僕と契約して死神になってよ
ようやく泣き止んだアシュリーを間に挟み、神妙な面持ちで優とクロナは向かい合っていた。警察の取り調べでも始まるかの様相だが、あながち間違ってもいないだろう。そもそも、面と向かって死神と対話すること自体ご免である。クロナより「しばらくは殺さない」宣言を受けていなかったらすぐさま殴り飛ばすところだった。とりあえず、とんでもない爆弾発言が投下された以上、きちんと究明しておかなくてはならない。
「もう一度聞くけど、ここが異世界というのは本当なのか」
「嘘は言ってないわ。ほら、こ〇すばとかリ〇ロとか知ってる? あれの主人公の身に起こったことと同じことがユー君にも起こっているのよ」
「えっと、死んだらチート能力を持って異世界に蘇るやつだっけ。なんか聞いたことあるような」
物語の中の出来事としては知っているが、よもや現実に自分の身に降りかかるとは想定外だった。素直に「ここは死後の世界です」と説明された方がすんなり納得できる。
「第一、どのタイミングで異世界にやってきたんだ。全然記憶が無いぞ」
「うだうだ説明するよりも、私がここにやってくるまでの苦労話を聞いてもらった方が分かりやすいかもしんない。もう、本当に苦労したんだから。さっさと労災認定してもらいたいぐらい。ハデっさんに訴えたら通るかな?」
「余計な話はいいからさっさと始めてくれ」
「もう、ユー君はせっかちなんだから。あれはユー君が元いた世界での出来事。忌まわしい交通事故の時まで遡るわね」
お忘れの読者もいるかもしれないので、優が死んだきっかけを振り返っておこう。誤って消費期限が切れてゴキがたかっていた饅頭を食べた優は食中毒にかかり寿命を迎えてしまう。死神の任務に従い優を殺しに来たクロナだったが、当の優は逃亡を図る。そして、逃げるのに夢中になってしまったがために、交通事故に遭って死んでしまうのだった。
「過程はどうあれ、対象の死亡が確認できれば死神としての任務は終了。後は違う部署の仕事になるけど、どうにも納得いかなかったのよね。ユー君はどうしても私の手で殺したかったから」
「いきなり話の筋を折って申し訳ないが、どうして俺を殺そうと躍起になっているんだ。俺、お前に恨まれるようなことでもしたか」
「むしろその逆なんだけどな。まあ、理由ぐらいは明かしておいてもいいかもね。端的に言うと、ユー君を死神にしてずっと一緒にいたいの」
「……はあ?」
予想の遥か斜め上を行く回答に優は口を半開きにしていた。聞き手に回っていたアシュリーも瞠目し、半身を乗り出している。
「えっとね、死んだ人間には大きく分けて三つの選択肢が用意されてるの。まずは天国か地獄に行くパターン。これが最も一般的だけど、一番おススメできないわね。なぜなら、あまりにも暇すぎるから。年がら年中拷問されている地獄がマシって人もいるくらいよ」
「もしかして、テレビとかマンガとかが一切ないってやつか」
「うん。この前なんか、全世界あっち向いてほい大会とかやってたわよ」
「うわ、暇すぎるだろ」
むしろ、そんなしょうもないことをしないと時間を潰せないと考えると、天国の手持無沙汰ぶりが想像できる。娯楽に溢れた現代人にとっては苦痛かもしれない。
「そんで、最近増えてきているのが異世界に飛ばされるパターン。ユー君がこれに当てはまるから後で説明しといた方がいいわね。最後に死神として寿命が来た人間を冥界に送る仕事をするパターン。ユー君に勧めたいのがこいつよ」
「死んだ後も仕事をするのは気が進まんが、暇すぎるよりはマシか」
天国への幻想を打ち砕かれた後なので、優は少し興味を持っていた。ただし、死神になるかと問われれば答えはノーだが。
「新しく死神になった者には、自分を殺した死神が上司になると定められてるの。つまり、私が殺せばユー君の上司は私になるってわけ」
「それで執拗に俺を殺そうとしていたのか。理由は分からんでもないが、死神になるつもりはないぞ」
「えー、どうして? 死神は思ってるほど悪い仕事じゃないよ。明るくて笑顔が絶えない職場だし、やる気次第でいくらでも昇給できるんだよ」
「それ、典型的なブラック企業じゃねえかああああ!」
求人広告にそれっぽい謳い文句が載っていたら大抵ブラック企業なので気を付けよう。
「さっさと私に殺されればいいのに、ユー君ったら勝手に交通事故で死んじゃうから面倒になったんだぞ。うまいこと話を軌道に戻せたから続けるけど、事故で死んじゃったユー君の魂はどっかに行っちゃったんだ。もし、他の死神にスカウトされたら私の計画がご破算になっちゃう。だから、ハデっさんに頼んでユー君の魂がどこに行ったのか調べてもらったわけ。そしたら、とんでもないことを言い出したわ。『伏見優なる少年はまだ死んでおらん』ってね」
「実際、こうして俺がここにいるから間違ったことは言ってないわな」
「結果論としてはそうだけど、事実を知った時相当混乱したわ。ユー君、車にはねられても死なない丈夫な体を持ち、欲はなく決して怒らない人だったのかなって」
「宮沢賢治の詩に出てくる人はバトル漫画の強敵程丈夫じゃないからな」
「いや、優なら耐えられるかもしれない。車というのがよく分からないけど、デーモンのパンチを耐えられたのなら、そんじょそこらの奴の攻撃では動じないはず」
「買い被りすぎですよ、アシュリーさん」
風雨や寒暖ぐらいしか耐える自信がない優だった。




