第13話
「いやーありがとう!」
新手の襲撃者は要求通りミリーを渡す事にしたようだと判断し、そのまま上機嫌でサビの元へ歩いてくるが、襲撃者はサビを生かして返すつもりはなかった。
サビはここで初めて、相手をしっかりと見据えた。襲撃者は耳にかかるくらいに切りそろえられた茶髪で、背丈はサビより少し低く年はサビより1周り程度上くらいの様だ。
歩いてくる姿をサビが睨め付けていると、微かな声が聞こえてきた。
「…?サビ?」
「…ミリー…」
横たわっているミリーは目を覚ましたようで、状態を起こすと周囲を見渡し始めた。そして異常な状況下だが寝ぼけてるようでサビを見つけると、ミリーは安心したように安堵の表情にになった。
「…サビも怪我は酷いみたいだけど生きててよかった…」
サビはその姿を見て、自身が奴隷だった時代が一瞬頭をよぎった。最初はサビ自身でもよく分らない流れで始まった付き合いだったが、数か月一緒に行動する中で色々な物をくれたミリーをこのまま見捨てるのかと自分の中の声が大きくなってきていた。
(ここでミリーを渡せばどういう扱いになるか分からないが、きっと碌な事じゃないのだろう。それなら…)
そこからサビは、自然とそうするべきだと思う心に従い行動を開始した。
「逃げろ…諦めるなーーー」
「…え?」
サビは言い終わらないうちに、バーグ戦で習得した重量変化の同時発動を行い、軽くなった肉体で一気に加速すると襲撃者に切りかかった。
圧倒的な魔力圧を漂わせる襲撃者は何故か先ほどの余裕を無くし、ミリーへ意識を集中していたようで、サビの攻撃には虚を突かれた反応が遅れた。
一気に踏み込んだサビは襲撃者へ飛び込むと、その勢いのまま体を横に回転させ全身を使い最高速を片腕の巨槍に乗せていった。
それは後先考えずに魔力を注ぎ込んで巨槍を重くし、新たに習得した肉体の軽量化で加速した勢いから放つ全身全霊の一撃だった。
「オオオオオオオオオ!」
サビの全てを注ぎ込んだ一撃に対して、相手はすぐに立ち直るとつまらなさそうに手をかざした。全てを込めた重量増加の魔力により、今までと違い暗い赤色混ざりの黒い靄がまとわりついている巨槍が襲撃者に襲い掛かる。
襲撃者の手をかざした先の中空に凄まじい魔力密度の青白い膜が広がり盾のようになると、そこへ巨槍が衝突して激しい魔力の燐光と衝撃が発生した。
はじけ飛んだ魔力の燐光が周囲を舞う中、襲撃者の魔力の盾は少し削れていたが殆どそのままの形で存在していた。
「…」
「予想よりかなり威力があるね?…まあ面倒なので死んでくれ」
襲撃者は一瞬眉を軽くはね驚いたような表情をしたが、すぐさま興味なさげに羽虫を払うような動作でサビへ魔力の斬撃を飛ばした。
力を使い果たしそれでも何とか巨槍を杖に完全に倒れ込まないようにしているサビは、最後のあがきとして巨槍を盾にするように身を捩った。
サビは祈るように目をつぶり攻撃に備えた。
(頼む何とかミリーだけでも逃げてくれ…)
「サビ…ここまで本当にありがとう…次は私が助ける番だね」
「ミリー?…早く逃げろ!…?」
防御姿勢を取っていたサビへ攻撃ではなくミリーの声が届き、驚いたようにサビは視線を向けると傍にミリーが立って手をかざしていた。
サビが慌てて逃げるように叫んだが、攻撃が何時まで経っても来ない事に気づき、状況を改めて確認する為襲撃者の方向を巨槍の影から覗き込んだ。
「チッここで解除されるとは、本当に運が悪い…」
何やら襲撃者は険しい表情をしていたが、先ほど飛んできた魔力刃は存在せず、ミリーのかざした手の先には魔力の盾があった。
ここでようやくサビはミリーからも、凄まじい魔力圧が発せられてることに気が付いた。サビの視線に気が付いたミリーは申し訳なさそうに苦笑いをした。
「なんだか、起きたら自分の魔力が凄いことになってたの、自分でもよく分らなくて…」
「そうなのか…良かった…」
サビはミリーが何故ここまで強大な魔力を出せるようになったのか不思議ではあったが、それ以外はいつもの様子だったため安堵した。しかし、調子がよさそうなミリーに対して、サビは必死に力を込めても体が満足に動かせず、気付け薬の服用すら自力では出来なくなっていた。
サビは襲撃者の方を見ると、相手もかなりの警戒をしているようだが諦める気はなく魔力圧がより高まっていくのを感じた。
ミリーも相手の様子を険しい表情で睨みつけており、戦闘再開の気配が濃厚になってきている。
「俺は良いから逃げろ」
サビはせめて、ミリーだけでも逃げて欲しいと思い声をかけたが、ミリーはサビを一瞥するとハニカミながら魔力の弓を作り出した。
「嫌よ。次は私の番って言ったでしょ…任せて」
ミリーはそう言うと、サビの前に出ていき今までとは比べ物にならない魔力が込められた矢を一気に5本番え、襲撃者に向かって同時に打ち出した。
すかさず襲撃者はサビの目でもほとんど追えない速度で、大きく横っ飛びにするとそこへ魔力矢の1本が着弾し激しい爆発を起こした。さらに残りの4本は空中で軌道を曲げると、回避した襲撃者の方へ殺到していった。
飛来する4本の魔力矢に対して、襲撃者も迎撃する形で魔力刃を4本打ち出し、それぞれが魔力矢と激突し空中で激しい爆発を起こした。
衝撃波のあおりを受け、サビは巨槍の影で吹き飛ばされない様に屈みこんで耐えていた。
(なんて戦いだ!次元が違う…)
サビの戦慄している視線の先で、土煙から切り裂く様に襲撃者と両サイドに並行する形で魔力刃2本が飛び出してくると、ミリーへ向かって一気に踏み込んでいった。
ミリーはそれに対して、既に5本の魔力矢を番えておりすぐさま射出した。扇に広がった矢たちはすぐに軌道が曲がり襲撃者に3本魔力刃に1本ずつ向かって行き、襲撃者も足を止め再度魔力刃を展開し迎撃した。
先ほど同様の爆発が発生し、サビはその衝撃にただ必死に耐えるしかできなかった。その後ミリーと襲撃者は凄まじい速度の中で、魔力の燐光が舞う中絶えず致命的な威力の攻撃の応酬を繰り返していった。
それから何度目かの攻防が繰り返される中で、徐々にミリーが押されるようになってきた。やはり急に魔力が覚醒し本能的に使いこなしている物の、襲撃者の方が経験値の差で優位に立ちつつある。
「クッ…!」
それでも何とかミリーは続けざまに弓を連射しつつ接近戦になれば、膨大な魔力で作った剣で迎撃をしながら凌いでいた。
そんな姿をただ見る事しかできないサビは必死に体を動かし、気付け薬を取り出そうとしていた。しかし、力が入らず地面に突き立てた巨槍にもたれかかってやっと倒れずに済むほど消耗し、片腕も無い状態では一向に自身のポーチを開く事すらできない。
サビはままならない自身に対して焦燥を滲ませていた。
(クソ…さすがに足手まといはマズい…ミリーも俺を庇っているから戦いずらいんだ…)
サビはもはや死に体といった状態で、かばう様にミリーは戦っている。さすがに襲撃者も戦闘の中で露骨にこちらを使って、揺さぶりをかける余裕はないらしくサビは巨槍を盾にしてしのぎ続けている。
サビは必死に耐えながら自分の無力さを呪っていると、あらたな魔力反応が近づいてきている事に気づいた。しかも気配は複数であり、さらに目の前の戦闘を行っている二人ほどでは無いがそれぞれが高い魔力を持っているようだ。
サビは気付け薬の効果も切れ始め、意識もかなり途切れそうな状態の中で向かってくる方向を注視した。
少し間があってから、ミリーと襲撃者も同時に戦闘を中断したので、近づいてきてる集団に気づいたのだろう。
襲撃者の様子から考えると、味方が来る可能性があるなら、戦闘を中断しないだろうとサビは判断し、ミリーへ眼を向けるとサビの近くまで来ており、油断なく魔力矢を番えている。
そこへ、新手たちが侵入してきた。全身を金属の鎧と剣と盾で武装しており、3人が等間隔で並びそれぞれが列をなしている。
それぞれが非常に高い魔力を纏い警戒しながら、平場にサビ達を囲むように展開していった。おおよそ20名程が広場を囲う様に半円状に展開すると、遅れて異質な装備の男が踏み込んできた。
異質な男の外見は、つばの広い帽子を被り長いロングコートに身を包んでいる。帽子の下から見える顔は無精ひげに気だるげな表情でこちらを見据えており、両手には旧時代では銃と呼ばれていたものをそれぞれ握っている。
新手の男は、それぞれサビ達を見渡すと自身の隣にいる鎧の人物に目くばせをした。目くばせをされた側は一歩前に出ると、サビ達へ自分たちが何者であるか開示した。
「こちらは開闢軍だ!戦闘行動をやめて動くな!」
サビとミリーは、状況が好転した気配を感じた。銃の男は襲撃者に目を向けると、確認を行った。
「お前は、ストレンジマンか…こんな大物が何でエクスランドの根っこまで来て騒動起こしてるんだ?」
「…さあ?なんだろうね?こっちもまさか位階持ちに出会うとは思わなかったよ…ガンマン・ジャック?」
「まあとぼけるわな…ジェネラルクラスの討伐の次はお尋ね者とはな、妙な動きしたと思ったら打ち殺すからな」
ストレンジマンと呼ばれた襲撃者はとぼけるようにしながら、等々に後ろへ飛び退いた。すぐさまジャックと呼ばれた男は銃口を向けると夥しい数の魔力弾がストレンジマンに向かって殺到し、合わせるように開闢軍の兵士たちも半数が行動を開始し一気に詰め寄る。
襲い掛かる魔力弾に対して防御盾を展開するものの、一瞬で魔力弾の群れに食い破られるように崩壊し、魔力の燐光が飛び散る中防げなかった魔力弾がストレンジマンの体に襲い掛かる。
しかし、ボロボロになったもののそのままストレンジマンは、さらに加速して後ろへ飛ぶと森の中へと消えていった。
銃を構えたままのジャックは、溜息を吐くとミリー達へ眼を向けた。
(追いかけたいのは山々だが、この女を放置は出来ねえな)
ジャックは優先順位を決めると、ミリーへと向き直った。
「事情を聴かせてもらうぞ」
「分かりました…その前にサビを治療したいんです」
「まあ…分かったそれはこっちで対応するから、聴かせてくれ」
ミリーもジャックが先ほど拮抗した勝負をしていた相手を一瞬で追い詰めた姿を見ていたので、緊張気味に頷いた。サビはもは消耗と気付け薬の副作用によって意識がほとんどなくなっており、意地で倒れていないだけといった状態だ。
そんなサビが治療を受ける様子を心配気味に見つめたミリーは今までの経緯をジャック達に説明した。
「ふーん…なるほどねえ」
ミリーから事情を聴いたジャックは、しばし自身のひげの生えた顎をさすりながら思案した。
(このミリーってやつがこんなバカげた魔力量を以前から持ってたら、話題になるか開闢軍にすぐに確保されてるはずだな…それに嬢ちゃんの外見は…話を聞く限りだと数年はエクスランドに住んでたようだからな…だめだ分からん…とりあえず確保して詳しい調査は他の連中に任せよう)
あのストレンジマンがわざわざリスクを冒して身柄を狙っている事と本人の膨大な魔力量から放置はできないと判断して、ジャックはその後は専門の部門に調査を任せる事にしてミリーへ提案した。
「少なくとも、エクスランドの外じゃあ危険だな。もっと詳しく知りたいから本部まで来てくれ」
「ええ…分かりました」
サビはいまだ治療を受けており意識が戻らず、相手の戦力も圧倒的で、ミリー自身を狙っている組織の事を考えるとついて行く方が得策だろうと判断した。
「よし…お前ら帰るぞ、襲撃があるかもしれん警戒を怠るなよ」
そうしてジャックは周囲の兵士たちに声をかけると、ミリーを中心に隊列を編成しジャックがミリーの後方で監視する形でエクスランドに帰還を開始した。




