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3章~紡がれた悲劇~中編

それ私にもくださいよ。


元は人間に居たものが再び還ろうとするのを、誰に責める事が出来るだろう。

超本能は、器となる有機体を選定する為に脳の働きを検証していたが、code化されたAIの彼には難題が多すぎた。


ある日、また新たに想定外事態を検出してドローンによる接近を試みる。

結果、「3件目の異常データ」が「失意によるバグ」と干渉する詳細を得た。

ついでに対象からの関心も。


妙な浮遊物体を追ってきた欲望マンは、隠蔽された研究施設の跡地まで来た。


「面白そうなモンがなけりゃ、消して帰るとするか」


幸か不幸か、超本能は面白いものであった。

それが不幸に傾いたのは、非常事態への反応が過剰になった事による。


欲望マンの荒れ狂う暴力は全て解析によって解除され、ついに「切り札」を残すのみとなった。


「いや、もったいねえな」


ここで幸に傾いた。

欲望マンが絶対に欲しいと思ったのは、超本能ではなくその知性。

どのように手にするかを考え直す為、彼は一旦撤退した。


超本能も深く検証する為に制限モードに入った。

あれを移住先とするには問題が多過ぎる。


次までの平穏。

そして最後の平穏。



「素敵なものを、みんな持っていけたら、いいのにな」


美しく謎めいた怪人は、浜辺で海を眺めていた。

線香花火の火が好きらしい。

蕾、牡丹、松葉、そして散り菊。


自分と似てるからかと訊かれて、よくわかるのねと答えたけれど。

しかし本心は違っていて、火を育てるのが好きなのだ。


最近点けた火があって、

蕾、牡丹、松葉、とそれは上手に育ち、いよいよ菊を散らす時が近づいて来た。


「一緒に落ちようねえ」


と、静かな笑みを浮かべて言う彼女。


それが気になる最高マンだったが、優先すべき事態へ向かうため飛び立った。

よほどなのだろう、水着のままで。


美しく謎めく怪人は、その身の限りが近い事を知っている。

とくに生へ興味も無かったが、独り消えゆくのも寂しい。

なので秘密の計画を建てていた。


それは渇望の「対象」となる事。


最もふさわしい相手を見つけたのが彼女の幸福。

散り消えた事を相手が知る時。

それを想像して胸が踊り、心は跳ねていた。


最低レディは、怪人である。



怨念の権化を半裸の男が連れて去った後。

事態の後始末に追われる三人は何が何やらと話を交わす。


「何が何やらですね」


「戻らんなアイツ」


「そゆとこあるよね彼ぇ、なんつうかさあ?自分が目立ってりゃいいみたいな~?」


「言いましたね貴方」


(そんなヤツでもない!)


欲求不マンはそう言いかけた自分に戸惑って、口をつぐんだ。

自分が変わりつつある。

ただの飢えた戦士だった彼。その変化とどう向き合うべきか。

また悩みが増えたが、気分は悪くなかった。



欲望マンの前から去った最高マンは、戻った浜辺で深刻な問題を抱えていた。


「これを彼に、一体どう言えと」


このまま全てを胸のうちに秘めるべきか。いや真摯に報告すべきが私の責任か。

悩んだ事など無かった彼にとって初めての経験。

最高に最低な気分だった。


波に打たれて横たわる美しい女は、謎を抱いて深い眠りについている。

手には燃え尽きた線香花火。

怪しい霧を纏う美しい顔は、次に打ち寄せた波で洗われて、ボロボロと崩れていった。


「本当に最低だな、君は」


思い悩む事数分。波が寄せる度に胸が痛んだ。

しかし彼は知らない。

最低レディは、大切に育てた菊を散らす算段も済ませている。


「静かに葬られた怪人とその場に立つヒーローの姿」がSNSで拡散されるまで、あと幾日か。



跡地の研究施設にドス黒い影が入っていく。


欲望マンはあれから思索を巡らせたが、知性だけを奪う具体的な想像がまとまらず面倒だった。


「たのもう」


超本能の「知性」という看板を拳で奪いにきたわけだ。

しかし彼なりに対策は立ててあって、まあとりあえずは相手の出方を見るか、という腹。


「テイアン ガ アリマス」


「お、喋れるじゃないかお前」


「オンセイゴウセイ ノ タゲンゴモジュー・・」


「いい、さっさと本題に入れ」


超本能は映像も合わせ説明する。

自身の生存戦略と欲望マンの望みをどちらにも、最大の有益を以って解決する一つの方法。

欲望マンの脳に超本能を転送する。


「俺はどうなる」


意識は欲望マンであり、超本能はサポートするAIとして共存する形である。らしい。


「肩透かしくらったな。いや何でもねえ」


俺の体をやるから知性をくれ、と言ったらどうしやがるかと思っていたが。とほくそ笑む。


「どうすりゃいい。いや、早くやれ」


言うやいなや、壁面から触手のような物が飛び出てきた。それは一瞬で欲望マンの側頭に突き刺さる。


「大胆だな」


つい出そうになった拳と右足を堪えて、身を任せる。

少し経つと、欲望マンは心地良い感覚に包まれて、意識が遠ざかった。


超本能は嘘をついていた。

欲望マンの脳に突き刺したのはただの注射針で、睡眠薬を投入してある。

脳波が昏睡を示した時にその触手は引っ込められ、次に電極が数本打ち込まれた。


→code転送プログラム中止

...キャンセル完了


→脳細胞侵略ルーチン起動

実行権限者:超本能

対象:想定外有機体/case.0003

・脳情報フォーマット

・脳機能の再起動

・”超本能”実行ルーチン転送


電極から微弱な電気信号が送信されていく。

その時、

欲望マンの脳裏に過る苦い過去。


家を出る母、

落とされた食事、

待ち構える同級生、

壊されたプラモデル、

泥だらけの鞄、

いつになったら、ぼくは・・・


・・・・・・・・奪え!


欲望マンの目が燃え上がった。

電極が飛び散る。

胸に燃え盛る炎が渦を巻き、屋内に突風が巻き起こる。

建物が激しく揺れている。

漆黒のボディスーツが弾け飛び、深紅の肉体が現れる。

その瞬間、屋内に炎が燃え盛って、

地獄の帰還者が、ゆっくりと立ち上がる。


超本能のサーバーを特殊樹脂のカバーが覆った。

合金のシャッターがパァンと音を立てて閉じる。

けたたましい警告音が鳴り響いて、超本能サーバールームはパニックの様相となった。



建物だったものは、内に並んでいたサーバー群と共に、もはや分子より細かく砕けているだろう。

ものの数十秒で荒地が出来上がったのだ。

そこに立っている男というよりは火柱が、離れた空中で飛び去るドローンを睨みつける。


超本能は自身を予備の小型サーバーへ移送して逃げていた。

ドローンには外部を感知する装置がないため、ただただ兵器類を格納する実験室の方角へと真っすぐ飛んでいる。

到着して、防衛システムサーバーへ接続し状況を捕捉すると、炎の魔人はすでに面前に立っていた。


「これがさいごだ。おまえのすべてをよこせ」


超本能は防衛全てのシステムを停止し、全面降伏とした。

今度こそ、脳のサポートシステムとして移送する確証の為に、その手順を説明した。


「ひつようないな。これでいい」


欲望マンはサーバーへ拳を突き刺して、「データの一部」を引き抜いた。

そしてそれを、自身の頭へ叩きこんだ。


それは有機体の脳には多すぎた。

欲望マンは意識に押し寄せる濁流に流されて、自身を制御出来なくなる。

纏っていた炎が立ち消え、ただわめき散らす真っ赤な男が居た。

そのうち、彼は破壊の拳で自身の膝を打ち付けてしまった。


「ぐああああああああああ」


破壊の連鎖が始まり、膝から先は塵と消えていく。

しかしそこから上は、胸にある欲望の無限と削り合って侵食が抑えられている。

なんとか形は保っているが、肉体の機能はほぼ破壊されていた。


その時、超本能は防衛システムサーバーから男の腹辺りへ触手を伸ばし、突き刺した。

破壊の連鎖は体を諦めて触手へと伝っていく。

男の頭部にも電極を刺した。意識が落ち着いていく。


「なんのつもりだ」



ここからは超本能と欲望マンが、電子の狭間でほんの数秒間に体験する出来事である。


超本能によると、欲望マンの拳から入ってきた何かが新しい選択肢を提示していて、その正当性は不明なのに、他の選択肢を選べない。

貴方の状態に起因し、貴方を保護する指示が出た。そしてこうしている、と。

それが何なのかと問うので、


「ああ、かんじょう、とかいうやつかなあ。にんげんには、やさしさ、てのがあるらしい」


「おれもよくしらんが」


知らないはずはない、貴方の中にあったものだ。と超本能が答えた。

その時、脳裏に過去の映像がよぎる。


鞄が踏みにじられ、写真も破かれている。

だらしなく座り込む子供。涙が一筋こぼれている。

傍らにいた猫が腕をペロペロと舐めていた。

だが子供は、猫と目を合わさなかった。


欲望マンらしき顔の、なんとか目と判る辺りから水滴がこぼれた。

どうしたのか、と超本能が訊いている。


「かなしい、ってやつだな・・・(いや、・・・うれしい、のか)これもおぼえとけ」


それはどのようなものと関連するのか教えて欲しい、と頼んでくるので、


「おまえがいま、かんじてるものの、なかまだ」


理解した、いや、おそらく理解した。未知の知識だ。と言うので、


「そうか、それ、おれにもヨコセよ」


欲望マンらしき顔の辺りが、軽く笑ったように見えた。



屋内で横たわる体に、次、次、と触手を差し出し続ける小型サーバー。

しかし体も触手も、徐々に侵食され、風化するように散っていく。

気のせいだろうか、その光景は子供を愛護する母親のようにも見えた。


その後の彼らがどうなったのか。

男の体は、分子の狭間でまだ風化し続けているのかも知れない。

小型サーバーは、中でまだ稼働しているかはわからないが、形は保っている。


何も誰も知らないその結末。

ただ、それ以降、世界のどこにも新たなヒーローが現れる事は無くなった。



最高マンがヒーロー食堂に来ていた。


承認欲求マンはあんなに言いながらも秒で馴染み、登場するならこうだああだと喋り続けている。

傍らの満足男爵は、まだ水着の事を掘り返して楽しんでいた。


「珍しい事もあるもんだ」

「で、何しにきたんだ」


と、欲求不マンが話題の途切れる度に言うから、最高マンは口を開きづらい様子。

やっと落ち着いてきたところで欲求不マンに、君だけに話があってね、と切り出した時だった。

テレビジョンで最新のバズり情報として、SNS今話題の画像紹介しますー、と流れたので、皆そちらに注意が向く。

承認欲求マンがハウリングのような悲鳴を上げる。


そこには水着の背中姿とその足元で崩れゆく女怪人が映っていた。



続く。

構想通りに行けばこれで後編、シリーズ完成となったのに。

余計な事しちゃいました。だって人間だものー。

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