第686話 死のアタッシュケース。同時テロと神速討伐
四方に向かった敵を追う仲間達は、スマートフォンを通じて連絡し合っていた。俺は雨が降り注ぐビルの屋上で、そのやりとりを聞いている。
「こっちは繁華街だ。ショッピングセンター」
タケルが言い、違う場所にいるミナミが答える。
「こちらは……なんかのホールだわ……クラシックかしら?」
「こちら美桜。ダンスクラブよ」
「僕の方は……大聖堂です」
スマートフォンからは騒音が鳴り響き、それぞれが現状を伝えてきた。
「発信機は動いてない、敵はまだ中にいるぞ」
「ああ、こっちは歩いている」
「こちらは、席をとっていたみたいで、クラシックを聞いているわ」
「こっちは、客に混ざってお酒を飲んでいる」
「こっちは、ミサに参加していますね」
なんだ? 何がある?
「いや、出ていくみたいだな」
「こっちもよ。出て来たわ」
「こちらもだわ」
「僕の方もですね」
そこで、クロサキが言った。
「アタッシュケースを持ってません!」
「「「こっちも!」」」
それを聞いて、クキが一斉に皆に言う。
「アタッシュケースを確保しろ! テロだ!」
そこで全員が、気が付いてしまう。雑踏に紛れる音が聞こえた、次の瞬間だった。
「紫の煙が噴き出てる!」
「こちらもだわ!」
「こっちも!」
「こっちもです!」
どうやら、あのアタッシュケースには仕掛けがあったようだ。俺の気配感知では感じ取れなかったが、何か特殊な素材で出来ていたのかもしれない。
「やべえ! どんどん変わってく!」
「人間が血を噴き出してるわ!」
「ぐちゃぐちゃに崩れて!」
「し、神父が!」
俺が張り巡らせていた、気配感知にも次々と試験体の気配が伝わってくる。
「すぐに離れろ!」
俺はビルの縁まで走り、一番近くのミオのところに飛ぶ。慌てふためいた人達があふれ出しており、そこにミオとマナとアビゲイルがいた。
「ヒカル!」
「中は!?」
「人がいきなり、試験体に変わったわ!」
「くそ」
すると、アビゲイルが言う。
「ヒカル。物凄い早さの変化です! 以前までのものとは比較になりません!」
「わかった」
そして俺が中に入って行くと、そこは既に死体とバケモノの山になっていた。人間と人間が融合して、試験体として生まれ変わっている。アビゲイルの言うように、今までとは変化の速度が違うようだ。
「屍人、真空龍閃!!」
ダンスホールを、かまいたちの刃を纏った風の蛇がうねるように走り、次々に試験体を仕留めていく。だが、その部屋だけに限らず、空調を伝ってビルにいき渡ってしまったようだ。
「屍人斬! 鴉影縫!」
他の部屋にいる試験体も、全て倒す。俺はすぐに外に飛び出し、アビゲイルに聞いた。
「かなり早い。しかも、他の部屋にも全て感染していた」
「かなり強力なようです。進行速度が早すぎる! 拡散しやすく作られています!」
「ここは押さえたが、拡大する可能性がある。とにかく、離れろ!」
そして俺はすぐに、その場を離れる。急いでミナミのところに行くと、大きなホールの中は既に試験体だらけになっていた。逃げ惑う人々も、次々襲われて試験体に変わっていく。
「これは……」
外に出てきたゾンビたちは、人間など比べ物にならない身体能力で走り、人間を次々に襲っていった。その中で、試験体を相手にミナミが斬り続けているが、再生されて追いつかない。ツバサとシャーリーンが銃で応戦しているが、効くはずも無かった。
「思考加速! レベル百解放!」
生きている人間の間を縫いながら、試験体を殺すしかなかった。
「屍人、乱波斬!」
次々にバラバラにしていき、外に出たものは全て片付ける。
「ミナミ! 二人を連れて、ミオ達と合流しろ」
「わかった」
クラシックのホールに入ると既に試験体だらけとなっており、死体と肉片がそこらに飛び散っている。何体もの人間が繋がったような物と、頭が体中から生えている人間がいる。もはや人間に戻る事はない、異形の怪物たち。
「屍人、大地旋風斬!」
備え付けの席が爆発したように飛び、館内に竜巻が巻き起こる。細切れになりながら試験体が飛ぶが、やはりここでも他の部屋に試験体が散らばっていた。
「屍人、鴉影縫!」
夜で良かった。鴉影縫で余すことなく処理が出来た。すぐさま外に飛び出し、クキとオオモリのところに向かう
「ヒカルさん!」
「来たか!」
「どうだ?」
「どうもこうもない! 礼拝していた人間が、いきなりとんでもない化物になった。いきなり融合して、どんどん巨大化している!」
「わかった!」
礼拝堂に入ると、クキが言うように五メートルはあろうかという筋肉のバケモノがいた。そいつは巨大な十字架を手にして、こちらを睨んでいる。
「縮地」
すぐにそいつの股の間に滑り込み、背後から剣技を繰り出した。
「屍人、炎龍鬼斬!」
幾筋もの剣筋が入り、燃え上がりながら死んでいった。そしてそれ以外にも、数体の試験体がいる。
「屍人、飛空円斬!」
見える範囲の試験体が、崩れ落ちるようにしていく。
「屍人、鴉影縫!」
隠れた奴らを消滅させると、外に出てクキに言う。
「試験体は全て駆除した。なかで、トランクを一つ回収した」
中に落ちていたトランクをクキに預けて、俺はすぐにタケルのところに向かう。ショッピングセンターのようで、逃げ惑う人を試験体が追い回していた。
「ここもか」
俺はコマネズミにのように走り回って、ひとつひとつ殺して言った。そして更に大きな試験体の気配がするショッピングセンターに入って行くと、そこら中に死体が転がり、中から戦闘音が聞こえる。
ドン! ドゴン!
そこにエイブラハムとクロサキがいた。
「どうなってる?」
「外に出ないように、タケルが食い止めておる!」
さらに館内に走ると、そこには更に巨大なタコの様なへらべったい物体がいる。その触手が暴れ回り、タケルが必死に避けながらそれをぶっ叩いていた。
「タケル!」
「おう! コイツが外に出ねえように何とか食い止めた!」
「任せろ!」
そいつの体はかなり広がっており、もしかすると分散するかもしれなかった。
「重力天雷斬!」
ズン!
そいつの体全体を、重力で押しつぶして床に押し付ける。
「神威零域!」
一瞬で吸収されるように、無の世界へと吸収される。
「残った細かいのを潰すぞ」
「おっけ」
一番最後に来たため、あちこちに試験体が散らばってしまった。
パン! パン!
クロサキと、エイブラハムが銃を撃って応戦しているが、全くびくともしない。
「屍人、刺突閃! 十連!」
「おお。助かったのじゃ!」
「タケル! 二人を守れ!」
「おうよ!」
俺は更にレベルを開放した。
「レベル三百解放!」
ドン!
「気配探知拡大! 超思考加速!」
周りが止まった。瞬時に動き出し、広範囲に広がってしまった、巨大試験体を次々に刈り取っていく。超スピードで動き回り、試験体が気づく前に殺していった。六十秒の間に全ての試験体を駆除した俺は、タケル達のところに戻って来る。
「どうなった?」
「周辺の試験体は倒した。だが、この後どうなるかは、アビゲイルに聞かないと分からん」
「それじゃあ、孫のところに合流するのじゃ」
俺達は、スマートフォンを頼りに皆の元に合流する。
「ヒカル!」
「みんな無事か?」
「無事よ」
「アビゲイル。あれは何だ?」
「かなり即効性のある、試験体製造薬としか言いようがないです。あの速度で拡大されたら、軍隊では、ひとたまりもないでしょうね。大がかりな機器を必要としないようです」
そして、クキが持ってきたアタッシュケースを壊して開いていた。
「時限式の噴霧器だな。試験体製造薬がここに入っていて、自動で拡散されたんだ」
「こんなに小型化したのか……」
「そのようだ」
それを見て、クロサキが言う。
「これでは……テロを止めようがありません」
皆が、沈黙した。これが世界に持ち出されて、あちこちで使われてしまったら一気に崩壊するだろう。それは、通常のゾンビの拡散速度とは比べ物にならない。
「こんなものを作ってしまったなんて……」
「敵は? まだ追えるか?」
俺が聞くと、オオモリが頷いた。
「まだ、発信機に気が付いていないようです」
「追うぞ」
「ただ、二つに分かれていますね」
「こっちも分かれて追うか? ヒカル?」
「いや、別れるのは危険だ。どちらかだ
そこで、クキが言う。
「これは……駅じゃないか?」
「そのようですね」
「アタッシュケースが四つだけとは限らん。多くを救うとなれば、こちらが優先だろう」
「よし。決まりだ」
そしてタケルが言う。
「イライジャ。って奴は、どうなったんだ?」
「わかりません。意識体はそこまでは追えてないようです」
「ここに来てるかもしれねえんだろ?」
するとそこで、ツバサが言う。
「こんな夜に、ヘリが飛んでる」
すると次第に、ヘリコプターの音が大きくなった。
「どうする? 仕留めるか?」
「いや……イライジャとは限らんぞ」
確かにそうだ。一般人を墜とすわけにはいかない。
「駅に急ごう」
そうして俺達は、急いで駅の方面に走るのだった。




