第694話 冷凍庫と鋼鉄の金庫の生存者
もくもくと立ち上る黒い煙、燃えるビル群が俺達の視界に入る。既に、都市の外にもゾンビ試験体が飛び出してきていた。
「屍人、飛空円斬!」
押し寄せる試験体を斬り落としながら、俺達の中継車は進む。
「どうだ? ヒカル?」
「気配感知には、僅かに残った生存者がいるが、ほとんどはダメだな」
タケルが、真顔で言う。
「んじゃ、助けるしかねーな」
「行くか」
都市に入れば、すぐに大群がこちらに押し寄せて来る。通常のゾンビとは比較にならない身体能力で、あっという間に中継車まで距離を詰めてきた。
「屍人、飛空円斬」
だが、その剣筋を逃げるように、飛び上がる個体が数体いた。
見極められた?
「屍人刺突閃五連!」
飛び上がった試験体の頭を吹き飛ばし、全てのバケモノを沈めた。
「動きが違うな? ヒカル」
「そのようだ。剣線を見極めた」
「初見で避けられるもんなのかよ」
「いや、多分……勘だろう」
「勘かよ。厄介だな」
それを聞いていたアビゲイルが、言った。
「バイオリンクが発達したのでしょう。都市に入る前に使った技を、バイオリンクで知ったのです」
「なるほどな。ヒカルの技を、共有したという訳か」
「そうなります」
クキが眉間にしわを寄せる。
「余計に厄介だ」
そこで、タケルが言った。
「いや、九鬼さん。分かったからといって、ヒカルの技を避け切れる訳がねえさ」
「まあ……そうだな」
俺の気配感知でたどり着いたのは、ある工場のような建物だった。その中にもゾンビの気配はあるが、その奥に僅かに人間の気配がする。
「食品工場だな。こりゃ」
「奥だ。だが、だいぶ気配が弱い」
「急ぐか」
俺達はバスを横付けし、工場の入り口に降りる。ガラスが割れていて、中を試験体がうろついていた。
「ついてこい」
俺が先に入り、全ての試験体を片付けて、ゆっくりと通路を奥へと進んだ。すると工場の広間に出て、天井からぼとぼとと試験体が落ちてくる。
「場所に適応してやがる」
「屍人斬! 風列斬!」
落ちてきた奴らから、這い上がるように、空中にいるゾンビを切り裂く。
「工場の人間らが……融合しちまったんだな」
「急ぐぞ」
機械の間をすり抜けて、奥へとたどり着くと、大きな扉があった。それを開けようとした、クロサキが手をかけて言う。
「中からロックされてます」
「どいてくれ」
そして俺が、扉を斬り落とす。
「冥王斬」
分厚い鉄の扉が崩れ落ち中に入ると、そこは冷凍庫だった。凍えるような寒さの中で、数名固まって、牛の肉で自分達を囲うように固まっていた。みんなが、肉をかきわけて埋まった人たちを助け出す。
「だめ。息してない」
「いや、まだ、魂の気配がある」
「全員を外に出せ!」
クキの号令で、冷凍庫から市民を出し工場の床に寝せた。
「段ボールを集めろ」
その部屋にあった、段ボール箱を集めて人々のところに持ってくる。俺は、それに剣技で火をつける。
「烈火斬」
ゴウ! 段ボールの上を火が通り抜け、燃え始める。その事で、室内の温度が上がってきた。
「よし」
すぐに、倒れた人にヒールをかけ始める。その事で冷え切った体がほぐれ、延命処置をし始める。
「うう……」
「こっちの人は目覚めたわ」
「こっちもだ」
俺は再び、ヒールをかけた。
「あ……ば、バケモノが……みんなが変わって行ったんだ……」
「もう、ここにはいない。片付けた」
クキが、聞いた。
「どうしてこうなった?」
「冷凍庫なら完全密封だし、分厚い鉄で覆われているから奴らは入って来れない。だから中に逃げ込んだんだけど、ロックして外に出れなくなってしまったんだ」
「まにあって、よかったよ。どうやら、逃げ込んだ人らは皆が無事だったようだ」
「よかった……」
しばらくすると、全員が完全に回復して立ち上がる。
「それにしても、あのバケモノはなんなんだ?」
「まあ、ゾンビだ。生ける屍だな」
「見て……分かるが、なんでそんなものが……」
すると、他の人が言う。
「そうだ。あと、核戦争が始まったでしょう?」
「あれは、核戦争じゃない。恐らくは自国が、撃ったものだ」
「そんな馬鹿な……」
「あの、バケモノが氾濫したんだ。それを焼くためだ」
「「「「「……」」」」」
工場の人らは絶句し、言葉を発さない。
「とにかく、ここを出よう。車を用意しないと」
「それなら! 社員の送迎バスが駐車場にあるわ」
「それを使おう。俺達の後ろについて来てくれ」
工場を進み試験体を殺しながら、事務局に行くと、一人の男が言う。
「鍵は、担当者から借りるんだ」
「担当者の机は?」
「こっちだ」
机に行くと、その人が引き出しを開けて鍵を取り出した。
「これだ」
「よし。行こう」
だがそこで、工場の一人が言う。
「まって、あのバケモノだらけの外に行くの?」
「大丈夫だ。俺達が何とかする。むしろ、ここにいたらいずれ奴らにやられる」
「……わかったわ」
生き残ったのは、五人。その五人を連れて駐車場に出ていくと、小型のマイクロバスが置いてあった。エンジンは普通にかかり、近づいてきた試験体は全て斬り落とす。
「俺達は中継車に乗っていく。タケルがマイクロバスを運転してくれ」
「了解だ」
そして、クキが俺に目配せをする。
「ヒカルは、どうすれば守りやすい?」
「マイクロバスに乗り先に行く。皆は後ろをついて来てくれ」
「わかった」
「じゃあ、タケルは指示に従ってくれ」
「おうよ」
そしてマイクロバスが、すぐに市内を走りだす。気配感知には、まだ生存者の反応があるようだった。この状況でも生き延びているという事は、よほど頑丈な場所にいるのだろう。そして数区画先の場所に、生存者がいるだろう場所があった。
「こりゃ、銀行だな」
「行くぞ」
すると、助けた人らが言う。
「私らは、バスで待っている」
「いや。一緒に来てもらった方がいい」
「だが! バケモノがいる!」
「いや。奴らは、車などすぐに侵入して来る。俺といたほうが安全だ」
「……わかった」
俺が降りて、先に銀行の中のゾンビ試験体を全て片付けた。そのまま奥に行くと、一つ目の扉がある。それを開けて中に入り、試験体を破壊して進むと鉄の扉が見える。
「ロック式だ。入れるのか?」
市民が言ってるそばから、俺が剣技で扉を斬り落とす。
「「「「「は?」」」」」
奥に進むと、更に大袈裟な大きい鉄の扉があった。
「この中だ」
「メイン金庫か。ここなら試験体も、入り込めないだろうな。まあ、出れなくなるだろうが」
「開けるぞ。離れていろ」
俺は金庫の扉に向けて、剣技を繰り出した。
「冥王斬」
ズッズズゥーーン!
扉が崩れ落ち、俺達が中に入って行くと、三人の人間が角に寄っている。そこで、クキが声をかけた。
「助けに来た。生存者は、これで全部か?」
「わからない。だが、ここに逃げ込めたのは偶然だ」
「銀行員か?」
「そうだ。私は支店長、この二人は部下だ」
「運がいいな」
「あのバケモノは何だ?」
そこでまた、さっきと同じ問答があった。
「そんな……ロシアはどうなってしまったんだ……?」
「分からない。だが、まだ生きている人間はいる」
「あんたらは? 軍隊ではなさそうだが……」
「旅行者だ。たまたま、立ち寄ったようなものだ」
「それにしては、よくこんなところまで……」
そこで、シャーリーンが告げる。
「これから、ウクライナに向かおうと思うんです」
「ここから行ったら、紛争地帯に入ってしまうぞ」
「それでも、行かなければなりません」
「おすすめはせんが……」
「それでも……です」
銀行の支店長は難しい顔をしていたが、ふとひらめいたかのように言った。
「いや……軍がいる。だから保護してもらおうという事か?」
「……まあ、軍が生きていればですが」
「ならば、我々も連れて行ってくれ」
それにはクキが答える。
「命の保証は出来ん、どうなっているか見当もつかない。それでも良ければだがな」
「承知の上だ。それに、軍に知り合いがいる。私がかけあってみよう」
「……わかった。この都市にいたら、いずれやられるからな。一緒に行こう」
「助かる」
そうしてまた、救えそうな人が増えた。この周辺の地理に詳しいらしく、道案内も出来るそうだ。
「ここから、生きている人間は極力救出するつもりだ。それに協力できるか?」
クキが聞くと、銀行員は頷いた。
「なら、もっと車を手配する必要がある」
「なら、現金輸送車はどうだ? 普通の車よりは丈夫だ」
「では、それに分けて乗り込むとしよう」
俺達は、銀行を出た。やはりヴォロネジの町は酷いありさまで、ほとんどゾンビ化してしまっている。気配感知で探りながら少しの人を救出するが、徹底的にパンデミックは広がっていた。
「行こう……」
「だな……仕方がない」
俺達は壊滅してしまったヴォロネジの街を出て、一路ウクライナとの国境に向けて走り出すのだった。




