第1話 手帳の導き
――草木の揺らめく音と、鳥の囀りが聞こえる。
冷たい風が衣服の間を通って抜けていった。
その感覚に意識を取り戻し、瞼をゆっくりと開いていく。
碧く澄み渡った空が眩しくて、僕は思わず目を細めて右手で光を遮った。
ここはどこなんだろう……なんでこんなところにいるんだろう。
体が妙に重い、というのだろうか。うまく力が入らない。
何とか上半身を起こして辺りを見渡した。
馬車が通れるくらいの道があり、他は草が生い茂っている。
後ろには大きな樹が一本、他には何もない。
僕は道の脇で寝ていた、ということなのだろうか?
思い出せない……なんでここにいるのか、どうやってここに来たのか。
それどころか自分のことすら思い出せない。
名前も……何をしていたのかも。
……僕は一体誰なんだ。
身の回りを確認する。
腰には剣がぶら下がっていて、胸には金属製の胸当て、手には革のグローブ。
そして、左手に握っている手帳。
ここに何か書いてあるかもしれない。
僕は手帳を開いて中を確認することにした。
ゆっくりと最初のページを開いていく。
これは……旅の記録?
中には地図と立ち寄った場所での出来事が簡潔に書かれている。
僕は他に情報がないか、次々にページをめくっていく。
しかし、どのページにも地図とその場所での出来事しか書いていない。
僕の名前はもちろん、誰の名前も出てこない。
ただ起きたことが書いてあるだけだ。
村に立ち寄った際に、村人を救った。襲ってくる魔物を退治した。
僕は旅をしていたのか?
行く先々で魔物を退治したりして回っていた?
空を見上げる。
青い空にゆっくりと雲が流れていた。
しばらくの間、雲を眺めていたけど、何も思い浮かばないな。
……この日記の通りに進んでみよう。
今、僕にある手掛かりはこの日記だけ。
この日記をなぞって進んでいけば、何か思い出すかもしれない。
それに、これ以外に何か手がかりになるものはなさそうだし……。
まずはこの日記の最初のページにある、村に向かってみよう。
日記の地図を確認すると印がついている場所がある。
僕は辺りを見渡す。このマークの場所って……ここ?
道の形状と僕の後ろにある樹が地図と一緒だ。
なんでこの場所に印が?
……前の僕のことなんて、今考えてもわかるわけないよね。
僕は立ち上がって、手帳を頼りに歩き始めた。
この地図だと、きっと村まではそんなに遠くないはずだ。
そこに行けば僕を知っている人に出会えるかもしれない。
村に僕を知っている人がいなくても、この日記を頼りに進んでいけばいつか知っている人に会える気がする。
小一時間ほど歩いていると道が広くなっていた。
そろそろ半分くらいまで歩いてきたかな?
最初重かった体もいつの間にか軽くなってきた。体が固まっていたのかな?
体が軽くなったことで、先ほどよりも歩くペースが上がっていく。
日記を取り出して最初の村での出来事を確認する。
最初の村では魔物を退治して、村の子供を助けたって書いてあるけど……。
助けた子供に会えるかな? そうしたら僕のこと覚えてくれてるかな?
そんな期待と少しの不安を抱えて街道を進んでいく。
――更に三十分ほど歩いたところで、道の先に塀で村が見えた。
「あそこだ!」
僕は駆け足で進んでいく。
近づいていくと、塀から少し離れたところに女性の姿を見つけた。
村の人かな?しゃがみ込んで何してるんだろう?
僕は近づいて話しかけることにした。
「すいません、そこの村の人ですか?」
僕の声を聞いた彼女は、ゆっくりと僕の方に振り返る。
「えっ? そうですけど――」
振り返った彼女は僕の顔を見て目を見開いた。
「あ、あなたは――」
お読みいただきありがとうございました。
続きが気になった方はブックマーク登録いただけますと励みになります。




