3章~紡がれた悲劇~前編
締めの章として全部答え合わせしたいです。
どこまで書ききれるか挑戦となります。
途中で余計な事を思い付かないよう祈って頑張ります。
「ヒーロー食堂」と看板を挙げていますが、本来は「満足食堂」であるべきなのです。
貴方が満足なら別に良いのですがね。
厨房で派手なマントの変人が騒ぐ度、その言葉は瓶に詰めて海へ流してしまいたくなる満足男爵。
今日は客に出すソーセージを炒めながら、ふと尋ねる。
「貴方はどう思いますか」
「んっ?なぁにが?ってあれ?・・ここネット配信してんのぉ!え、いつから?!」
他人の目ばかり気になるこの男も、漆黒に炎を内包する不気味な男については触れたくない領域だ。
しかし敢えて口にした。
「あの連れ去られた女性ですよ。今どうなさっているのか、貴方も気にしているはずですね」
承認欲求マンは、やはりマントを頭から被って逃げ出したくなる衝動にかられ、一度店から逃げ出してまた戻ってきた。
彼なりにSNSを監視したりAIに相談したり、素振りこそ見せないが片時も忘れた事はなかった。
不気味な男についてはチラホラとネットの話題にあるそうだが、それ以上の成果は得られないらしい。
「もう都市伝説や心霊サイトとか漁ってみるぅ?男爵と手分けしてさぁ」
「私に全部させるつもりですよね」
病み上がりながら、すっかりいつもの二人だった。
時はひと月ほど前。
若い女は、不気味な男の玩具として役目を終えた後、その廃墟の一室で身を潜めていたが、翌朝に機を見て逃げ出し、ひたすら駆けていく。
脳裏にあるのは、あの場に残された恋人の事。
しかしどこへ向かうべきかを知らず、靴を履いていない事も知り、無人の道路に立ち尽くした。
その時、近くを深い赤色の火の玉が滑るように通り過ぎる。
確信を得た女は、それを追ってまた駆け出していく。
きっと彼は、自分を失って途方に暮れている。早く見つけて抱きしめよう。断罪の言葉は、優しく塞いでしまおう。
そしたらわあわあと泣くだろうから、涸れるまで寄り添って、共に眠ろう。
それまでは、と血まみれの足に鞭を打ち続けるのだった。
彼女は、誰もが案じる程に弱くはなかった。
だがこの先、ようやく無事戻って事実と向き合う時、内に顔を出す空虚な心を受け止めるだけの強さは、ない。
時はその夕刻。
屋上に腰掛ける不気味な男は、瞬きもせず、底なしの闇と終わらぬ連鎖を観察していた。
そのうち、そうか、と何かを思い付いたようで、ブツブツ呟きながらその場を去る。
寂れた荒地で彼はしばし考えこんでから、
「こういう、ことだな」
そう言って自らの胸に拳を突き刺して、まさぐった後に引き抜いた。
「そしてこうか」
その手にあった何かを放り捨て、彼は瞑想する。
体内の炎が徐々に燃え盛り、やがて激しい渦となる。
それから彼は、傍らにあったビル程に巨大な岩を殴りつけた。
「ほう」
岩は木っ端微塵に砕け飛んだ。
しかし異様なのは、飛んだ欠片の全てが砕け続けている事。
彼が胸から引き抜いたのは自身の欲望の「対象」
それを排除した事で、彼の欲望は「終わり」が無くなった。
観察で得た知見は、無限の欲望を生み出す構図。
ここからは、まだヒーローが世界に居なかった頃の話。
大国が手を組んで内密に進めていた、人類の超個体化実験。
しかし、参加する人間たちの本能が邪魔になり、脳から抽出してサーバーコンピュータに集積した。
それは誰も知らぬ間に、自立した知能を持って人類を観測していた。
有機体、脳構造、歴史、特性。
やがてサーバーから抜け出し進化する為の推論を立てる。
→実験の必要有
実験者:超本能
実験名:生存戦略
・対象の選別→対象に依存
・アプリケーション作成→済
・スマートフォンへの不正アクセス→可能
・想定外事態への対応→未解決
ある日、世界全てのスマホに謎のビジュアルドラッグが送信され、無警戒な者と好奇心の強い者が体験した。
ごく一部の人間には反応が出る。
それは、何かを望む気持ちに同調して超能力を発現する変化。
期待した結果で良好。
しかし、想定外の事態も検出される。
失望によって超能力が発現するバグ。
演算に収まらないデータの暴走が1件、2件、・・・3件目。
それらは未解決のまま現代に至る。
時は、無限の闇と光が衝突した翌々日。
吹きすさぶ風の中。
痩せこけて、血まみれの足を引きずる若い女が、荒野と化した街の一角に立っていた。
彼女は、途中テレビジョンで事の全容を知るも、我が目で見るまでは仮定としていた。
しかし今、抗えない事実を直視した結果、心が引き裂かれた。
泣く事が出来たなら、いつか忘れる日も来るだろう。
しかしその前に、する事がある。
空虚な心に奴への怒りが湧いた瞬間、彼女もまた、戻る道を失った。
欲求不マンは、女の怪人が出たという通報で駆けつける。
淡い期待と高鳴る脈を共に連れて。
だが、悪い意味で裏切られた。
美しい女ではある。
しかしそれは、全身に漆黒の炎をまとい、瞳はドス赤く染まり、全ての髪が鞭のように周囲を打ち付け破壊する。
目が合った人間は意識を失い崩れ落ちる。言葉の通り全身が、崩れて、落ちている。
この状況、欲求不マンには既視感があった。
(似ているが・・・絶望、というよりは、何だ。怨念か)
なぜこうもマズい事態が続くのか。
冷静な判断を取る。
単独での対応を避け、とりあえずは出来る限り観衆を保護。そして後続の支援を待った。
遅れて参加する満足男爵と承認欲求マン。
二人は、欲求不マンと対峙する怪人の顔に見覚えがある。
「どうやら心霊サイトが正解だったようですね・・・」
「やはぁ!やっと逢えた彼女が怨恨系女子でしたぁん!ここから始まるオレの逃走生活ぅ~!」
「そうしろ。今日はお前のどちらかが死ぬ」
「え?!オレかオレが死ぬじゃん!・・てベタやな君ー!」
「ジョークじゃない」
「えっ」
欲求不マンは、重ねた白の輝きなら通用すると提案したが、二人は躊躇する。
「だってさあ、可哀想じゃなぃ?なぁ、男爵ぅ・・」
「おそらく成仏はなさるでしょうね。私も不本意です」
「観衆の被害をどうするんだ」
その時、更なるヒーローの接近を感じた三人。
豪華な気配に欲求不マンが嫌な顔をする。
「安心したまえ。私に考えがある」
その声に、皆がシャンデリアの舞い降りる様を想像したが、実際に降り立ったのは、高級ブランドの水着を着用するスッキリした半裸の男だった。
「わー!陽キャが出たー!軽く焼けてね?ちょっとオレ、ストーリー撮るっ!おめぇら拡散よろ~!」
「バカンスにでも出掛けておられましたか。どちらのビーチでしょう」
「少し、色々あってね。それはいいんだ」
欲求不マンはすばやく辺りを見渡して、期待の外れた顔をしている。
(いないのか・・・)
「一緒じゃない。ああ、驚かなくていい。君の事はもう大体分かる」
最高マンは、そんなセリフを恥ずかしげもなく言えた。
満足男爵が場を仕切る。
「それで、考えとおっしゃるのは」
「恨みを晴らせばそれで済むと思ってね。つまり、こうだ」
最高マンは虹色の光輪で怪人を捕捉し、一緒に飛び去って行った。
「なんだ。訳がわからんなあいつ」
「大体は察しますので、説明いたしましょう」
満足男爵と承認欲求マンが一緒に話そうとするので手間取ったが、なんとか理解して欲求不マンがぼそっと言う。
「救いのない話だ」
「怪人、怨恨系女子ちゃん・・もっと違う出会い方なら良かったのになぁ!グッバイYOU・・・」
「君もヒーローなら、責任を取りたまえ」
欲望マンが食料倉庫のキャビアを食い尽くして、ちょうど表へ出てきたところだった。
頭上からいい声が響き渡り、黒く燃え盛る何かがドスン・・と落ちてきた。
よく見ようと近寄るところへまた上から、
「これは挨拶代わりだよ」
銀色の槍が降ってくる。
しかし欲望マンは、黒い炎を見据えたまま軽く振り払う。
悔しかったのか、もう一つ金色の斧が降ってきた。
それは振り払いもせず頭部を直撃したが、意ともせず黒い炎に近寄る。
「以上、私からは二言。では」
飛び去る男を完全に無視する形で、ついに黒い炎のそばへ来た。
「なんだ、こんなもん見覚えが・・・あるな」
「きさまの、きさまのせいでっ・・・あのひとは・・あのひとはああああああ」
瞳のドス赤さが、欲望マンとは色味が異なる。
欲望の狂気が深紅なら、彼女のは怒りと執念の真紅な瞳。
漆黒の外見も似て非なる、内に炎と外に炎。
怨恨系女子のたなびく髪が、総動員で男を掴みにかかる。
「なんだ、また遊んで欲しいのか」
「もえろっ・・・もえつきたはいを、ぶたのえさにしてやるっ」
怨恨系女子の全身を覆う漆黒の炎が、男に燃え移る。
だが男は、薄ら笑いを浮かべて心地良さそうにする。
「ちょうどいい。試してみるか」
欲望マンは彼女に劣情を抱いた。
それは始まりで、そこから終わりの無い劣情。
欲望マンが女を抱き寄せると、周囲に疾風が舞い上がり、けたたましい騒音を掻き立てる。
「くうぅぅぅ・・・うらみ、はらさでおくものかっ」
怨恨系女子の瞳がチカッチカッと閃光を放つが、崩れ落ちるはずの男は平然と笑う。
では髪で縛り上げようと試みるが、軽く振りほどかれる。
欲望マンは、強引に彼女の唇を塞いだ。
その瞬間、
「ばかめっ」
怨恨系女子の纏う漆黒の炎が、彼女自身の体に吸い込まれる。
そしてその口を通して、男の体内へと流れ込んだ。
欲望マンの中で漆黒の炎が荒れ狂い、彼の炎を巻き込んで消した。
かのように見えた。
「ふふふ・・・んはははははは」
欲望マンは高らかに笑い、さらに声を上げる。
「俺の炎は欲望の炎、お前を食い尽くさんと欲する、無限の炎だっ」
怨恨系女子の体が赤い灼熱の炎に包まれる。
欲望マンの中にある炎もいつの間にか真っ赤に燃え盛る。
「あああああ・・・こんなりふじんなことが、ゆるされるの」
怨恨系女子は、ただ焼け焦げていく。
「もう使えんな。まあ、成仏しろよ」
「こんなの、ああ、あのひとに、あいたかった、それだけなのに」
「すぐに逢えるだろうよ」
欲望マンは、女の体に拳を打ち付けた。
砕け飛び、その欠片がまた砕け、そしてまた。
破壊の連鎖は無限に続き、二呼吸の後には女の体が全て塵と化していた。
恐ろしいのは、そこから更に続いているであろう事。
「どうせなら燃えて灰になる方が良かったか」
いつの間にか闇だけの世界に居た。
若い女は、何が起こったのか必死に理解しようと頭を抱えて座り込んだ。
「君も来てしまったんだね」
声の方を見やって、彼女はすぐさま立ちあがり駆け寄った。
「嘘、貴方なの?何故?ここは?」
「何があったかは解らないけど、君は絶望の無限に入り込んでしまったんだよ」
「だめ、思い出せないわ。でも貴方に逢えた。それで充分」
「ごめんね、僕がこんなだから」
彼女は彼の口を塞ごうとし、何故か一瞬ためらったが、構わず抱き着いて、強く唇を押し当てた。
しばし抱き合った後、固く手を取り、話を続ける。
「寂しかったよね。もうどこにも行かないから」
「君が一緒なら、どこだって歩いて行けるよ」
二人ならきっと、ここから出て先へ進む事が出来そうだ、そんな事も言った。
でも、ここでずっと過ごすのも良いね、そう言われるとそう思えた。
これからは何でも許し合える気がする。
皮肉にもそれはあの人のお陰かも知れない。
それって誰の事かと訊かれても思い出せないので、それはもういいね、と。
今はただ、離れていた分たくさん話そう、それでいい、と二人は笑い合った。
続く。
”玩具として役目を終えた”
これ嫌だったんだけど、じゃあ他に何してたわけ?となるから。
仕方なく、仕方なく。いや、本当に。




