↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

青空になる(前編)

登場人物紹介

 田中《たなか》貴史《たかし》:主人公。三三歳、サラリーマン。桃華の教育係をしていた。

 花咲《はなさき》桃華《とうか》:ヒロイン。二三歳。先輩の貴史をからかうのが好き。酒豪。

 久瀬《くぜ》亜香里《あかり》:桃華の幼なじみ。自称(・・)二二歳。実際は、貴史と同年代っぽい? 

 森《もり》和雄《かずお》:桃華の祖父。六〇歳。バー『カスク』のマスター。実はガンダムファン。

 時刻は午前二時半。

 丑三つ時である。

 すでに終電もなく、出歩く人もまばらだった。

「ここが、戦いの場ですね……」

 後輩の花咲(はなさき)桃華(とうか)が呟く。

「その通りよ。貴ちゃん。絶対に負けないんだから!」

 自称二二歳(・・・・・)の久瀨(くぜ)亜香里(あかり)が言う。

「……ふむ、どれだけやれるか、お手並み拝見とさせていただきましょう」

 バー『カスク』のマスター、森(もり)和雄(かずお)が静かに語る。

「…………なんか、みんなノリがいいな……」

 三人の勢いに推され気味の貴史だった。


 貴史達は、六階建てのビルの目の前にいた。

 ビルの二階部分に看板があり、そこには、『ネスト』と書かれていた。

 今日の目的のネットカフェの名前である。

 このビルの一階と二階が『ネスト』だった。

 なぜ、こんな深夜に、四人でぞろぞろとネットカフェの前にいるのかというと――

 単純に、『カスク』で閉店まで盛り上がってしまったので、二次会としてネットカフェで遊ぶことになったからだ。

 明日――というか既に今日なのだが――は、普通に仕事があるというのに、勢いというのは恐いものだ、と、貴史は思う。

 もっとも、ネットカフェに行こうと提案したのは、貴史なのだが。

「そういえば……みんなここの会員証もってる? 確か、全員、会員カードがないとダメなんだけど、みんな持ってる?」

『ネスト』では受付した人だけでなく、利用者全員の会員証を出す必要があるのだ。

 利用者の身元確認が必須だからだ。

 無論、これから会員登録すれば問題ないが、意外と手間なので、このド深夜に、これ以上余計な時間は使いたくなかった。

 すると――

 桃華、亜香里、そしてマスターも『ネスト』の会員カードを取り出して見せていた。

 なぜか、みんなドヤ顔だった。

「へえ、みんな会員だったんだ」

「ふふん」

「………………」

 当然でしょ、と言わんばかりの亜香里に、静かに頷くマスター。

「わたしも普通に漫画を読みに行ったりしますね。それに――」

 桃華は、言いながらなぜかほくそ笑んでいる。

「なんだよ」

「秘密です」

 桃華は、にやにやと笑みを浮かべるのみで、結局理由は言わなかった。

 ――なんだ?


 受付の右手にある、エスカレーターで、二階に上がる。

 上がってすぐに、左手にドリンクバーコーナーがある。

 この『ネスト』では一階だけでなく、二階にもドリンクバーコーナーがあった。

 一階のドリンクバーコーナーに比べれば簡素なものではあるが、イチイチ一階に下りなくて良いというのはありがたいことだった。

 ドリンクバーコーナーを越えると、そこには広々とした空間がある。

 ここがアミューズメントエリアだった。

 目の前にはビリヤード台が四台あり、その奥には目的の場所であるオンラインダーツマシンが並んでいる。さらに奥を見ると卓球台があった。

 時間が時間なので、遊んでいる客はあまりいなかった。

 壁際には大きめの部屋が並んでおり、それがカラオケ部屋だった。


 どんなゲームをするか、話し合った結果、ダーツをすることになった。

 正直、貴史としては、ダーツもビリヤードも一度もやったことないのでなんでも良いと思っていた(体力的に卓球はNGとさせてもらった)。

 ダーツについては、桃華の提案だった。

「なんだか、楽しそうじゃないですか」

 とのことだった。


 ダーツマシンがある場所に着いた。

「さて…………どうしようか。俺、ほとんどダーツやったことないんだけど」

「大丈夫、あたしも似たようなもんよ。――あたし、勝負事で手加減はできないから、覚悟してよね」

 亜香里がファイティングポーズをとっている。

 やる気満々のようだ。

「俺も負けない――――ん?」

 マスターがカバンから、小さなケースを取り出している。

 そのケースから慣れた仕草で取り出したのは――ダーツだった。

「私はこちらを使わせていただきます」

「え、マスター?」

 貴史は戸惑っていると、

「さて……わたしも……」

 桃華もカバンから同じようなケースを取り出していた。

 ケースの中は当然――ダーツだった。

 二人とも、まさかのマイダーツ(・・・・・)所持者だった。

「花咲? お前……マスターもだけど、経験者か?」

 貴史が声を掛けると、桃華は、ふふん、と笑みを見せた。

「いえいえ、そんな。たいしたことはないですよ。――たまに、ここで遊んでいるぐらいですから」

 そう言いながらも自信ありげな桃華。

「私も同じようなものです。――店を閉めた後、たまにやってるぐらいですよ」

 と、マスター。

「いやいや、二人ともマイダーツなんか持ってて、たいしたことないわけないじゃん」

「大丈夫ですよ。ハンデはつけますから」

 桃華は、余裕の笑みを見せていた。

 なるほど、だから遊ぶゲームとしてダーツを選んだわけか。

「くっそー、絶対負けねえぞ、なあ、久瀨さん」

「そうね。なんとか目にものを見せてやろう、貴ちゃん!」


 ダーツ対決が始まった。

 ルールは、カウントアップとすることになった。

 カウントアップは、ゼロ点からスタートし、特典を加算していくゲームだ。

 一ラウンド三本ずつダーツを投げていき、八ラウンド終了後の得点を競う、というシンプルなルールのゲームだ。

 だが、シンプルな故に、実力差が如実に出るゲームでもある。

 普通にしてたら経験者二人には勝てないので、貴史と亜香里にはプラス一〇〇点のボーナスポイントをもらっての勝負となった。

「よし」

 店から借りたダーツを三本持ち、スローラインの前に立った。

 投げ方については、マスターと桃華から教わり済みだ。

「あまり、力を入れちゃダメですよ。やさしく、紙飛行機のように投げて下さい」

「わかってるよ」

 桃華のアドバイスに応えると、貴史はダーツを投げた。

 あまり力を入れず、テンポ良く三本のダーツが的に刺さる。

 だが、三本の内一本は刺さらずポトリと、床に落ち、もう一本は的の外側に刺さっていた。

 一本はなんとか刺さったが、よりによって三点のシングルの位置だった。

 つまり今回合計点数は、そのまま三点である。

「あちゃー」

 貴史は頭を抱えた。少し隣なら一九点か一七点だというのに。

「だめねえ、貴ちゃん。ダーツというのは、こう投げるのよ!」

 自信満々で投げる亜香里。

 だが、力が入りすぎていたのか、三本とも的から外れていた。

「えー、そんなぁ。くっそー、次は絶対当てる!」

 亜香里は悔しそうだ。

 ――とりあえず、久瀨さんは、俺と同レベルなのはわかった。後は、マスターと花咲がどうかだな……


「次はわたしですね」

 桃華がマイダーツを持ち、ダーツマシンの前に立つ。

 そして構えを取り――投げた。

 明らかに、貴史や亜香里とは動きが違っていた。

 結果は――当然のごとく三本とも的に刺さっていた。

 しかも、一本は、真ん中に刺さっていた。

 確か、ブルといって、五〇点らしい。

「すげーな」

 貴史は感心していると、

「ありがとうございます」

 と、はにかむ桃華。

 ――なんか、こちらとはレベルが違う気がするぞ……


 次は、マスターだった。

 マスターもマイダーツを持ち、洗練した動きでテンポ良く投げていた。

 結果は――三本とも、真ん中の的に刺さっていた。

 ブル三回分で一五〇点である。

「ちょっと、できすぎですね」

 マスターは、恥ずかしそうに苦笑いをしていた。

 一〇〇点のハンデでなんとかなる気がしなかった。


 そんなこんなで、一ゲームが終わった。

 結果はというと――

「やったー、わたしの勝ちっ!!」

 一位は桃華だった。

「なかなかやるじゃないか、桃華」

 僅差の二位はマスターだった。

 そして、三位は――

「よし、貴ちゃんには勝った!」

 拳を突き上げて喜ぶ亜香里。

「マジかよ……くっそー」

 最下位は貴史だった。

 上位二人は、ハンデ込みでもまったく勝負にならず、亜香里にも完敗していた。

 ――俺、下手くそすぎ……

 己の下手さ加減に絶望し、膝から崩れ落ちる貴史だった。


       *


 ――しまった。やりすぎちゃったかな……

 あまりの負けっぷりに、打ちひしがれている貴史を見て、桃華は独りごちる。

 桃華は、せっかく田中先輩とプライベートで遊ぶ機会ができたということで、かなり気合いが入っていた。

 四人で遊ぶことになったのは残念ではあるが、それでも貴重な機会であることには変わりない。

 桃華は、実施するゲームを得意のダーツにすることで、田中先輩にいいところを見せようとしたのだ。

 ダーツなら、格好いいところを見せられると思って。

 普段なら絶対勝てない祖父に勝てたのも、その気合い故である。

 だが、頑張りすぎたため、田中先輩をオーバーキルしてしまった。

 田中先輩は未だに、大敗のショックから抜けていないのか、膝をついたままだ。

 後輩に、ゲームとは言え惨敗して、プライドが傷ついてしまったのかもしれない。

 ――どうしよう……

 いつもなら、挑発の言葉のひとつもかけたいところだが、これ以上傷口に塩を塗りたくっていいものだろうか。

 桃華が躊躇していると――

 すっと、田中先輩が立ち上がった。

 そして――

「花咲」

 田中先輩は、こちらを見た。

「…………はい、なんでしょう」

「花咲がこんなにダーツ上手いなんて知らなかったよ」

 その表情は、悔しそうでありながら、楽しそうでもあった。

「え?」

「いやー、マジで凄いわ。投げるフォームも様になっていて、格好良かったなぁ。――やっぱり、マスター直伝なのか?」

「…………そ、そうですね。小さい頃から、お祖父ちゃんと遊んでました」

「そっか。さすがだな」

 田中先輩は、うんうんと頷いている。

「センパイ…………なんだか、楽しそうですね。悔しくはないんですか?」

 あれだけ打ちひしがれていたのに、からっとした態度に不思議に思ったので、訊いてみた。

 すると――

「はあ? なに言ってんだよ、悔しいに決まっとるわ!」

 田中先輩は、心底悔しそうな表情で言い放った。

「え?」

「でも、だからこそ、面白いよな。――さあ、次のゲームをやろうぜ」

 田中先輩は、にっと不敵な笑みを見せた。

 ――馬鹿だなぁ、わたし……

 よくよく考えれば、わかることだった。

 田中先輩は、手加減されて喜ぶような人ではない、ということを。

 やっぱり、本気でやろうとしたことは間違いではなかった。

 桃華も素直に、ゲームを楽しもう、と思った。

 と――

「ただ…………」

 田中先輩は、突然言いづらそうな表情を見せた。

「どうしました?」

「…………その、ハンデについては、見直してもいいか? さすがに今のままだと勝ち目ゼロなんで……」

 少し恥ずかしそうな表情の田中先輩。

 桃華は、目を丸くして――クスリと笑った。

「いいですよ。――適度なハンデで、またゲームしましょう。でも、私も負けませんよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。