二十七日目 足軽稽古
翌日、行ってきます!と家族に言って、足軽村へと向かった。母さんはまた泣きそうだったが、頑張ってらっしゃい!と笑顔で送ってくれた。ほんと感謝してもしきれないよ。
さ、今日からはやっと堂々と特訓が出来る!あ、もぉ特訓と言うのは変だな。稽古、稽古っと!
家から持ってきた必要最低限の荷物を下ろして俺は弥三郎を迎えに岡豊城へと向かった。岡豊城は山城だから入城するのは山登りと同じようなもので一般の人からすれば一苦労。ま、俺には体力があるから関係ないが。そんなことよりーーー。
「...また門番に止められたりしないかな。」
そう呟いた矢先、門に居たのは昨日とは違う顔ぶれ。あ、と俺は察し。
「あの、菊之助と申すものですが、中に入っても宜しいでしょうか?」
2人の門番は顔を合わせケラケラと笑いだした。
「ああ、いいぞ!お主の事は重俊様からキツく聞かされている。人を見た目で判断するなともお叱りを受けたばかりだ!」
「通っても良いぞ!これから同じ足軽として頑張って参ろうではないか!」
「あ、ありがとうございます!」
こんな清々しい気持ちで門を潜ったのは初めてだ!っていうか、そもそもまだ2回しかはいったことないんだけども。
弥三郎の館は二の丸にある。その道中では足軽たちが稽古をしていた。だがみんな槍と弓と刀しか持っていない。いや、おかしくは無いんだけど。騎馬とか乗らなくていいのかな?あと、鉄砲とか。
弥三郎の館に着くと入口に小姓が居たため、弥三郎を呼んできて貰った。
「お待たせした!それじゃあ今日はなんの稽古をしよう...か...。」
「ん?どうした?」
「昨日から思うておったが、お主その格好で城を歩くのは、ちと厳しかろう。」
昨日もそうだったが、俺は村からここまでずっとこの小袖を着て歩いていた。ちなみに、この小袖、9歳の時に貰ったものでそこから毎日着ている。超不衛生。
「た、たしかに。でもお金貰ってなくて。」
「僕のをあげるよ!」
そう言って弥三郎は小姓に自分の小袖と袴を持ってくるように伝えた。
「どうかな?」
小姓が持ってきたのはどちらとも紺色のもので、どことなく前世の道着のよう。
「僕はあまり派手なものが苦手でね。こんな地味なのしかないけど...。」
「いいよこれ!気に入った!めちゃくちゃ嬉しいよ!!」
「そう言って貰えるとこちらも嬉しいよ!」
「ありがとう!!大切にするね!」
「大切にするのは良いが汚れたら新しいのに換えるのだぞ!」
「お、おう!」
こうして俺は新しいのに小袖と袴を手に入れた。と言っても弥三郎の御下がりだがな。この時代の人達は基本偉い人達の御下がりを市で購入して着る。それが当たり前だった。
「さて、早速何の稽古をするのだ?」
「んー。思ったんだけど、長宗我部家には騎馬隊はいないのか?」
弥三郎は首を傾げ、とても不思議そうにこちらを見ている。
「馬に乗って戦うなど聞いたことがないぞ?」
「え?!じゃ、じゃあ、鉄砲...種子島は?!」
「なんじゃそれは。」
「ええええええ!!!」
確かに今思えば戦の時、みんな馬に鞍を付けていなかった。手綱は付けていたけど、馬に直接乗ってたもんな。それに前世で長宗我部の騎馬隊がーーー。なんて話聞いたこと無いしな。そもそも無いとは知らなかった。
土佐国は北を四国山脈に覆われ、南は海に挟まれた言わば秘境だ。そんな所まで本州の技術は出回っていなかった。長宗我部家に騎馬と種子島が伝わるのは当分先のことである。
「で、今日は何をするのじゃ?」
「そうだな。久々だし、刀の稽古でもしようか!とうとう俺の剣術が出来たからな!教えるよ!」
「おお!そう言えばそのような話をしておったな!是非とも僕に教えてくれ!」
「任せとけ!あ、でも刀がない...。」
「はぁ。全く。」
そう言って、弥三郎は小姓に刀を持ってくるよう言いつけた。
「す、すまない。」
無事に刀も手に入り、弥三郎に菊岡流剣術を教えることにした。
菊岡流剣術には7つの技があり、それぞれこの時代にある花の名前をつけた。
「まずはこの丸太人形で試すから見てて。菊岡流ーーーー。」
白百合
手毬花
薔薇突き
藤返し
水面の睡蓮
赤椿
舞い桜
「と、まぁこんな感じだ!覚えた?」
「覚えたぞ!意外と簡単そうなのだな!」
「じゃあここからは組手をしながら試そう。俺が受けてどこがダメか言ってあげるから。」
「それではお主を切ってしまう。」
「あ、そーだな。一応鞘に収めながらしよっか!」




