プロローグ
大きな樹が立っているだけの広い草原、空は淡く紫がかった色に染まっていた。
風で草木がなびく音だけが聞こえてくる。
大きな樹から少し離れた所に、空を見上げている一人の青年が立っていた。
右手には手帳を持っており、束ねられた長い後ろ髪は風でなびいている。
服や体には無数の傷があり、旅路の厳しさが窺えた。
草木の音でかき消されそうなほど小さな声で青年は呟いた。
――これで終わりなのか?
青年はそれ以上何も言わず、力なく歩き始めた。
しばらく進んだ所で青年は立ち止まり、再び空を仰ぐ。
「なぜこれでは駄目なんだ。教えてくれよっ!」
叫びは広い草原に広がり、やがて消えていった。
「俺のこれまでの旅は、何だったんだ――」
その直後、一人佇む青年の前に、突如いくつもの眩い光が集まってくる。
突然のことに一瞬固まる青年。
しかし、集まっていく光を見て青年は眉をひそめ、握りこぶしに力を込める。
「そうか……」
青年は手に持った手帳に目を落とした後、再び空を仰いだ。
*
夜明け前の冷えた空気の中、霧がたちこめる街道に、フードを被った青年が一人歩いていた。
フードからはこぼれた赤い髪が風でなびいている。
虚ろな目をした青年は、今にも崩れ落ちそうな足取りで、前へ進んでいた。
暗く何もない街道を、一定の速度で歩いていく。
道の脇に大きな樹が見えた。
青年はふらふらとその樹に引き寄せられるように近づき、立ち止まる。
時間が流れ、辺りは霧が晴れて、太陽が昇り始めていた。
――糸が切れたように青年が倒れ込む。手には古びた手帳が握られていた。
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