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母の背中と、私の股関節。 〜変形性股関節症、手術への決意〜  作者: 水瀬 悠里


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【第12章】

第十二章:重たい足


翌日から、もう立つ練習が始まった。


ベッドから起き上がり、車椅子に移乗する。


たったこれだけのことなのに、動くたびに足に激痛が走る。

まるで鉄の塊でも張り付いているかのような、ものすごい「自分のものじゃない」感じ。


動かすたび、何かに押し潰されているような違和感。


足って、こんなに重たいのか。


こんなものを、私は昨日までふわふわ動かして歩いていたのか。

健康な身体って、なんて尊いんだろう。


「こんなの、動くようになるわけない」


そう思った瞬間、胸の奥から絶望が押し寄せた。



しかも私の場合、日本人には珍しい「X脚」だった。


ずっと膝が曲がっているのだと思っていたが、実は股関節が内転していることで起こるものらしい。


先生は笑いながら言った。


「ちゃんとした向きで入れたからね。まぁ、人より時間はかかるかもしれないけど、ちゃんと治るから」


つまり今、今までの「間違った使い方」で癖づいた筋肉や腱が、

一斉に「なんじゃこれぇー」と悲鳴をあげている状態らしい。


そりゃ、痛いはずだ。



呻きながら、毎日リハビリを続けた。


同じ日に手術をした人が、

五日で車椅子になり、

翌日には付き添いなしになり、

その次の日には歩行器で歩いている。


私はというと、そこから三日経っても歩行器にならない。


「いや、仕方ない。私の方が大工事だったのだ」


そう思ってはみるものの、

やはり他の人の回復が見えてしまうと焦りは隠せない。


回診に来てくれた執刀医に、思わずこぼした。


「いつまでも痛いよー」


先生は少し笑って言った。


「ゆうりさんはちょっと長いかもね。でもね、ある日突然、動けるようになるから」



──そして、本当にその日が来た。


朝起きた時、ふと気づいた。


「あれ?昨日より痛くない」


車椅子への移乗も、もちろん痛い。

けれど、昨日までのあの絶望的な痛みではない。


健脚で痛い足をリフトしてベッドに上げるスキルも、いつの間にか身についていた。


そこからは早かった。


痛む場所は日ごとに減り、

リハビリも、苦痛というより挑戦になっていく。


車椅子から歩行器。

歩行器から杖。


メニューはどんどん進化していった。



そして10日目のリハビリ。


担当の理学療法士さんがカレンダーを見ながら言った。


「今日から12日後を退院の目安にしましょう」


「え、マジすか?やった!」


ついこの間まで

「もう歩けない」と思っていた。


それが今は、

「また歩ける」という希望に変わっている。


人間の身体って、本当にすごい。

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