第688話 朝日に染まる白銀と届かなかった破滅
敵の発信機が止まった。カザフスタンの砂漠地帯に降りたようで、そこに何かがあるらしい。
するとオオモリが、スマートフォンを確認しながら言う。
「旧ソ連時代の、軍事基地があるところですね。今はもう使われておらず、投棄されたようです」
「きなくせえな」
「ですね」
シャーリーンが俺に聞いて来る。
「どうします?」
「直接降りてくれ」
「了解です。が、滑走路に明かりがありません」
「わかった。なんとかする」
俺はハッチを開けて外に出て、飛行機の上によじ登る。風が髪の毛を全て後ろに流し、風には砂粒が混ざっているようだ。真っ暗な地表に、いくつかの明かりが見える。
「あれか」
すると次の瞬間、暗い地表からミサイルが発射された。
「空接瞬斬」
ミサイルを墜とす。すると今度は、機関銃の銃火が上がってきた。
「剛龍爆雷斬!」
シューッ! と、火の玉が落ちていき、ミサイルと機関銃が発射された場所に落ちて、爆発を起こす。それによって、滑走路の位置がはっきりとわかった。
「炎蛇鬼走り」
長く伸びた火の蛇が、地表に降りて行き滑走路に落ち伸びた。すると飛行機は一気に、下降し始める。シャーリーンが、滑走路を確認したのだろう。だがそこに再び、ミサイルが数発飛んで来る。
「ならば」
俺はわざと引き寄せて、剣技を繰り出した。
「重推撃!」
飛行機の近くで爆発を起こし、破片が飛んで来る。
「刺突閃! 二十連!」
破片が当たらぬように、全てを墜とした。これで、一瞬、撃墜したように見えただろう。
キュキュ!
タイヤが地面に落ち、急速に減速していく。砲撃が飛んで来るが、そのすべてを剣技で落としていく。そちらの方向に、数台の戦車があった。
「剛隆爆雷斬!」
シュッ! ドゴーン!!
戦車の間に落ち、大きな爆発を起こして戦車が止まる。
「行くぜ」
仲間たちが入り口から出て来て、次々に地上へと降りて来た。その間も攻撃が来ないかを見張りつつ、皆が降りたのを確認する。
「タケル! 後から来い! 縮地!」
次の瞬間、俺は戦車や兵士の間に立っていた。
「冥王斬! 飛空円斬!」
あたり一帯の戦闘車両と、兵士達を片っ端から斬っていく。すると、建物の方からも銃撃が来たので、再び剣技を繰り出した。
「影鴉縫」
影から飛び出した剣技で、あたりが静まり返る。
「派手にやったな」
「ここは敵の基地なのだろう? 全員敵だと思ってな」
「ま、そうだな。遠慮はいらねえか」
燃え盛る炎の中を、俺達は建物の方に向かった。
「捕まえるぞ」
発信機が点滅している方向に走ると、突然ゾンビが現れる。
「お出ましだ」
「飛空円斬!」
ゾンビを斬り落とすと、今度は大量の試験体の反応があった。屋根の上や各階のガラスを突き破って、次々に飛び出してくる。
「凄い量だ」
「核で焼かれた東京の時みたいね」
「屍人斬! 錐籾龍閃!!!」
竜巻が巻き起こって、屍人斬が試験体たちを巻き込んで細切れにしていく。
「すっご!」
「一般人の被害を考えなくても良いからな」
「たしかにそうだな」
俺達が突入していくと、次々に試験体が飛び出してきた。
「今までのところより、だいぶひでえな」
俺の剣技で難なく斬り捨て、なにごとも無かったように廊下を突っ走る。
「こっちだ!」
俺達が奥の部屋に到達すると、どうやらその扉の先に逃げ込んだようだった。
「冥王斬」
壁ごと斬り捨てて、俺が中に突入すると銃撃が始まる。
「影鴉縫」
一瞬にして銃撃が止まった。もちろん、対象の人間だけは殺していない。
「な、なんだ! 貴様ら……えっ? お前達は……」
「俺達を、知ってるのか?」
「ホテルにいた連中……」
それを聞いた、クロサキが言う。
「あなた、よく私達を覚えていたわね……スパイ?」
次の瞬間、そいつが動きそうだったので、そいつを羽交い絞めにして聞く。
「あのアタッシュケースは、他にもあるのか?」
「……」
「答えろ」
すると、突然笑い出す。
「ククク……馬鹿め……もう手遅れなのだよ」
「どういうことだ」
「完成したのだ。究極のウイルスが」
「……」
皆が苦い顔をしている中で、こいつだけ勝ち誇ったような顔をしてる。
「アビゲイル! 対抗薬を作ってみるがいい! 世界が終わるのと、薬が完成するのどちらが早いかな」
「げ、外道……」
「なんとでも言え。人間が世界を食いつぶすのが先か、あんたらが人類を救うのが先か」
「貴様……」
俺がグイっと、締め付けると黙る。
「ぐっ」
そこで、クキが聞く。
「あの駅で何をしていた?」
俺が緩めると、深く息を吸い込む。
「すぅぅぅぅ」
「答えろ」
「さあてな。それを知ったところで、もはやどうにもならん」
「貴様……」
「頓挫していた計画が、また動き出したのだよ」
なんだ?
「ヘリコプターの音がするわ」
ツバサが言う。
「上か?」
一瞬気が逸れた瞬間だった。
プシュ! 天上から、紫の煙が噴射されてくる。それが男と、俺に直撃した。身体に一気に浸透して、俺が捕まえている男が痙攣をし始める。
「チッ!」
咄嗟に離れると、ブクブクと膨れ上がって来た。確かに、変化の速度が早すぎる。
「ギシャアアアア!」
バケモノになった男が吠えて、俺が直ぐに日本刀を振るった。
「屍人! 乱波斬!」
そいつは、ただの肉片に変わりバラバラになった。
ミオが言う。
「ここに向かって、大勢の敵が集まってるわよ」
「そのようだ」
「もう一人はどこだ?」
スマートフォンを確認して、オオモリが大きな声で言う。
「別棟です!」
「突破するぞ」
俺が廊下から出ると、廊下の向こうから銃撃が始まる。金剛と結界で、全くの無傷だ。
「影鴉縫」
影から生まれた刃で、ほとんどが死んだが、どうやら動き回っている奴がいるようだ。
「ゾンビ化兵もいる」
「邪魔だな」
「構わず走れ。俺が処分する」
走りながら次々に、ゾンビ化兵を殺し、俺達は通路を渡って別棟に辿り着いた。
「こっちです」
俺達がそちらに進んで行くと、オオモリが言う。
「ここですね……」
俺達は、発信機が点滅しているところについたがいない。
「ヘリコプターの音がするわ!」
「上だ!」
俺達は階段を探し、一気に上に向かって走り込む。屋上の扉を開けるが、既にヘリコプターは飛び去った後だった。発信機の点滅が、どんどん遠ざかっている。
「追おう」
その瞬間だった。
ドオン!
後ろの滑走路で、爆発が起きた。
「なんだ?」
「飛行機の方……」
俺達が走って階段を降り、外に飛び出し、滑走路の方に行くと……。
「やられた」
「俺達が乗って来た飛行機が……」
飛行機が爆破されていた。
「こんな砂漠の真ん中で……」
「飛べるのがないか探すしかない……」
燃え盛る火の光を浴びていると、俺の気配感知に、あちこちから試験体の気配が伝わってきた。
「試験体だらけだ……。このあたり全域にいる」
「くそ! 罠だ! おびき寄せられたんだ! 俺達は」
「一カ所に固まれ。俺の後ろに」
俺の爆雷斬で燃えた、車両や建物の中から次々に試験体が現れ始めた。
「ぜーんぶ、試験体にしやがったのか……」
「僕達が追って来るのを知ってた?」
「かもしれねえな」
「問題ない。完全に人間の気配がないからな。奥義が使える」
「そうか」
「レベル解放! 屍人斬! 白銀世界!」
ジャ!
一瞬だった。基地から砂漠にかけ、億の槍が地面から飛び出して真白に染める。暗闇で見えないが、既にゾンビ化兵も試験体も人間の兵士も消滅する。
俺が放った爆雷斬の炎も消えたところで、次第に風が強まってくる。
「砂嵐だ」
クキが言う。
「まずは建物の中に行きましょう」
俺達が建物に入ると、突然ガラスがガタガタ鳴り出し隙間から風が吹き込んで来る。俺達はひとまず、砂嵐をやり過ごす事にした。
「砂嵐の影響で電波も遮断されてますね。何も聞こえません」
「そうか……」
砂嵐が収まって来ると、外が明るくなってくる。
「陽が昇るな」
「脱出方法を探さなくてはな」
俺達が外に出ると、俺の白銀世界で真っ白になった砂漠が、朝日を浴びてキラキラとし始める。
「通信をロストしてます……まずは通信を繋げたいですね」
「機械を探すか?」
そして俺達は再び施設に入り込んで、通信機器を探し始める。探していると、衛星通信の機械があり、マナが操作してオオモリが端末を繋げる。
「どうだ?」
「まってください」
操作していると……小さな画面に映ったのは、あるニュースだった。
タケルが悔しそうに言う。
「マジかよ……」
「列車が暴走……」
そこには、モスクワ行きの列車が暴走したというニュースが映り出す。
「やっぱり、仕掛けてやがったのか」
だが、ここからではどうする事も出来なかった。
「どうしよう……ヒカル……」
「……そうだな。まずはイライジャの居場所を特定するしかない」
もう、列車はどうする事も出来ない。ならば、手がかりを追うしかないのだ。
「なら、動くのがないか探すぞ」
「そうね」
そして俺達は、死骸の転がる建物を抜け出し、誰もが口を開く事も無く、絶望的な状況をどうするか、途方に暮れながら格納庫らしき場所に向けて歩きだすのだった。




