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母の背中と、私の股関節。 〜変形性股関節症、手術への決意〜  作者: 水瀬 悠里


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【第13章】

第十三章:ペンギンから人へ


退院まで四週間と言われていた私の足。


それが、理学療法士さんの努力と、ほんの少しの根性のおかげで、

三週間と一日で退院できることになった。


……とはいえ。


退院まであと二日に迫った朝、

私はまだ、まともに歩けていなかった。


杖がなくても歩ける。

けれど痛みは残っていて、

歩き方は完全に“ペンギン”だった。


「……こんなんで、日常生活いけるのか」


思わず、そんな不安が頭をよぎる。


すると同室の人が、担当の理学療法士さんに同じようなことを聞いていた。


「私、こんなに痛くて大丈夫かしら」


理学療法士さんは、穏やかに答えた。


「ここだと、ベッドとトイレくらいしか歩かないですよね。

おうちに帰れば、ベッドに座ってる暇なんてなくなります。

日常生活の方が、回復は早いんですよ」


その人は私より二日早く退院していった。


手には、自主トレのしおりと注意事項の書かれた紙。


──アフターサポート、万全だわ。


そう思った。



そして、退院前日。


「腕は確か。でも痛い」と噂の理学療法士さんが、

手術三日目ぶりに担当になった。


久しぶりの再会に少し身構える。


その人は、私の歩き方を一通り見たあと、さらりと言った。


「ゆうりさんの場合ね、左足は手術で“正常な向き”に直ってるんだけど、

右足も曲がっちゃってるからねー」


「ペンギンから人になるには、それなりに筋力がついて、

身体がこの足に慣れるまで時間かかると思っておいた方がいいです」


……やっぱり、そうか。


薄々、感じてはいた。


でも、はっきり言われると、

少しだけショックで、

同時に、どこか納得している自分もいた。


長い時間をかけて、痛め続けてきた足。


それは、一瞬では元に戻らない。



その時、ふと、思った。


「無理して、すぐ元の生活に戻らなくてもいいんじゃないか」


これまでの私は、

多少の痛みも無視して、

長時間立ち続け、歩き続けてきた。


でも、その結果が、今のこの足だ。


それなら。


今回は、違う選択をしてもいい。


身体も、心も、

少しずつ取り戻していけばいい。


メンタルも疲弊していることだし、

これはちょうどいい機会なのかもしれない。


そう、ぼんやりと思った。

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