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第2話 アクト

――あなたは? 彼女は僕を知っているのだろうか。


「あの、アクトさんですよね?」


アクト? 記憶をなくす前の僕のことだろうか。

それともよく似た別の誰かなのかな。


彼女は立ち上がって僕に近づいてくる。

その顔は、驚きと喜びが混じったように見えた。

彼女は僕の顔を色々な角度から観察している。


「あぁ、やっぱり。アクトさんだ! 昔と全然変わってないですね。」


どうやら僕は以前に彼女と会ったことがあるようだ。

最初に会えた人が、僕のことを知っている人で良かった。

彼女に聞けば、以前の僕のことがわかるかもしれない。


「あの……僕のことをご存じなのですか?」

僕の言葉に彼女は少し眉をひそめた。


「えっ……アクトさん、ですよね?」

先ほどとは変わり、胸の前で手を握り不安そうな顔をしている。

この反応は当然だ。知り合いだと思った人間からこんな言葉を聞いたらそうなるだろう。

ここは正直に話しておいた方がいいかな。


「実は僕、記憶喪失みたいで……以前のことを何も覚えていないんです。」

僕の言葉を聞いた彼女は、手を口に当てて目を見開いた。

「えっ……アクトさん記憶喪失なんですか?」


「はい……なので、僕がアクトって人なのかどうかもわからないんです」


彼女は口に手を当てたまま沈黙し、小さく頷いた。

「わかりました。良かったら村長に会っていきませんか? 以前のアクトさんと一番話していたのは村長ですから、何か思い出すかもしれませんよ?」


「是非、お願いします。」

僕は二つ返事で彼女の提案を受け入れた。


この提案は願ってもない展開だ。僕の方からお願いしたいくらいだ。

僕のことを知っている人に話を聞いてみたい。


「わかりました、では案内しますね」


彼女は村の方に手を向けて、先に歩き出した。

僕は後を追うように歩き出し、彼女の横に並ぶ形でついていく。


歩きながら、彼女が小さく笑みをこぼす。

「それにしても、なんだか不思議な感じですね」

「何がですか?」


彼女は口元の手を下ろし、懐かしむように優しく目を閉じながら答える。

「見た目は昔と変わらないのに、中身が全然違うみたい。以前のアクトさんは”僕”なんて言わなかったですし、もっと天真爛漫って感じでしたよ?」


以前の僕ってそんな感じだったのか。正直、聞いてもピンとこない。

僕は目が覚めてから僕だし、手帳にはそれらしいことは何も書いていなかった。

アクトという人間がどういう人物だったのか、色々聞いてみたいな。


――気づけば、村の入り口に差しかかっていた。


「さぁ、村の中へどうぞ」

彼女に案内されるままに、塀を越えて村の中へ入っていく。


中に入り辺りを見渡すと、木造作りの家々が並んでいた。

辺りは緑で囲まれており、家の傍には小さな畑なんかも見える。


「村長の家は奥ですよ」

彼女は僕の手を引いて歩き出す。

その手に引かれるまま僕はついていった。


歩いていると、すれ違う人達が僕の顔を二度見する。

「あれ? アクトさんじゃないか?」


やはりアクトと呼ばれる。

彼女だけではない。みんなが僕をアクトとして認識していた。

きっと以前の僕を見たことがあるんだろう。

でも、見られているようで見られていない。

僕を通して別の誰かを見ているようで、少し居心地の悪さを感じてしまった。


気が付くと、彼女が不思議そうに顔を覗き込んでいた。

「アクトさん、どうかしました?」

僕は笑顔を作って返した。

「いや、何でもないよ」


「そうですか? もうすぐ村の中心です。村長の家はすぐそこですよ」


まださほど歩いてないように感じるけど、もう中心か。

この村で一番以前の僕のことを知っている人物にもうすぐ会える。


「あの家ですよ!」

彼女が指さした先に目を向けると、他の家より一回り大きい木造の家があった。

家の前まで歩いていき、彼女が扉を叩く。

「村長、お客さんですーっ」


少しして、扉が開く。

「はい、どなたですかな?」

出てきたのは体つきのいい老人だった。


「村長、アクトさんだよ!」

彼女の言葉を聞いた村長は、僕の方を見て目を見開いて固まった。


「……アクト、なのか?」

村長はゆっくりと僕の肩を掴む。

「おお、アクトだ! アクトなんだな!」

久しぶりの再会を喜ぶかのように、勢いよく肩を叩いてくる。

「村長、アクトさんはね、記憶喪失なんだって」


「なに? 記憶喪失? アクト、わしらのことを覚えていないのか?」

先ほどとは打って変わって、寂しそうな顔をする村長に、申し訳ない気持ちで答える。

「はい、何も覚えていないんです……なので、昔の僕のお話を聞けたらと」


村長は眉をひそめて、指で顎ひげを撫でる。

「そうか、わかった。話そうじゃないか、中に入りなさい」


「ありがとうございます」

僕はお辞儀をしてから、村長の家に入る。


「それじゃ、私はここまでね。村長、アクトさんをよろしくね!」


「あぁ、わかった。任せておけ」

村長は彼女に手を振る。

僕は振り返って、彼女に向けてお辞儀をした。

「ここまで案内してくれてありがとう」


「またね、アクトさん」

彼女は手を振りながら去っていった。


彼女の姿を見送った後、村長は扉を閉めて歩き出す。

「こっちだ」

村長の後についていくと、大きなテーブルがある部屋に案内された。


部屋の奥の椅子に村長が腰を下ろす。

「まぁ座りなさい」

僕は入り口から一番近い位置にある椅子に腰かけた。


「さて……お前、本当にアクトだよな?」



お読みいただきありがとうございました。

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