺はすぐに中継車まで走ると、中からドアが開いた。


「マナが大声で言う」


「ヒカル! 南が! 南が!」


 中を見れば、ぐったりしたミナミが苦笑いしていた。


「……ヒカル。下手うったわ。銃が貫通して……、守ろうとしたけど一発くらっちゃった」


 押さえた手から、血が流れ出ている。俺はすぐさま近寄って、ミナミの手に重ねた。


「弾は抜けているな。ヒール!」


 傷口が閉じて、血が止まる。ミナミが起き上がろうとするので、俺がそれを止めた。


「食わないと血は戻らない、そこに座っていろ」


「分かった……」


 まさか殺気のない人間達が撃って来るとは思っていなかったので、俺も油断していたのかもしれない。大事な仲間にけがを負わせてしまった事が、ふつふつと怒りに変わって来る。


「オオモリ。アビゲイル。エイブラハム。来てくれ。マナはミナミについていてくれるか?」


 マナが頷く。


「ではオオモリ行こう」


「わかりました」

「はい」

「わかったのじゃ」


 俺は、前のバスに乗っていた四人と、バスの前に大量に倒れている市民を見せる。


「俺がゾンビ因子を除去したら、気を失うように倒れたんだ」


 エイブラハムが、首元を触って言う。


「生きておる」


「だが、気を失ってしまった」


 オオモリとアビゲイルが目を合わせ、驚愕の表情を浮かべている。


「ヒカルさん……。これ……」


「なんだ?」


「恐れていた……人間用のバイオリンクが完成してます」


「なに……?」


 アビゲイルも言う。


「ゾンビ因子を介して、生きている人を支配していますね」


 エイブラハムが、苦虫を潰したようにつぶやいた。


「ゾンビなら…破壊もやむを得ないだろうが……この人達は、知らないうちに操られているのじゃな……。このような事が、許されるはずもない……」


 ツバサが叫んだ。


「ちょっと! ヘリが来たわ!」


 遠い空にヘリコプターが浮かんでおり、こちらに向かってきている。それは三機もいた。


「このままじゃ、この人らも巻き込むのじゃ」


「仕方ない。道のわきにどかして進むしかない」


 バスが通れるだけの道を作り、ヘリコプターが来る前に発進した。あっという間に近づいて来たので、俺は屋根の上に上がり村雨丸を構える。


「閃光孔鱗突! 三連!」


 遠距離からの剣技により、三機のローターをピンポイントで破壊した。浮力を失ったヘリコプターは、三機とも草原地帯に堕ちて行った。


 ドン!


 そのうちの、一機が爆発を起こし、他の二機は草原でバラバラに散らばっていく。


「許せ」


 無意識に操られている人間を攻撃するのは忍びないが、仲間達に怪我をされるわけにはいかなかった。そのままバスの中に戻ると、エイブラハムが気を失った四人を見ている。


「目覚めんのう」


「どうしてだ?」


「わからんのじゃ。脳に何か障害が残ったのかもしれん」


「障害……」


それを聞いて、アビゲイルが言った。


「脳に入り込んだゾンビ因子が、何かを食い荒らした可能性もあります」


 眠りについたように目をつぶり、息をしているが揺さぶっても目覚めない。


「ヒカル! まただ! 今度は警察が道を塞いでる!」


 俺は瞬時にバスを飛び出し、警官たちがいる場所へと出現した。この人達も操られているのだろうが、致し方なかった。俺は再び、ゾンビ因子除去魔法を発動するのだった。

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