第690話 一千キロの遅すぎる進軍
俺達は、クズロルダの町に足止めを喰らってしまう。スーパーマーケット以外は、どこに行ってもネット決済が使えずに、オオモリの伝家の宝刀が使えなかった。地図を見ながら、次の行先を考えている。
「敵が逃げたのは西。そちらの方角に何があるかだな」
「まずは……被害の出ているモスクワを目指すか」
「空港なら決済出来るでしょうが、現状のモスクワに飛行機が飛ぶかどうか分かりません」
「まあ。飛ばんだろうな、厳戒態勢の都市に飛ぶ飛行機など無い」
「ですよね」
そして俺が言う。
「いずれにせよ、空港まで行くしかあるまい」
「そこで調べますか」
俺達はそのまま、都市を歩き始めた。すると、そこにバスターミナルがある。
「あれに、乗れるか聞いて来よう」
クキが行って戻って来ると、空港までのバスがあると説明した。
「問題は……金だ。カードやネットは使えないらしい」
それに、シャーリーンが答える。
「銀行に行ってみましょう。ルーブルをテンゲに、両替してもらえると思うわ」
「ぞろぞろ行ったら、おかしいと思われる」
「なら、私と、九鬼さんで」
「そうしよう」
俺達を置いて、クキとシャーリーンが銀行に入って行く。しばらく待っていると、二人が戻ってきて親指を立てていた。どうやら、上手くいったようだ。
「あ、良かった。両替出来たんだ」
「バスに乗れるな」
皆がチケットを買って、バスに乗り込んで一息ついた。都市は美しく、どこまでも青空が続いており、どこかの国でゾンビパンデミックが起きてるなど、想像もつかないだろう。
「ここは、平和なんだけどね」
「アメリカの事とか、各地の事を知らないみたい」
「そうね。情報は来るけど、対岸の火事のようだった」
「わざわざ。危ない土地に向かう人なんていないか」
ツバサとマナとミナミが、ぼやいている。確かにここは平和で、ゾンビ騒ぎなどとは無縁に感じるが、世界に蔓延してしまったら、いずれこの都市も死んでしまうだろう。窓から流れる風景を見ながら、皆は無口になって行った。そして空港に到着し、俺達はロビーに足を踏み入れる。
「ちょっと行ってきます。九鬼さんおねがいします」
「ああ」
オオモリとクキがフロントにいって、話をし始める。しばらく話をして、戻ってきて言った。
「ロシアまでは飛ばんらしい」
「どうなってるんです?」
「ロシアの緊急事態に、各国が渡航を禁じているんだ」
そこで、クキが言う。
「だが、国内は飛ぶそうだ。出来るだけ、近づく事は出来る」
「どうやって?」
「アスタナ経由で、オラルという都市に飛ぶ。そこからは、陸路でロシアに入り、車を調達してモスクワに向かうしかあるまい」
「わかったわ」
モスクワまでの時間を考えると、非常にもどかしい。だが、この状況ではどうする事も出来なかった。幸運な事に、オオモリのハッキングが通用して全員のチケットが用意出来る。だが、次のフライトの時間まではもう少しあるらしい。
「飛行機を盗んだ方が良くない?」
ミオの言葉に、クキが首を横に振る。
「下手をすると、我々の動きが筒抜けだ。派手な動きをとれば、行動がバレるだろう」
「そうか……」
「今は焦らずに、駒を進めるしかない」
「そうね」
俺達は不毛な時間を空港で過ごし、ようやく飛行機に搭乗する事が出来た。俺が、オオモリに聞く。
「意識体はどうなってる?」
「音信不通ですね。ノヴォシビルスクまでは、繋がってましたが……どうしたんですかね?」
「そうか」
意識体とは繋がっていないらしく、オオモリも次の一手が分からないと言った。それを聞いたマナが、オオモリに聞く。
「もとより、敵の回線を使ってた可能性もあるわよね」
「そうですね……回線を遮断されれば繋がらないですね」
「敵も私達の存在を掴んでるからね、その可能性は高いわ」
「手ごわいですね」
「そうね」
飛行機は何事も無く順調に飛び、空港を経由してオラルという町に降り立った。すぐさま都市に出て、次の行動に移る事にする。
「陸路で、ロシアに入ろう。車を調達する必要がある」
「みんな、偽造パスポートは持ってますよね」
「ポケットに入れてあるわ」
「レンタカーがあるみたいです」
「だけど、免許を持っていないぞ」
「分かってますよ。だから、騒ぎを起こしましょう」
「……そう言う事か」
俺達は、レンタカーを貸し出している場所に向かう。そこに他の客もいて、車も駐車場に並んでおり、比較的新しい車種が並んでいた。
「じゃ、僕は役に立たないので、指示だけ」
「なんだ?」
「ヒカルさんが道路で騒ぎを起こして、タケルさんがバンを盗んできてください」
すると、タケルが言う。
「簡単に言うなよ」
「出来ないんですか?」
「問題ねえけどな。いつも通りだ」
「じゃあ」
俺が、道路を走るトラックに目をつける。
「突光閃。二連」
走るトラックの、前のタイヤと後ろのタイヤを貫いて傾き横転して滑る。次々に車に激突していった。
「事故だ!」
クキが叫ぶのを尻目に、更に俺は縮地で道路に現れて、剣技を振るう。
「氷結斬!」
道路が凍り付き、走っていた車がクルクル回って激突した。お客や中の店員がそちらに釘付けになる。するとその後ろで、大型の商用バンが到着した。
「さあ。乗った乗った」
仲間達は速やかに乗り込み、俺が先回りしてフェンスを破壊する。すぐ飛び出したバンに飛び乗って、俺達は誰にも気づかれる事無く、レンタカー屋を後にするのだった。
「やっぱ、二人は慣れてますね」
「やめろって。俺らを泥棒扱いすんのは」
「いや、いままで、車を盗めなかった事無いですよね。武さん」
「ヒカルが騒ぎを起こしてくれたからな」
「もう、慣れた」
それを聞いていた、クロサキが言う。
「元……公安の私も、その仲間ですからね」
クキが、腕組みをして言った。
「世界が終ろうとしているんだ。四の五の言ってる暇はないさ」
「ですね」
車は、国境に向けて走る。国境でも、ひと悶着あるだろうが、その時はその時で何とかなるだろう。
そこで、オオモリが言う。
「もう、モスクワ関連の情報が入らないです」
「情報統制じゃないの?」
それを聞いて、アビゲイルが悲しそうに言う。
「それか……もうどうしようもないくらいに……なっているかもしれません」
クキが頷いた。
「とにかく交代で運転しよう。ギュウギュウだが、今のうちに眠っておいた方がいい」
薄暗くなってきた道路で、ヘッドライトが通り過ぎていく。
「そうね。仕方ないわね」
仲間達は目をつぶり、少しでも休息をとろうとする。
車は、何もない広い草原地帯に入って行くのだった。




