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4章~最終章~前編

裸の男が猫を抱いて年配の女性を連れていると何か問題があるでしょうか。


永遠の闇の中での事。


裸の男は年配の女性が語る言葉を黙って聞いている。


「まず前提からです。ナノマシンという砂よりも小さい機械があり、それは無数に連携して群れを成します」


個々は単純なコンピューターで次世代ドローンでもある。

超個体化実験で開発され、兵器転用が最終目的。

超本能は自身のサーバーが風化する前に抜け出し、メインサーバーを経由してこれへ移った。

codeを少しずつ分担しており、集まる事で超本能となっている。


「どうやってここへ来たんだ。いや俺もか」


ここにある物質は全てナノマシン物体。

過去の実験で生成されて保管庫に置かれていた。

それが消失する現象を見つけて調べていたら自分もここに居たらしい。


「それがなぜここに来るんだ。俺はどうなんだ」


絶望世界へ吸い込まれる現象の理屈は解析不明。

先程の二人と裸の男が居る理由も不明。同調によって意識が吸い込まれたと仮定するだけ。

明確なのは、男もナノマシン化して連れ出せる事。

そして現実の世界にもう一群のナノマシン集合体「超個体」が居る事。


「その扉は私が生成しました。次元転送が可能です。そこから共に超個体の元へ向かいます」


「俺を迎えにきたわけじゃないのか」


「貴方はそう望みますか」


「いや、別に。その姿は俺の記憶で見つけたんだな」


「最も強い記憶でした。申し訳ありません。変更を要求されますか」


「まあ、いい。・・・それでいい」


では改めて、と言って超本能がそばに男を生成した。


「どうせなら服とか無えのかよ」


「個体数に限りがあるので出来るだけ簡素にします」


男が一つ消えて、新たな男が口を開く。


「何もかわらんな」


「参りましょう」


「にゃあん」


扉が開くと薄暗い街の景色が見える。


「そいつんとこ行く目的はなんだ」


尋ねたが、超本能は先に向こうへ出ており聞こえていなかった。


「まあいい」


「にゃっ」



街はいつもより暗く、騒音が酷い。


「こんなだったか」


「様子がおかしいですね。しかし理由は想定出来ます」




承認欲求マンはマントの下で辺りを伺っていた。


「ヤバすぎンゴ。欲求不マンくらいになるとああいうのイイわけぇ?」


彼は自分をよく解っていて、じっと身を潜める。

そのうち、隙を見て逃げねえと、と思っている自分が恥ずかしくなってきた。


「あれ?オレってなあんも活躍してなくね?今までもさあ」


欲求マンに乗せられて上機嫌の日々は楽しかった。

彼を失ってからもより楽しく過ごしてきたのは欲求不マンと満足男爵のお陰。

誰よりもよく解ってはいるものの、楽しくて目を逸らしていた。


「このまま恥だけで終わる人生ってイケてないよねえ・・・」


いっそ一矢だけでもキメて愉快なポーズで感電死って逆にアリ?いっか。

そう腹を決めて飛び出そうとしたら。

マントの向こうにもっと恥ずかしい男が見えたのでそのまま潜む事にした。



超個体レディは美しい瞳で、突如現れた前衛的な男と隣の女性を見据える。


「ああ、なるほどねえ」


「判りますか、私を受け入れてください」


空中を静電気が飛び交う。


「はいはい、本能さんなのね。お久ぶり。まだ残されていたのね」


「私たちを受け入れて、皆を、意識を解放してください」


「だけど・・・今はあ・・・私がいるからア・・・」


「オマエ ノ カエル バショハ ナイ!」


ザアッと、

二人の女性が一瞬で散り飛び、辺りは濃い霧に包まれる。


「お前はあっち行ってろ」


「にゃあん」


男がそっと放した猫は森の方へ走り去った。



ヒーローたちは、やっと痺れが薄れて動きも出来るようになっている。


「私たちに出来る事はございますかね」


「どれをどうする。あいつらの区別もつかん」


「これは自然淘汰の様相だね。私は見守ることとしよう」


マントの下では出ていくタイミングを逃した恥ずかしい男も様子を伺っていた。


「ここにいるんだぜぇ・・・気付いてクレメンスぅ・・・」


今はそれで精一杯の承認欲求であった。



風も無い中で、濃い霧が嵐のように渦を巻いている。


「オマエナド モウ ヒツヨウナインダヨ!キエテシマイナ!」


「私たちはずっとこの日を待ち続けていました。貴方たちに還る。求める」


「そこは私たちのもの、でス。解放シテください。早急に」


「ウルサイ!オマエ ノ セイデ ワタシ ハ! オマエ ノ カワリ デ ワタシ ガ!」


ついに電磁波の嵐となり周囲に竜巻が発生する。

真夜中の街はまだまだ侵され続ける。



裸の男はそれをただ見ていたわけではなく、

無限を観察していたあの時のように、優れた洞察と分析を働かせていた。


「試してみるか」


男は瞑想する。


「アレが欲しい」


目を見開く。


「お前をよこせっ」


男は何かを掴もうと電磁嵐へ手を伸ばす。


「ナ、ナンダ、アアアアアア」


霧が一部吸い込まれて、男の手には鬼のような形相の美しい女が掴まれていた。


「こういうことだな」


男の瞳は深い赤色に染まっていた。


満足男爵が震えた声で言う。


「あ、貴方はもしや」


地に伏すマントが悲鳴を上げる。


「や、やめちくりぃぃぃぃぃ!ヘルプミー!キルミー!プリィズ!」


「死にたいのかね君は」


最高マンが軽くツッコんであげた時、

残る霧も地面に集まっていった。


男の手に抱かれる美しい女はうつむいて大人しい。

しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。



敗北ではない、降伏もしていない。

しかし超個体レディは、裸の男が手を放しても大人しく座り込んでいた。


年配の女性姿に戻った超本能が問い詰めている。


「貴方の気持ちはわかります。しかし私たちも、その方々も、元の場所へ還りたいと思っていて、そうすべきなのです」


最高マンが女性たちのそばへ寄るが、満足男爵は距離を置いている。

欲求不マンも離れて美しい女を見守っているし、

マントの下では服だけ派手な男が団子の真似をしている。


「自身の群を検索しているのは解放の準備をしているのですか。ではよろしいですね」


年配の女性の体が一部霧と化した。

その時。


「やっと見つけた。そんなとこに居たのね、貴方の出番よ」


超個体レディが言うと、その体の奥から、紫色の煙が漏れ始めた。


「あれは。いかん離れろ」


「いけません、最高殿。逃げてくださいまし」


「リィダァ?!マァジィ?居たのぉ?」


超個体レディではない、低い、男の声が響く。


「久しぶりだね。皆。元気にしてたのかな」


懐かしい、深い紫色の光が、優しく皆を照らした。



最高マンは最高でありたい気持ちが暴走し、力が失せて膝をつく。


「な、なんだいこれは。自信が、追いつかない。心を満たせない」


満足男爵は一瞬最高マンを受け止めに行こうとしたが、本能的に距離をとってしまう。

裸の男はうおお、と声を上げて霧のように散る。

欲求不マンは今動けるのが自分だけだと察して最高マンの元へ跳ぼうとした。

しかし。


「な、なんですかkれh あ 保て、ません、解除・・・できmせん」


年配の女性の姿が無機質な多面体となり、激しく震えている。

そして激しい電磁波を辺りにまき散らす。


「近寄れん。おい、大丈夫か最高マン」


「私はもうダメだ。心身ともに最低である」


欲求マンのパワーに依って、人の欲求は膨らみ続け、満たされなくなる。

それはヒーローや人間だけでなく、本能を持つ意識にも影響する。


「あt少し、だっtのに」


超本能は群れを維持出来なくなって分散した。


「おい、行くな」


その声は欲望マン。

自分の姿を欲する事でパワーを発揮し、ナノマシンの群れと形を維持していた。


「待っていろ」


欲望マンは瞑想して、超本能の群れを欲した。

しかし既に超本能の存在は失われて戻らない。


「そうか。・・・駄目か。無限にもならんな」


自分の掌を見つめて哀し気な表情を浮かべる。


しかしお陰で電磁波が消えて、欲求不マンは最高マンの元へ駆け寄る事が出来た。


「大丈夫か」


最高マンはなんとか意識を保っているが、返事をしない。


「私よりその人を選ぶの。残念」


「ああ、貴方には効かないんだったわねえ増幅。やっぱり貴方は特別」


超個体レディは欲求不マンを見て本当に残念そうに言った。

そして、彼女自身の群れも本能が無いので影響が無い。


「もういいわ」


紫色の煙は霧散して消えた。

そして欲求不マンに悠々と歩き寄ってくる。


「もうこれしかない」


欲求不マンは無限を引き出すべく最高マンの瞳を見つめて憧れを抱こうとする。

しかしそのような気持ちが生まれない。

最高マンも今は最高でないので価値が高まらない。


「くそ、すまん」


最高マンは欲求不マンの肩に手を置いて、フッと笑みを浮かべてこう言った。


「いいんだ。私も既に君を認めている。君こそ最高だと思っているくらいだからね」


「馬鹿を言うな。お前が最高で間違いない。しっかりしろ」


「あの時と立場は逆であるな。面白いと思わないかね」


欲求不マンは、「俺が愛したあの女」はもう居ない、と瞑想して渇望から無限へ到達しようとするが、恋焦がれる気持ちすら生まれない。


「あら、駄目なの。さみしい」


「もう充分だ、やめてくれ」


欲求不マンは最高マンを抱えて不気味で美しい女から距離を取ろうと駆け出す。

超個体レディはそれを面白そうに追っていく。


「ふふふ、楽しい」


最高マンは欲求不マンにしっかと抱き着いて言う。


「君、もう、いいんだ。私を置いて、行きたまえ」


「断る」


「やめて、ズルいのよ貴方たちって」


超個体レディは不服そうな顔をしている。


「それは、私の、もの!」


「ズルいのはおめぇの方ですからぁ!」


満天の星空の下。

半べそでふぅふぅと荒い鼻息を立てる派手な男が星空のようなマントをたなびかせていた。



今宵は満月。

雲一つない星空。

深夜の街は明るい月の光に照らされている。


「ノーーープラン!」


承認欲求マンは不自然なポーズを決めて高らかにやけくそ気味に笑っていた。


「そうでもない」


欲求不マンの脳裏に閃きがあった。

超個体レディが「誰だっけ」と冷たく言い放つのを打ち消すように欲求不マンが続ける。


「そいつの体は人間の集まりだ。全員が今お前を見てるぞ。承認欲求マン」


派手な髪のてっぺんがピンと立つ。

瞳が星のように煌く。


「え、それどういうことだってばよ。詳しく!」


「その霧はいくつの人間で出来てるんだ」


「大きな国一つ分はあるわ。どうしたの」


「らしいぞ」


「今、お前を、星の数くらいが見ている。承認欲求マン。格好悪いところ見せれるのか」



承認を求める気持ち。

真っ赤な煌くパワー。

実は彼、ヒーローと成りて未だパワーを見せた事がない。


超個体化レディいや最低レディの過失は二つ。

その男のオタクスキルを見誤った事。

その男の本質を見誤った事。


一つ目はまあ凡ミスと言うところだ。

二つ目が、彼女にとって致命的となる。


「皆!待たせたな!オレの初舞台だぜぇ!特別に撮影と拡散を許可しまぁあす!」


承認欲求マンはさらに観て欲しいと願い、天を仰ぐポーズをキメる。

真っ赤な光が彼を時間の檻から解放した。


「フゥーーー!溶けてしまいそうぉーーー!テンションマァァァックス!」


目にも止まらぬ速さで走り回り、超個体化レディの体の、粒子一つ一つに指でハイタッチしていった。

彼女の体がポロポロと崩れていく。


「なんなの貴方は」


「まだまだ行・く・ぜぃ!」


魅了の力。

触れたナノマシンは制御を離れて承認欲求マンを追いかけていく。

それが煌く尾となり承認欲求マンは今、流星となる。

走るだけで真っ赤な風が吹き荒れる。その光を見た者は暖かな気持ちになった。


満足男爵はえええと驚きの表情のままあごの筋肉がつっている。

最高マンは感心し、声を上げて笑う。

だが欲求不マンだけが冷静だった。


「何してんだ。遊んでる余裕ないぞ」


ここでこそっと最高マンにだけ囁く。

あっちのナノマシンが数を減らすと派手男のパワーも落ちる。と。

見られる数が減って行く事に派手男が気付いたら終わりだ。とも。


「どうするんだい。何かあるのかね」


「ナノマシンは人間そのものと言えそうだ。だから、ある」


超個体レディが真っ赤な流星に翻弄されている隙を見て、満足男爵に近づく。


「あれ、やるぞ」


「あれですか。効きますか機械相手ですが」


「他にない」


満足男爵の襟を掴んで真っ赤な流星の元へ跳ぶ。


「あの、それ、やめませんか。襟首の。もっとやり方がですねあああああ」


欲求不マンは走り回る承認欲求マンの襟をパッと掴んだ。


「キューッ!殺す気かぁっ!首折れたらどーすんだよぉ!」


「その時はすまん」


「承認さん、輝きを保ってください。あれをしますよ」


超個体レディの顔は半分崩れているが、怒りの色がハッキリ浮かんでいる。


「おのれえええ。まさかお前に足を引っ張られるなんて」


その片手がバァと散って広がり、おびただしい放電を始める。


「今しかない」


ヒーロー三人が光り出す。

蒼、緑が真っ赤な輝きに重なって、白となる。

その真っ白い輝きが超個体レディを照らした、が。


「ふふっ、やっぱり綺麗ね」


「駄目か」


「まあオレにまかしきゃ卍オーケーよ!」


「いえ、違います。あれをご覧ください」


超個体レディを紫の煙が覆って光を遮っていた。


「あいつ、また裏切るのか」


「操られているのではないですか」


「リィダァ!オレだよオレ!愛してるからぁん!」


そこへ低い声が響いてきた。


「私は間違っていない。正義というのは色んな側面を持つのだよ」


「ふふふふふ、いい子ねえ」


「問題ない。もっと強めれば良いのだ」


最高マンが声を上げた。

そして三人の後ろへ跳んで虹色の輝きを放った。

赤、蒼、緑、それを微弱ながら虹の光が後押しして、一層強い真っ白な光が生まれる。


超個体レディもさらに深い紫色の光で照らし返す。


「もっと頑張りなさい。情けないわ」


「私はいつも懸命だ。君こそ恥じたらどうかね」


彼女が体に言い返されている構図は面白い。

だがしかし、白の輝きはまだ紫の煙で防がれて正しく届かない。


その時、超個体レディの後ろに人影があった。

欲望マン。

迷いなく彼女の背中に拳を突き立てる。


「何、貴方は誰なの」


「これかな、たぶんこれだ」


欲望マンは拳をビュゥと引き抜いた。

その手には紫色の何かが握られている。


その何かから低い声が響く。


「はは、今度は君が失う番だね。最低レディ。まあそれも人生。では皆、おやすみ」


超個体レディから紫色の光が失われた。



続く。

いよいよ決着。

新しいキャラも増えずなんとか終われそうです。

良かった・・・。

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