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最高神ネフティーヌ様

「私が直に死亡を確認したのに死んでないっておかしいでしょ。どういうことかハデっさんを問い詰めたら、あのおっさんこう言ったのよ。『ネフティーヌなる神が件の少年の魂を強奪し、自らが統括する世界に転生させたのだ』ってね」

「ネ、ネフティーヌ様だと」

 これまで沈黙を守っていたアシュリーが大仰に慄いた。対して、優は首をかしげるばかりだ。

「ネフティーヌ? ネフティスとは違うのか」

「バカ者! 様をつけんか、様を!」

 アシュリーが優の頭を小突く。クロナが不平を漏らそうとしたが、アシュリーが猛犬みたいに睨んできたので口をつぐんだ。

「ネフティーヌ、様ってのはネフティスの親戚らしいわ。同じく葬祭を司る神として崇められてるみたい。っていうか、ユー君よくネフティスなんて知ってるわね。私は大方の神様とは仕事の都合で顔を合わせたことがあるけど」

「さらっととんでもないこと打ち明けてないか。ネフティスを知っていたのは、まあ、けっこう有名だからじゃないか」

 実は、生前にやっていたスマホ向けのゲームでレジェンドレアカードとして実装されていたからである。


「そんで、ネフティーヌのとこに話を聞きに行ったらあっさり白状したの。『わらわの治める世界に転生させた』って。だから私もアンデットとしてこの世界に転移してきたってわけ」

「意図的に異世界転移なんてできるもんなのか」

「私、腐っても神だし。ユー君も死神になれば特権で色々できるよ。お風呂場覗いたりとか、嫌な奴に後ろからカンチョーしたりとか」

「透明人間になった小学生がやりそうなことじゃねえか! クロナ、お前はそんなことしてたのかよ」

「見損なわないでよ! ユー君のトイレぐらいしか覗いたことないわ」

「おまわりさん、こいつです!!」

 いつの間にかプライバシーが筒抜けになっていたと考えると寒気がする優であった。


「閑話休題っと。この世界にやって来たはいいけど、死神の道具がろくに機能しなかったからユー君を探すのに苦労したのよね。ようやく発見した時はワンちゃんに襲われていたからゆっくり説明できなかったし。そっからまた見失っちゃったからあちこち走り回って、やっとユー君に似た人がちみっこいのと一緒に宿屋に入っていくって聞いたの。許せなかったな、ユー君にそんな趣味があるなんて」

「その言い方だとやましい意味になるけど、あくまでお前を倒しに来ただけだからな」

「うむ。私も依頼人を襲おうとするほど節操無しではない」

 そして、デーモンを倒した優たちと再会を果たし、今に至るというわけだ。


「俺が異世界転生しているなんて、いまいち信じられないな。クロナの作り話なんじゃないのか」

「嘘は言ってないって。だって、ユー君の寿命が不明になっちゃってるから殺せなくなったし。死神は寿命が来ていない人間を殺せないから困ったものだよ」

「この世界に来てから死神の道具とやらがおかしくなったと言ってたから、そのせいだろ」

「だと思うけどな。でも、そこのアシュリーって子。その子の寿命はきちんと分かるんだよ。えっと、四十歳で死ぬらしいわね」

「うむ。おおよそ平均寿命か」

「短くないですか」

「いや、そんなものだろう。この国での人間の平均寿命は四十から五十歳だと言われている。それに、アンデットとして第二の人生を歩めるから、人間の寿命は重要ではない」

「ユー君がいた世界だって、平均寿命が五十くらいの国なんて珍しくないわよ。むしろ、少子高齢化が進みまくってる日本が危ないくらいなんだって」

 現代日本と比べると衛生状況や医療技術は劣っており、しかも町の外には凶悪な怪物がウロウロしているのだ。人間の平均寿命が短いのも納得である。


「そう言えば、さっきからちょくちょく出てきているアンデットって何なんだ。ゾンビとかスケルトンが普通に町中歩いてるってのも妙だし」

「簡単に説明すると、一度死んだ人間はネフティーヌ様の力によってアンデットとして蘇ることができる。ユーも一度死んだのなら、アンデットになっている可能性がある。そこらへんも含めて、明日ネフティーヌ様のところに確認しに行こうと思う」

「その言い振りだと、ネフティーヌ様と会話できるみたいだが」

「できるぞ」

 さも当然のように返答され、優は口を半開きにしたまま固まった。ゾンビが歩いているうえに魔法が存在している時点で常識外れだとは思っていた。しかし、神様と会話できるなんて誰が予想できようか。

「さすがに今日はもう遅い。明日、ネフティーヌ様の神殿に出向こう。ネフティーヌ様本人が認めてくだされば、ユーが異世界から来たという絵空事の真偽がはっきりする」

「転生させた張本人が言うなら信じるしかないわな。よし、アシュリーさんの言う通りにしよう」

 こうして、優の転生疑惑を解消するため、一同はネフティーヌの神殿へ赴くことにした。とはいえ、今日はもう遅いので民宿で一泊するのであった。

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