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3章~紡がれた悲劇~後編その2

真のヒーローは最後に現れる?

最高マンは、満足男爵と共にディスプレイを覗き込んで目を凝らしていた。


「すまない、説明を頼めるかい」


「彼女は、ええ・・・最低レディでしたか、こんな顔ですか」


あの謎めく美しい顔に間違いが無かった。むうと声が漏れる。


「超個体化というのは何だろうか」


「んん・・・人間の集合体が一つの知的生命体として進化する、とありますね」


「それは人間なのか」


「呼べません。おそらく」


ブラウザの画面に映る画像は「超個体化プロジェクト開発スタッフ」とある。女性である。

最高マンが飽きる程見てきた、あの顔。


「十年以上も前に中止されたようです。結構な昔の事ですね」


「ふむ、理由は」


「それも判りません。ただこのスタッフは、計画が中止する以前から行方不明とされていますね」


「その理由も判らないかな」


「・・・いえ、判りました。彼女は、亡くなっておられます。実験中に。何かのです」


それは悲惨な事故。悲劇の始まり。

時としては、世界中の人々にビジュアルドラッグが送信されるよりも、ずっと以前。


そこで最高マンのシーバーが警報音を鳴らす。

街からの緊急通報による。



承認欲求マンが尋常でない騒動に目を覚ました時。

窓から様子を見て、出来るならもう一度眠りにつきたい、と願った。


彼の目には、剃刀の刃を大量に巻き込んだ竜巻が見えた。おまけに地震も来ている。

剃刀の刃という認識は不十分。

本来なら辺りの全てが粉々になっていてもおかしくないのだ。

しかし、竜巻の主がまだ踏みとどまっているお陰でそうならぬよう制御されている。


「ちょ、シャレになんないって!何なに?!地球爆発する感じぃ?!ゴッドがアングリーしちゃったん?」


その神が身近な友人だとは夢にも思わない、派手なパジャマの男だった。



場に着いた最高マンと満足男爵は、状況が理解出来ないのでとりあえず災禍の中心に来た。

それは正解。

構造色の嵐は欲求不マンから噴き出しているし、震源地もそこだと一目で判る。

仕組みは不明だが、欲求の無限が発生してるのも解った。


「今度は君独りでやってるのかい」


無限の厄災を無限で共に打ち破った親愛なる友人が、今は無限で街を消し飛ばさんとしている。

どんな皮肉か。

最高マンの脳裏にあの顔が浮かぶ。


「彼は今意識があるのかな」


満足男爵がオペラグラスで欲求不マンを観察する。


「どうでしょうか・・・。ああ、あれです。やはり思った通りですね」


「霧か」


欲求不マンの頭部に薄く掛かっている霧。

吹き荒ぶ嵐は光が乱れ飛んでいるだけ。霧が風に飛ばされはしない。

そしてそれが今、彼をからかうように囁き続けていた。


「哀しいかな。それとも苦しいのかな。切ないのかな。もしかして怒ってるのかしら」


「ごめんね。もう逢えないけど、貴方の事本当に好きだったのよ」


「私も逢いたかったのに。貴方がもっと寄り添ってくれていたら」


轟音響き渡る中でその繊細な声がはっきりと聴こえるのもおかしな話。

だが今の欲求不マンに考える余裕はない。

理性を保ち、光線の嵐が人を傷つけないよう制御するのが精一杯だった。


最高マンが、虹色の光輪をいくつも顕現させて、それを体に纏った。


「私が行く以外にはないわけだな。なぜなら私が最高だからだ」


「そんなもので防げるのでしょうか。心配になります」


問題ない、そう言って満足男爵に背を向けてからまた振り返って言う。


「そんなもの、という君の発言については後にしよう」


鳥のように飛び立つ。

余裕を見せたのは配慮。精一杯の虚勢。



最高マンはこの嵐に対する備えが足りなかった事について、そもそもが自信過剰であり、身の程を知るのに良い機会だったと結論付けた。

構造色の光は蒼と黒で性質が違う上に、分子の隙間まで入り込んで無限に反射し続ける。

虹色の光輪とは光の性質が別格。輪が色とりどりに砕け飛んでいく。

彼の豪華な鎧は金、銀、ダイヤモンドで飾られてあり、見栄え以上に強靭なもの。

そのダイヤへ構造色が入り込むと砕け飛んだ。不安と修繕費が頭を過る。

不味い、非常に、不味い。これは不正解だったか。


「いやはや、改めて思う。君は最高だな」


欲求不マンは制御に集中。沈黙のまま。


「そういえばだね、同じ過ちを繰り返さない事が肝要だな。今すぐ君に伝えておかねばならない」


飛び交う蒼の光線がバイザーを粉砕し、最高に整った顔立ちが露呈する。


「最低レディは私が名付けたんだ。いや、これじゃない」


地から舞い上がる黒の光線が体をかすめて金飾り、銀飾りを吹き飛ばす。


「彼女は、そもそもだ、最初から、居ないのだ」


「あれはとっくに亡くなっている。怪人ですらない。我々は騙されていたんだよ」


欲求不マンが荒んだ吐息を吐き出し、大地が激しく揺れる。


「だめか。君、そうか、これだ。目の前を見たまえ」


「賢い君なら解るはずだ。これは罠だよ。よく見たまえ」


「君は何も失っていない。彼女は、そこに、まだ、居る」


最高マンの露呈した顔に大量の血が滴って来た。

しばし後、光線は無限の様相を失う。



ここは絶望の無限。

闇の中でまたおかしな出来事が起こっていた。


若い女と幸薄い男の前に、結構な年配の女性が立っている。


「ど、どちらさまで」


「私には大事な用がありまして、今は失礼しますね。色々ありがとう」


年配の女性は頭を下げて走り去った。


さっきまで腕に抱かれてきゃっきゃとしていた幼子が、気付くとそうなっていた。

これは二人の、ここで初めての不幸。


それはさて置き、年配の女性は迷う事なく扉へ向かう。

猫を抱きかかえる裸の男はそこにまだ居た。

彼は女性を見たとたん、猫を落としてしまった。


その姿は彼が亡くした母親のものであり、さらにこう言う。


「ここで会えて良かった。貴方に頼みたい事があるのです」


「い、いや、おま、あんた、誰だ」


「詳しくはまた次にしましょう。私は超本能のcodeを引き継いでいます。一緒に連れて行って欲しいのです」


男には今更であり、それほど驚きもせず少し考えていたが、


「いいだろう。ちゃんと説明はしてもらうぞ」


と猫を抱き上げて、もう一度女性をよく見た。



まだ途方に暮れる若い女と幸薄そうな男。

彼らが願ったのは子供ではなく「奇跡」だった。

それは時間の概念が無いこの世界へ赤子の姿でやって来たが、ついに本来の役目を果たそうとしている。

二人は顔を合わせ、またきちんと願い直せばそれでいいか、と笑い合っていた。



ようやく嵐が収まり、欲求不マンの正気も見えた。

駆けつけてきた承認欲求マンが、なんだお前だったの~じゃあいいや、と何やら勘違いして安堵しているが、パジャマ姿なのに気付いてまた帰って行った。

もう一度来るらしい。


「さあ、諦めて出て来たらどうかね。最低レディ、いや、超個体クン」


満足男爵が息を飲み込む。

欲求不マンはジトっとした目で宙を見つめる。

最高マンは鎧の飾りを直しながらまた言った。


「最低レディ、いや、失敗作の超個体クン」



それがどこから来たのか誰も目で追えていなかった。

大量の霧がサァと舞って集まり、徐々に形を成していく。

欲求不マンの目に動揺の色が浮かんだ。


再び、美しく怪しく悩ましい女の姿がそこに現れる。


「どういうことだ、一体」


肩をすくめてクスクスと笑う。懐かしいあの仕草。

それは次第に見苦しい高笑いとなった。


「くくく・・・ふふふふふ・・・・あははははははははは」


「私の勘が当たっていたわけだ。君は最高に危険だった」


最高マンの整った顔は得意げに見える。


「頼む、解らせてくれ」


欲求不マンが不満そうな顔をしているので、満足男爵は少し気にしていた。


「馬鹿なぁ・・・フフフッ・・・馬鹿な人間たちの、滑稽なこと!」


女の姿は映像のように時折ノイズが走る。


「もう少しで、たぁのしい事になったのにねえ!」


「わからん。本当にお前なのか」


欲求不マンは状況を把握した上で理解を拒む自分の思考に戸惑っていた。

いつの間にか戻っていた承認欲求マンが「それが恋ってやつさYOU!」と喚き、満足男爵に取り押さえられる。



「とりあえず、君、彼女は敵だ、それだけは間違いない」


「事情があるかもしらん」


欲求不マンは気まずそうな顔で戸惑っている。


「君というやつは。隙を突かれるぞ」


「どいつもこいつも。馬鹿ばかりなんだから。あははははは」


超個体レディはザアと全身を散らせた。


霧のようだが、ナノテクノロジーコンピュータの結晶。

粒子一つ一つに人間の意識が格納され、女王である女のユニットに皆が従う。

そして一つ一つが電気を帯びた兵器。


「白の輝きで成仏してくれそうにもありませんね」


満足男爵の言葉に、

承認欲求マンは怨恨系女子を思い出して、何だかすっぱそうな顔をしていた。


間を置かず、最初に最高マンが霧に包まれた。

人は全身にスタンガンを受けるとどうなる。

彼は引き付けを起こし戦闘不能となった。


「あはははは、ばあか、ばあか、アハハハハハハ」


変なあだ名をつけやがって、とばかりに楽しそうな声が響く。

しかしその声は絹の擦れる様でなく、ただの電子音となっていた。


「終ワレ、終ワレ馬鹿ドモ、アハハハハハハ」


霧は承認欲求マンへ向かう。


「実はぁこれ、絶縁マント。悪いけど一人用だから、乙!ゴーホーム!グッバイ!」


覆い被ったマントの隙間へ霧が入っていき、彼は可哀想な事になった。


「アハハハハハハ、逃ゲ惑エ、アリ共」


(アリの集団はお前だ)


霧が欲求不マンの前に舞い込んで来る。

欲求不マンは全力で対策を練るが、無い。覚悟を決める。しかし。

霧は目の前で女の姿となった。


「何のつもりだ」


「だって、まだ何も話してないもの」


美しい顔が切なげに歪んだ。

欲求不マンは動揺と戦慄に身が固まる。


「なぁんてね。アハハッ」


サァと彼女の手が散って欲求不マンの頭を包み込む。


「いけません」


バチッと電気が走る瞬間、満足男爵の咄嗟に放ったフォークが避雷針となっていた。


「モウ、面倒ナノガ居ルナア」


「お前どこまで」


「一度退きましょう。このままでは全滅です」


その時、通り来た激しい雨によって、

彼らの敗北が決定した。


「何コレ、スゴイネェ、アハハハハハハ」


水滴を伝わる高圧電流。

欲求不マンと満足男爵も感電し、戦闘不能となった。


「じゃあ、ゆっくり分解していこうかなあ」


超個体レディが実体化していく。

美しく、卑しく、恐ろしく。


「一緒にぃ・・・霧になりましょねえ」


その時。


「間に合ったようだぞ」



突然、一体どこから来たのか、

猫を抱いた裸の男が年配の女性を連れて現れた。



最終章へ続く。


思い付くまま書き連ね、気が付けばオーバーランが過ぎてしまい。

予定外の第4章まで雪崩れ込んでしまいました。

これ以上キャラが増えませんように。

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