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第四話:崩壊のノイズと、死神の足音

たった一度のミスが命取りになるのが芸能界だ。

 ましてやそれが、隠し通してきた「致命的な真実」の暴露であればなおさら。

 女神のメッキが剥がれた瞬間、信者たちは最も残酷な糾弾者に変わる。

 復讐は、一瞬の爆発では終わらない。

 じわじわと、積み上げてきたすべてが崩れ去る音を、特等席で楽しむものだ。

鼓膜を破らんばかりの怒号が、東京ドームを揺らしていた。

 数分前までルナのイメージカラーである純白に染まっていた三万人のサイリウムの海は、今や乱気流のように荒れ狂い、次々とアリーナの床に叩きつけられている。

「ふざけんな! アサヒの曲を返せ!」

「人殺し! よくもそんなツラでステージに立てたな!!」

 怒声、罵声、悲鳴。

 観客たちが放つどす黒い負のエネルギーは、ステージ上でへたり込むルナに容赦なく降り注ぐ。

「違う、違うの……! あれは捏造よ! 誰かが作った偽物なの!」

 マイクを両手で握りしめ、必死に弁明しようとするルナ。だが、ピッチ補正オートチューンという魔法を失った彼女の素の叫び声は、あまりにもヒステリックで、ただ耳障りなノイズでしかなかった。

 僕は暗闇のPA卓で、その光景を見下ろしていた。

 完璧だ。映像のタイミングも、彼女が最も無防備になる最高音(ハイB)の瞬間を狙って補正を切ったのも。

 すでにSNSでは、今の映像がとんでもない勢いで拡散されているはずだ。関係者席にいたスポンサーの重役たちは次々と席を立ち、足早に出口へ向かっている。警察が動くのも時間の問題だろう。

「き、貴様ぁぁぁ!!」

 背後の鉄扉が蹴破られ、このライブの総責任者である大手事務所の社長・黒岩くろいわが血走った目で飛び込んできた。

「神代とか言ったな! この映像を今すぐ止めろ! 主電源を落とせ!」

「お断りします」

 僕は振り返りもせず、淡々と答えた。

「システムには既に特殊なプロトコルでロックをかけました。物理的にケーブルを切断しない限り止まりませんよ。……もっとも、今さら映像を止めたところで、もう手遅れですが」

 黒岩が僕の胸ぐらを掴み上げる。十九歳の細い身体が持ち上がるが、僕の心拍数は少しも上がっていなかった。

「損害賠償で一生刑務所から出られないようにしてやる……!」

「なら、一緒にこのデータも警察に提出しましょうか」

 僕はスマホの画面を、黒岩の眼前に突きつけた。

 そこには、黒岩の事務所がルナのCD売上を裏金で水増し工作していた証拠と、僕――『如月アサヒ』の印税を不当に搾取していた裏帳簿のデータが映し出されている。前世の僕が、死の直前に疑念を抱き、密かにクラウドへ逃がしていたものだ。

 

「なっ……! お前、なぜただの新人マネージャーがこれを……!」

「さあ? 如月アサヒの亡霊が枕元に立ったんじゃないですか」

 黒岩の太い腕から力が抜け、僕は静かに床へ着地した。シワになった襟を払いながら、彼に冷たい視線を向ける。

「黒岩社長。ルナはもう終わりです。あんな喉が潰れた不良品、これ以上庇えばあなたの事務所ごと沈みますよ。興行師なら、損切りのタイミングは分かるでしょう」

「……貴様、何が目的だ」

「提案です。ルナを即刻解雇し、社会的に抹殺すること。その代わり、僕が『次の如月アサヒ』を用意します。あの女よりずっと美しく、ずっと圧倒的な才能を、僕のプロデュースでね」

 黒岩の目に、一瞬だけ打算の色が走った。

 彼にとって、アイドルなどただの商品に過ぎない。ルナの代わりになり、さらに莫大な利益を生む存在がいるなら、迷わず乗り換える冷徹さを持っている。

「……そんな原石が、お前に見つけられるとでも言うのか」

「ええ。僕は、耳だけは無駄に良いんで」

 僕は黒岩に背を向け、スタッフ用の裏口へと歩き出した。

 振り返ると、ドームのステージでは、ついに暴徒と化した一部の観客がフェンスを乗り越えようとしており、警備員が必死で止めている地獄絵図が広がっていた。

 ルナは頭を抱え、ただ蹲っている。

 彼女が欲した「狂信的な愛」が反転し、今、彼女自身を食い殺そうとしているのだ。

「さようなら、ルナ。君の地獄は、ここからが本番だ」

 非常扉を開けると、夜の冷たい空気が、熱を帯びた僕の頬を撫でた。

 如月アサヒの復讐は、これで第一幕が終了。

 明日からは、神代朔による「本物の歌姫」の育成劇――第二幕の始まりだ。

第四話、最後までお読みいただきありがとうございます!

 ルナの失墜が決定的なものになり、朔の武器が単なる音楽知識だけでなく「前世で集めていた裏帳簿」にも及ぶことが明らかになりました。黒岩社長とのヒリヒリとした駆け引き、いかがでしたでしょうか。

 ただ相手を破滅させるだけでなく、その焼け跡と権力をちゃっかり利用してのし上がるのが神代朔の恐ろしいところです。

 ここからは、いよいよ新しい原石ヒロインを見つけて育て上げる『プロデュース編』へと突入していきます。

 「ルナのざまぁが最高だった!」「次に見つける原石が気になる!」

 と思っていただけましたら、ぜひページ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、神代朔の次なる活躍を応援してください!

 ブックマークや感想も、執筆の大きな力になります。

 次回、第五話。

 復讐者が次に出会うのは、どんな才能なのでしょうか。お楽しみに!

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