4章~最終章~後編
人生と言うのは何が幸福か。
とりあえず美味しいご飯を食べましょう。
「ああ、駄目っ」
深い紫色の輝きを失くした超個体レディは裸同然。
今度こそ真っ白な光が煌々と彼女を照らしつけた。
「いやああああ、違う、違うの、やめて、ああ、消える・・・私が居ないと、この子たちがあああああ」
「どこかで聞いたようなセリフだ」
彼女の体が霧になり散って行くのを皆は黙って見守っていた。
街には朝の陽が射し込み始めている。
欲望マンは傍へ来てペロッと舐める猫を抱き上げた。
ここは無限の闇の中。
年配の女性は戻らず、あれから願っても何も来なくなっていた。
若い二人は、そろそろ先へ進む時なのかな、いいよ貴方とならどこへでも行くわ、と寂し気に話し合って手を取り、闇の向こうへと歩いていった。
「それでも、僕は確かに幸せになれた」
「私も、これが一番だったと思ってるよ」
いつどう消えるかよりも、どんな気持ちで行くかが大事だよね、と二人は頷き合っている。
確かに彼らは満たされているし、人生と言うのは何が幸福か、なんて誰に答えを出せるものでもない、のかも知れない。
開店前のヒーロー食堂だが、
いつもより人の気配はあるものの静かである。
承認欲求マンは筋肉痛で寝込んでいるらしい。
満足男爵に買ってもらった小型PCがあるので大人しくしているそうだ。
満足男爵は新しいメニューを試しに振る舞おうと厨房で調理中。
最高マンは衣装を簡素に新調して、以前より親近感がある。
名前を変えようかなと言って皆を驚かしている。
欲望マンも居た。
満足男爵に済まなかったと謝罪して驚かせていた。
あの派手なのにも伝えておいてくれ、と言ったが、ご自身で言うべきです、とたしなめられて
「ああ、そのうちな」
ぶっきらぼうに言うが、その言葉には真摯さを感じられる。
「こんなのになったが、せっかくだからな」
せっかく「超本能が残してくれた」から。
これからは人類を守るヒーローとして出直すらしい。
「もう行く、じゃあな」
店を出ていく彼の後を、猫が機嫌良く追っていった。
満足男爵が「あの方ってなんだか貴方に似てますよね」と欲求不マンに詰め寄るが
「さあな」
とあしらわれる。
「名前と言えばだね、君の名前、まだ聞いてないんだ」
訊くタイミングをずっと伺っていたんだろう。
目は逸らして尋ねてきた最高マンに、
「美空だ。美空克秀」
と答える欲求不マン。
最高マンは、いや、そうではなくて、と言い掛けたが、言い直す。
「私は伊藤アルテュールだ」
「外国人だったのか」
「クォーターさ、フランス系のね」
「ふうん」
そこで欲求不マンは察した。
「ああ、すまん。俺は欲求不マンと名乗ってる」
「やあ、欲求不マン君。私は最高マンという。よろしく」
「知っている」
超個体レディが散り去った後。
皆が去ってまだ欲求不マンはその場を見つめていた。
そこへ白くぼんやりと、何かが光っているので掌で救ってみた。
「何だこれは」
その白いぼんやりが電子音を奏でた。
「チョウコタイ ト ヨバレテマス ワタシ。モウスコシ ナイノカト オモイマスガ」
欲求不マンは
「そうか」
と言って、それをこそっと懐にしまいこんだ。
満たされる事を禁じて世の為、人の為に働く彼が、内緒で少しだけ満たされたとしても誰が責めるだろうか。
それでも彼はその秘密を懐に隠し続けて、これからも人類と欲求を守る為に戦い続けて行くだろう。
そういう男だ。
欲求不マン
完。
無事完結出来ました。
楽しかったです。




