二十八日目 怪しい影
ある新月の夜ーーー。
「なぜ、なぜあの方は姿を見せぬ?!なぜ、某の思い道理にならぬのだ!某がどんな気持ちで相手をしていたかわからぬ小僧が!」
とある館で嘆きの声が聞こえる。
その男の心は夜道の如く暗く、闇を積もらせていた。憎しみを深く刻みながらーーー。
▽▽▽▽▽
弥三郎と稽古を始めてからから2週間、毎日2人で刀の稽古を続けていた。
「はぁはぁ、難しすぎる!!」
「なんだよ。最初は簡単そうだって言っていたじゃないか。」
「お主を見ているとそう思うのだが、実際にやってみると...。」
まぁ体力とか筋力の問題だろうな。俺は森の複雑な地形で走り回っていたから自然と付いたから。
「弥三郎、いい稽古方法がある!」
「おお、なんじゃ?!教えてくれ!」
「毎日ここから町まで走って行って帰ってくるんだ。」
は?と弥三郎は何を言っているのか分かっていなかった。
「そんなもの稽古にならぬではないか。」
「ただ行くだけだとな。1つルールがある!」
「る、るーる?なんだそれは。」
「あ、じょ、条件さ!いいか?行き帰りの時、道を使っちゃダメ。」
「ならば行けぬでは無いか。」
「道無き道を行くのよぉ。」
せっかくの山城だ。利用しない手はない。山の斜面を登り下りすれば森よりも早く鍛えられるだろう。
「ま、当分はそれを早朝と夕刻にすれば剣術を使えるようになるよ!それまで剣術の稽古は出来んなー。」
「では、今日は何をするのじゃ?」
「今日はなー。槍の練習がしたいな!なんせまだ全然慣れていないからな。教えてくれ頼む!」
「良いぞー!剣術を教えれぬが、槍ならば教える事は可能!任せておけ!」
俺たちは槍を持っていないので、また小姓に言いつけるかと思ったがーーー。
「槍は本丸の蔵にあるのじゃ。今日は取りに行くついでに本丸の中で稽古しようぞ。」
という事で今日は場所を変えて、弥三郎の館ではなく、本丸で稽古することとなった。蔵に行くと、そこにも見張りの門番が立っていた。
「これは若様!」
「すまぬが槍が2本ほしくてな。鍵を開けてはくれぬか?」
「ははっ!」
「菊之助、好きなのを取ってきてくれ。」
「りょーかい。」
俺を待つ弥三郎の背後から妙な気配を感じる。しかし、ここは城の中。敵など居るはずもない。そう思いなが弥三郎が恐る恐る振り返った。そこにはニコニコと笑う秦泉寺 泰惟の姿があった。
「若様、やっと私と稽古をしに来られたのですね?!」
「いや、違う。菊之助と....。」
「ここで立ち話さず。歩きながら聞きます故。ささ、こちらへ!」
「待て、僕は菊之助と稽古をする為に槍を取りに来たのじゃ。」
「し、しかし、半月も某は....。」
「弥三郎、これでいいか?」
俺が蔵から出ると泰惟が楽しそうにはなしている姿があった。ただ、一方通行のようだが。機嫌が悪かったのか、泰惟は俺の事を睨みつけてきた。
「貴様は....。前もそうだったが、なぜ若様を呼び捨てにしておるのだ。ここで切り捨ててくれようか。」
「泰惟!こやつは構わぬのじゃ。我が友に刃を向けることは許さんぞ。」
「し、しかし...。」
「お主には弟たちの指南を言いつけたはずじゃ。僕には菊之助がおるから大丈夫じゃ。」
泰惟は俺のことをまた睨んできた。そんなに睨まれても困るのだが。
「某は殿より命を受けております。いかなる理由でも...。」
「父上には僕から話しておく。きっと父上も菊之助なら大丈夫じゃと仰せになる。其方には別の任を受け渡すだろう。それまで待ってるが良い。」
さ、行こうか。と弥三郎は俺を連れて本丸を後にした。
「あやつのこと忘れておった。しばらくは本丸で居らぬ方が良さそうじゃ。」
俺は稽古出来ればどこでもいい、と答えた。それよりも気になるのが、泰惟のことだ。以前会った時と泰惟の印象が全く違った。叱られた時、別人かと思うほどに。前はずっとニコニコしていてとても優しそうな印象だったが、今日は一度も笑顔を見せなかった。弥三郎が相手をしないから相当焦っているのだろう。
「.....許さぬ。あの百姓上がりが。図に乗りおって。」
その声は深く暗い声だった。俺たちには聞こえないように影が歩みを寄せていた。




