二十六日目 巣立ち
足軽として雇って貰う事を両親に話すため、一度村に戻ってきた。村に帰る頃には日は沈みかけ夕刻になっていた。
「ただいま。」
「兄貴、今日どこ行ってたんだよ!」
帰って最初に声をかけてきたのは菊雪だった。そー言えば、今日城へ行くことは父さんと母さんにしか言ってなかった。
1人で山菜取れたかー?と俺は菊雪の頭を撫でた。その手を菊雪は振り払ってそっぽを向いた。
「おかえりなさい、菊之助。」
「ただいま、母さん。」
「まだ、慣れないわねこの名前。」
そう言って母さんは蘭と一緒に夕餉の用意をする。
「え?兄貴、名前変わったの?!」
「そうだぞ!」
「なんでだよ!」
「まぁ13歳になった記念的な?」
「はぁ?俺も名前変えたい!!」
無理言っちゃだめでしょ、と母さん。またも菊雪は機嫌をそこねた。
そんなこんなしているうちに父さんが仕事から帰ってきた。
「ただいま!!」
「父さん!なんで兄貴だけ名前変えたの?!」
「おうおう、菊雪は元気だな!がははは!」
「さぁみんな夕餉出来たよ!」
と蘭の一声でみんなが囲炉裏を囲む。さて、俺はいつ話し始めたらいい物かと機会を伺っていた。その機会は夜、蘭と菊雪が寝た後にきた。
「父さん、母さん。話があるんだ。」
どうしたの?と母さん。
「実は俺、足軽として雇ってもらえることになった。」
「ええ?!急にどうして...。」
「急じゃないよ。昨日父さんから聞いたと思うけど、前の戦で活躍した恩賞として貰ったんだ。」
とても心配そうな母さん。俺はこの時代には来たばかりの事を思い出していた。戦に出たいと母さんに言った時のあの悲しい顔を。
「母さん、安心してよ。俺、結構強いんだから!」
俺は自分の二の腕を膨らませて言った。
「菊之助、俺と約束したこと覚えているか?」
「人を殺すことを楽しまないだよね、父さん。」
「ああ、俺からはそれだけだ。頑張って来いよ!」
後は母さんだけ。
「母さん...。」
「菊之助、私が昔言ったこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。」
ちょうどさっき思い出していたところだ。
「私は行って欲しくないの。でもあなたが自分で決めたことなら応援してあげたい。だから...。」
母さんの目から涙が零れた。
「たまには顔見せに来てちょうだい!」
「わかったよ、母さん。ありがとう。」
そう言って俺は寝室へと行った。
きっと母さんは心の中でとてつもない葛藤をしたと思う。
息子が死ぬかもしれない場所に行って欲しくない。
でも強くなったあなたに沢山武功を上げて欲しい。
そんな気持ちが。
俺が寝室へ行った後も2人は何か話していた。俺には内容がよく聞こえなかったが、母さんの泣く声だけは当分頭から離れなかった。




