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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第七章 アークパンドラ編

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第691話 崩れていくロシアの日常

 覚悟して国境に近づいたが、気配感知で人が感知できなかった。クキにそれを伝えると、首をひねる。


「国境警備隊がいるはずだ。とにかく、行ってみよう」


 車を勧めるが、国境に差し掛かる建物や、その周辺に人の気配は無かった。


「やはり人はいない」


「武。車を進めてくれ」


「あいよ」


 国境の検問所に行くが、人は出てこなかった。無人の検問所で降り、建物の中に入ってみる事にする。だがやはり、誰もいなかった。


「まるで、緊急で避難したかのようだな」


 そこには、食べかけの食事や、冷えたコーヒーなどが放置されている。たばこの吸い殻もそのままに、奥にも人は居ないようだった。


「軍人もいない……か」


「まあ、モスクワの件だろうな」


「そう言う事だろうな」


 そして、マナがそこにある通信機のスイッチを入れた。


 ガガ。


 クキが、ヘッドセットをつけて話す。


「だれか。応答してくれ」


 ザザーーー。


 雑音だけで、何も音がしなかった。マナが言う。


「あわせてみるわ」


 マナが調節すると、雑音の中に人の声が聞こえて来る。


「応答せよ」


 クキが言うと、相手が答えた。


「……ガガッ……どこ……からだ? ザザ!」


「カザフスタンの国境沿いだ」


「警備隊か?」


「一般人だ。人がいない」


「招集……人手が足りん……ガガ……」


「……応答せよ」


「……」


「切れた」


「どう思う、九鬼さん」


「モスクワの惨状で、警備隊や軍が借りだされてるんだろう。無理もない、試験体のパンデミックなど、軍人がいくらいても、せき止められるわけがない」


 俺達は顔を見合わせ、頷くしかなかった。モスクワでは、間違いなくとんでもないことが起きている。とにかく急いでいかねば、もっと被害は拡大するだろう。俺達は車に乗り込み、何もない草原を進んだ。街灯も無い真っ暗な道を進んでいくと、ガソリンスタンドが出てきた。


「人がいる」


 俺が言うと、クキがタケルに言った。


「寄ろう」


 ガソリンスタンドに入って行って、クキが降りて店先に行く。入り口を叩くが、誰も人は出てこない。中には居るが、店は閉まってしまったようだった。それでもしつこく叩いていると、店の明かりがついて人が顔を出す。何かを話したようで、クキが戻ってきた。


「どうやら、昨日のうちに警備隊は列をなして行ったらしい」


「緊急招集だろうか?」


「恐らくな」


 俺達は再び車に乗り込み、更に北上していった。四時間かけてようやく、都市らしき場所に出る。


「サマラって街ですね」


「人はいるようだがな」


「ゾンビはどうだ?」


「いない」


 都市に入って行くと、ほとんど明かりはついていない。深夜なので、寝静まっているのだろう。静かな町を走り抜けた先に、大型車が並ぶコンビナートのような場所がある。


 そこで、ツバサが言った。


「ねえ、車。乗り換えない?」


「あ? これ新しいのにか?」


「きついのよ。運転席はいいかもしれないけど」


 ツバサの言葉に、タケルが答える。


「……そっか。そうだな、だけどその辺のはオンボロ……、図体のデカい黄色いバスがあんなあ……」


「それでいいんじゃない。これを置いて、そっちにしようよ」


「よっしゃ」


 タケルが車を寄せ、皆が降りる。タケルが直ぐに鍵を開けて、乗り込みあっさりとエンジンをかけた。


「おっけ。乗り込め」


 皆が黄色いオンボロのバスに乗り、再びモスクワに向けて走り始めた。都市を走り抜けているうちに、空が白んで来る。


「夜明けだ」


「情報が入って来ました」


「モスクワのか?」


「いえ。ロシアが、ロックダウンを発令したようです」


 そこでようやく、シャーリーンが納得したように言う。


「朝方とはいえ、人が外に出ていないのはおかしいと思ったんです」


「情報統制だけじゃなく、人の動きを封じた訳か」


「どうやらそのようですね」


 まるで無人の様な都市を、黄色いバスがスルスルと進んでいく。人々は家に閉じこもって外出を控えているようだが、特にゾンビの気配などもしていない。


「全然、車とすれ違わないわね」


「そのようだ」


 その答えは、すぐに分かる。どうやら、道路が封鎖されているようだ。だが、そこに差し掛かっても、警備兵の一人もいなかった。バリケードをどかして、俺達は更に先に進む。


「異常だな」


「そうね」


 だが日が登り、さらに大きな街に入ると、ようやく人が外に出始めた。


「ウリヤノフスクですね。そこそこ大きな街っぽいですけど」


 バスが街をそろそろと走っていると、少なからず車も走り、人々が集まって話をしているようだった。俺達もバスを止めて、クキが市民に聞く。


「どうなってる?」


 すると、中年の男が答えた。


「どうもこうもねえよ。どうなってるかさっぱりだ」


「何も情報がない?」


 他の女が答える。


「だって、通信が繋がらないのよ。ただロックダウンと言われて、家から出ないようにしてただけだけ」


 また違う奴が言う。


「そうだ。軍が食料を支給するという話もあったが、一向に来ないしな。皆買い物に出たという訳だが、ロックダウンだから店も閉まってるし、困ってるところだよ」


「そういうことか。モスクワはどうなってるんだろうか?」


「さてな。暴動が起きたとはテレビで聞いてるんだが、もう封鎖されてから行き来も出来てないからな。モスクワ方面には軍隊や警備隊が向かったが、モスクワからこちらへ戻ってきた車はない」


「なるほど」


「勝手にモスクワに向かった市民も居たが、ロックダウンだしな……動かない方がいいと判断した」


 クキが、市民らに向かって言った。


「いや、モスクワには行くな。それは、国の言う通りにした方がいい」


「まあ、暴動なんて信じられねえが、危険な事には変わりないからな」


「あんたらの知り合いにも、行くなと言っておいた方がいいぞ」


「まあ、そうしとくさ」


 そして再びバスに乗り込み、ゆっくりとウリヤノフスクの都市を抜けていく。市民達は足止めを喰らい困惑している様子。だが軍も警察も居ない状況では、その制限も限界があるだろう。


「このままでは、あちこちに取り残されるな」


「人の動きを制限はしてるが、試験体になった人間が、勝手に飛び出してしまう可能性はある」


「政府もロックダウンは正解だが、通信がマヒしてるんじゃ、いつまでも市民を止めてはおけない」


「その通りだ」


 それを聞いて、ミオが言う。


「下手をすると各地が孤立してしまうし、物資が枯渇していずれ動き出すわよね。そうなってしまえば、また犠牲者が増えるわよ」


「あと、こんなに大規模に回線が落ちるのは、おかしいですよ。下手をすれば、サイバー攻撃を受けてるんじゃないですかね」


「その線は大いにあるだろうな」


「アークパンドラの仕業かもしれません」


「だろうな。情報を統制したんじゃなくて……あえて、情報網を殺したか……」


 なるほど、国がやったのではなく敵の仕業……。


 すると、オオモリが言った。


「まさかとは思いますが、我々に知られないようにするためだけにやっている可能性は無いですかね? 大規模な障害は、我々の目をごまかすため……」


「こんな大規模にか? 俺達だけのために?」


「敵はアークパンドラ。そして、イライジャ・ゴールドシュミット。十分にあり得るかもしれません」


「どうしてそう思う?」


「意識体との通信の遮断。先読みさせないためにあえて、全ての通信をカットしたとも考えられます」


 シャーリーンが頷いた。


「その可能性がとても高いですね。おかげで、私達は後手後手に回っている」


「俺達のため……だけに……こんな大それたことが出来るのか……」


「急ごう。これが長引けば、ロシア全体が干上がってしまう」


「ああ」


 俺達が、ウリヤノフスクを抜けた辺りで、今度は俺とツバサの耳に、ジェット機の音が聞こえ始めた。その後に、爆発音が聞こえて来る。


 ツバサが言った。


「恐らく……爆撃を始めたわ」


「ロシア軍も、モスクワを攻撃する事を決めたか……急ぐぞ」


 俺達の平和そうな黄色いバスは、騒然とするロシアの町を抜けひたすらモスクワを目指すのだった。

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