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落星の継承者  質量変化の重戦士  作者: 青井リンボ
始動編
16/17

第16話

 ベロニカという研究者に連れられ入った奥の部屋は、更に混沌としており雑多な器具や本が乱雑に散らばっている。

 部屋に入るとサビは解放されたが、すぐにベロニカは机の上に置かれていたツボを取ると中から黒みがかった物体を出した。それはベロニカの掌の上で若干揺らめきつつ球状を保っている。


「これを握って魔力を込めてくれ!」


 先ほどから興奮気味のベロニカに対し、サビはそう言う奴なんだと納得すると、揺らめく不思議な黒い物体をひんやりとした感触を感じながらおっかなびっくり手に取って重量変化をさせた。初めはサイズに対してかなりの重量感だったがすぐに軽くなった。


「まあ問題なさそうだ」


「良し!」 


 ベロニカは飛び跳ねんばかりに小躍りすると、すぐさまズレた眼鏡を掛けなおして、さらに比較的整理されている棚に向かって行った。

 置いてきぼりのサビは困惑の表情で右手の物体を強く握れば抵抗はあるが形を変え、緩めれば再び球状に戻り黒く鈍い輝きを保っている。

 

(何なんだこれは?)

 

 サビには見当もつかず黒い物体を弄んでいると、ベロニカが包みを抱えて戻ってきた。さすがにサビも何の説明が無いことが気がかりだ。


「何をするん『これから説明をする!』だ…」


 相変わらずタイミングのおかしい会話にサビはやりにくさを感じているが、どうやら説明を聞けるらしいと包みを開いているベロニカに注目した。

 

「まず、特定の魔術回路を書き込んだ魔導核を経由させ魔力を変質させると、核を中心に金属の部品に結合力と動力が働くのだ!まあ魔導車やゴーレムと言われる魔導兵器の動作原理だな!」


 自慢げに語るベロニカは突如として陰気な表情になり、項垂れると紫がかった髪が顔にかかり表情が見えなくなった。


「だ、だが、魔工学を専門としていた私は、キミが今手に持っている抗魔鉄という通常の魔力を弱める作用を持った金属の研究をしていてな。特定の魔力パターンを出力するコアであれば抗魔鉄を制御できることに気づいたんだが…通常の魔力使い達とはお互いの魔力を打ち消し合うせいで相性が悪く、中々理解を得られなくてな…」


 魔工学とは主に魔力の伝わりやすさの違いを利用した回路を用いる事で、様々な現象を発生させる事を研究する学問だ。日常で使われている道具から兵器までの幅広い分野を取り扱っている。

 

 その中でベロニカが夢中になったゴーレム関連の研究は、遺跡などに出没する魔物として弱点や攻略法は歓迎される。しかし、兵器としての開発研究は基本的に人が使用する物と比べると、ゴーレムの利点は半永久的に稼働する以外は費用対効果が悪く冷遇されている。


 サビは説明の大部分を何となくでしか理解できず顔をしかめていたが、突如ベロニカは俯いた顔を振り上げると、乱れた髪のままサビに自分の研究の有用性をアピールしだした。

  

「抗魔鉄は特殊で通常の金属と違い、粒子状にしても安定して制御できる。だから自在に形状を変える流動性を持った新時代のゴーレムや道具を作れるのだ!しかし、通常の魔力は弱めてしまう特性だから兵装としては採用されないし…ゴーレムはどうしても費用対効果が悪すぎると研究費用も削られてな…そこで君が来てくれたわけだ!」


 ベロニカは二転三転する感情の中で包みからさらに小さなガラス球を指でつまんで取り出すと、サビに向かって突き出した。


「という訳で君の魔力であれば抗魔鉄による魔力相殺も起きないはずだ!偉大なる進歩の為にぜひとも実験台になってくれ!」

 

「あー…具体的に何をするんだ?『キミに魔導核を埋め込み粒子抗魔鉄を制御する事で腕の代わりにする!』…そうか」 


 言うや否やすぐにベロニカは注射器と小型のナイフを取り出すと、サビに左腕を出すように催促した。


「では核を埋め込んでみようか!」


 さすがにサビもいきなり信用する事は難しく難色を示した。


「…本当に大丈夫なのか?」


「ふむ、まあ安心したまえ…私は人の体の構造にも詳しく治療術にも長けているのだ。麻酔後に左腕の断面部を切開した後、核を埋め込んで治療魔術で神経との接続後に傷口を塞ぐ流れだな、特に問題は起こさないと誓おう」


 珍しくベロニカは被せずに落ち着いた様子で自分の技術の高さと手順を説明したが、サビには知識がなく大丈夫だと言われてもいまいち理解できなかった。しかし、少なくとも左腕が復活すると可能性があるのはかなり魅力的だ。


(…正直分からないことだらけだが、これ以外の方法は特に無いようだしな…先延ばしにしても仕方ない、一か八か試してみるか…) 

 

 サビは顔を上げると眼鏡越しの黒い瞳をを見つめ、手術を受ける事を伝えた。






「よし、魔導核の埋め込み手術は終わったぞ!次は抗魔鉄の装着だ!」


 その後サビは神経接続の際に痺れが走った以外は特に異常もなく手術を終えると、次は核を起動し抗魔鉄を装着する作業に入っていた。

 ベロニカは流動抗魔鉄の塊が入った箱を引きずりながら持ってくると、そのまま興奮気味にサビに左腕を入れるよう指示した。


「この箱に左腕を入れてくれ!そうすれば活性化した抗魔鉄が結合して君の新しい腕になる!」


 サビも半信半疑で肩まで袖をまくり上げて左腕を黒い塊に押し付けると、急速にスライムの様になった抗魔鉄が肩まで腕を覆い尽くした。

 サビも自分の腕が黒く染まるようなある種不気味な光景に驚いていた。そこに待ちきれない様子のベロニカから腕を引き抜くよう言われ、ずっしりとした重量感を感じながら引き抜くとサビはさらに驚愕した。


「よし!生体に試すのはぶっつけ本番だったが上手く行ったぞ!これで究極の兵器にまた近づいた!」


「すごいな…」


 何やら不穏な事を口走っているベロニカの発言も、耳に入らないくらいにサビは目の前の光景に釘付けになった。

 サビの視線の先には鈍く輝く黒い左手が出来ており、若干の鈍さを感じるものの確かに手を開いたり閉じたりと動かせるのだ。

 サビは何度も新しい自分の本来より少し大きめで角ばったような左腕の感触を確かめていたが、すぐにベロニカも飛びつく様に黒い義手を手に取るとまじまじと観察した。


「すばらしい!やはりサビ君の魔力特性であれば魔導核の制御が妨害されないようだな!君の重量変化はちゃんと発動するのか?」


「試してみる…」


 サビは新しい腕に重量変化を行うと、問題なく軽くする事が出来た事をベロニカに伝えた。満足げな表情をしたベロニカは突如対価を要求した。


「という訳で!これは当然ただじゃあ無い!という訳でサビ君にはやってもらいたい事があるんだ」


 さっき実験に付き合えと言っていたんじゃないかとサビは思ったが、そのままベロニカは眼鏡がズレるのも気にせずハイテンションで続けていった。


「まあ上から疎まれて研究資金も資材も不足してるんだ!だからサビ君が私の研究の為に資金や材料、それに遺跡などから技術資料などを手に入れてきてくれないか!そうすればこの技術はさらなる躍進を遂げるだろう!」


「そんなに研究がきついの『うむ!君の義手を作ったから、抗魔鉄の在庫もギリギリなのだ!』…大変そうだな…腕の恩もあるし分かった、協力する」


 サビは協力する事に同意すると、ベロニカは黒い腕を両手で握り込むと大きく振った。


「助かる!それと今からデータを取らせてくれ!」




 ベロニカのデータ採取に付き合ったサビはその後、壁の外と内を繋ぐ門の前に来ていた。サビの装備も制服を脱いで以前の防具と巨槍を担いでいる。新たな義手となった左腕は抗魔鉄という金属で出来ているので、強度も高いので重量バランスを取る為に防具を付けていない。

 

 太陽が真上より過ぎたくらいで研究所を出たサビが、外で待機していたマシューに購入した防具の受取日が今日である事を伝え、外へ出る許可が出たのでこの通行所に来ていた。


 見上げるような巨大な門が今は解放されており、大小さまざまな魔導車や開闢軍の兵士等が行き交っている。それぞれが各ゲートのような場所で金属の板のような物を受付に見せると、監視員が通行許可を出している。

 すれ違う人々もサビの異様な巨槍に一瞬注目しながらも、すぐに通り過ぎていく。


 サビも先ほどマシューから受け取った金属の板で出来た通行証を手に持ち、歩行者用のゲートで手続きを行った。監視員が受け取り、一回り大きな板の上に乗せると通行証に青く光る文字が浮かび上がった。

 監視員は確認を終えるとサビへ通行証を返し、外壁へと出る許可が下りた。


 


 そのままサビは歩いて行くと二日ぶりの外壁へとやってきた。と言ってもまだ内壁寄りである富裕層の居住区等の地域である為、そのままサビはまっすぐゲートから続く大通りを進み、さらに外周寄りの商店が並ぶバーゲル通りへと向かって行った。


 大通りの柵の向こうは外壁富裕層区となっており、身なりの良い人物や立派な建物も多く、スラムとの様相の違いにサビは興味を示していた。


(浮浪者や孤児が見当たらないな、ゴミも少ないしここまで雰囲気が違うものなのか)


 サビがスラムで食べ物をあさっていた時は、このような一部の区画に近づくと見張りに死にかねないくらいの痛い目に合うので、殆ど縁のない世界だ。

 

(しかし、まさかおまけと言えど内壁に入る日が来るとはな)

 

 そのさらに縁のない世界である内壁側に所属する事になった自身の奇妙な巡り合わせに、サビは不思議な心地になっていた。それがミリーのおまけの形であっても、このような経験は中々無いのだ。

 

 そうやって周囲の観察をしながら歩みを進めるうちに、バーゲル通りへと到着した。




「いらっしゃーい…あ、サビ…」


 サビがゲッテルの防具店に入るとカウンターで暇を持て余していたゲッテルの娘であるアンナが挨拶をしてきた。しかし、サビの右頬に走った傷と角ばった黒い左腕の異様さに目を丸くして言葉を途切れさせた。

 サビは気にせずに、防具の受け取りに来たことを伝えると、アンナも何とか放心状態から立ち直るとゲッテルを呼びに店の奥へと向かった。

 

 ゲッテルが店の奥にある工作場から出てくると早速アンナが質問攻めをしてきたので、サビは自分とミリーに起こった事について説明をした。


「随分面倒な事になったのう…」


「ミリーにはもう会えないのかなー…」


 ゲッテルとアンナは何とも難しい顔をしていた。開闢軍にスカウトされたのは喜ばしい事ではあるが、サビの状態やミリーが内壁から出られない状況に、どうリアクションするべきか分からなかった。


「まあ、今のところ悪いようにはされてない。それに、ミリーの事も別に黙るように言われてないからな」


「まあそう言うなら、大丈夫そうなのか…おっと防具の受け渡しだったな。奥へ来い微調整をする」


 何でもないようなサビの調子にゲッテル達も何とか納得すると、防具の試着を行い最終の微調整をする為、工作場へとサビを案内した。


 工作場の壁には様々な道具が並べて吊るしてあり、作りかけや一式の防具を身に着けたマネキンが数体並んでいる。


 ゲッテルはアンナも手伝い、マネキンの中から一つサビの前に運んできた。


 その防具は、毛皮と金属鎧を組み合わせた全身を守る重厚な兜付きの装備だ。

 特に目を引くのがワイルドウルフの毛皮をふんだんに使って主に背中や肩からに首から口元近くまで毛皮が覆い、手足の部分にも毛皮が使われている。

 サビも初めてのオーダーメイドによる防具の完成品を目の当たりにしたので、少し興奮気味になった。


「すごいな」


「ガハハ!毛皮を防具に使うのは初めてだったが、我ながらいい出来だ。早速試着してみるか」 


 ゲッテルから細かい防具の取り扱いや機能についての説明を受けながら、サビは防具を装着していった。


 この世界では毛皮は防具には使用されないのだが、サビが毛皮を使用する事を選んだ理由は魔力の特性が関係している。

 

 通常の魔力は純度の高い物質に纏わせる方が効果が高くなり、逆に毛皮や不純物の多い物質などでは魔力の効果が落ちてしまう。その為、一般に魔力を使用して戦闘を行う物は、なめした皮や繊維の下地に生成した金属等で補強し防具にする。その為基本的に毛皮は体温調整用として使用されることが多い。

 しかし、サビの重量変化では特に使用感も変わらず、魔物の毛皮自体が高い防御力と快適な温度調節の機能を持っている為、防具にも使用する事にした。

 

 装着を進め最後にバイザーが稼働するタイプの金属兜を被ると、サビは軽く体を動かして可動域等を調べていたが防具の快適さに驚いた。

 今まではサイズが合わなかった為兜を付けていなかったが、サビ自身の防御力を考えた結果兜も着ける事にしたのだ。


「快適で動きやすいし、良い感じだ」


 重量調整の為左の義手には防具をつけずに、他を毛皮と鈍い質感の金属鎧を組み合わせた防具に身を包んだサビは満足げな表情をしていた。


「本当にいい出来だ。また頼む」


「ああ!ミリーちゃんにもよろしくな!」


「よろしくなー」

 

 今まで装備していた防具は下取りに出して、後払い分の報酬を支払ったサビは内壁へと戻ることにした。

 新たな装備に身を包んだサビはゲッテル達と別れると、内壁の方へと戻る事にした。


(明日から教練機関で活動をするのか)


 全くの未知の世界にサビは不安と期待が混ざる中、自分の黒い義手を見つめると、強く拳を握りしめ金属のきしむ様な音を立てた後、巨槍を担いで内壁へ歩いて行った。

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