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母の背中と、私の股関節。 〜変形性股関節症、手術への決意〜  作者: 水瀬 悠里


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【第11章】

第十一章:入院の日


そして少しずつ、バッグに入院準備を始める。


キャリーに詰めたのは、パジャマ一組と、普段着ているロンT。

全周ゴムのパイル地パンツに、トレーナーとインナー。

タオル大小、ハンドタオル。


……それだけのはずだった。


なのに、なぜか荷物はとんでもなく多い。


ネットで推奨される「あると便利な100均グッズ」、しめて二千円分。

あると便利な大型ポンチョ。

ポータブル加湿器。


これが、地味に重い。


まだ洗顔セットもメイク道具も入れていないのに、キャリーもサブバッグもパンパンである。


当日。

夫にすべて持ってもらい、私は杖と小さなバッグだけを持って病院へ向かった。


駐車場には今日入院と思しき人たちが何人もいたのだが──

みんな、驚くほど身軽だった。


「あなただけよ、こんなでかいの」


夫に苦笑されながら、私は受付へ向かった。



翌日。


手術の予定は13:00から。

とはいえ、説明書には「呼ばれ次第」と書いてある。


……なかなか呼ばれない。


待合室では、夫と娘が待っている。

「あともう少しって感じなんですけどねぇ」と看護師さんが様子を伝えに来る。


「まぁここで焦っても仕方ない」


そう腹を括り、私は読書に励むことにした。


ちょうど物語はクライマックス。

目が離せないほど面白い場面だった。


その時、ようやく名前が呼ばれた。

予定時間より、一時間四十分後のことだった。



歩いて手術室に入り、自分でオペ台に登る。


両手を上げて立っている人はいない。

ドラマで見たあの光景は、やはりドラマの中だけらしい。


そんな、どうでもいいことを考えている自分に少し呆れながら、

「はい、眠くなりますよー」と声をかけられる。


そして次の瞬間には、

「はい、終わりましたよー」だった。


まるで、時間が一瞬だけ消えたようだった。



目を開けると、夫と娘の顔が少し二重に見える。

それでも、意識ははっきりしていた。


「ありがとねぇー」


そう言って手を振り、私は病室へ戻った。



術後は四時間の安静が必要だという。


寝てしまえば楽なのに、すっかり切れた麻酔は私を寝かせてくれない。


それでも思う。


足をざっくり切って、骨を取り替えて。

そんな大工事をしてからの、たった四時間。


医学って、すごい。


「足腰いてぇなー」

「お腹空いたなー」


スマホを開いては、何度も時間を確認する。



ふと、母のことを思い出した。


三十五年前、母がこの手術をした時。

母は一週間ほど寝たきりで、足にはぐるぐると包帯が巻かれていた。


私は食事の介助に通っていたっけ。


今は四時間で、ベッドを起こしてもらい、自分でご飯が食べられる。


医学の進歩って、本当にすごい。



そして、十二時間ぶりのご飯は、とても美味しくて。


私は、完食しました。

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