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先生、アンデットって何ですか?

 翌日。優たち三人は朝から行列に並んでいた。人間に混じってゾンビとかがいるが、もはや日常の一風景として許容していた。遊園地の人気アトラクションに乗るぐらいの待ちぼうけを喰らっているわけだが、皆の目的は共通。この世界における最高神、ネフティーヌと対話するためだ。

 行列ができることを見越しているためか、神殿は中央広場を真北に進んだところにある。広場中央にあるギルドからでも巨大な建造物は目立ちに目立っており、まさに町の目玉というべきだ。

「あのおばさんとお話するために行列するなんて、けっこう暇なのね、この世界の人って」

「クロナ。ネフティーヌ様を愚弄すると消すぞ」

「やってみなさい。と、言いたいところだけど、私の痴態を衆目に晒したくないから遠慮しとく」

「むう、なぜあいつは消せない。呪文は間違っていないはずなのに」

「浄化魔法を受けると妙な気分になっちゃう体質とか」

「嫌よ、そんな体質。でも、体質の問題なのかな」

 一瞬、本気で病院に行こうかと思ったクロナであった。


「さて、ネフティーヌ様と会うまで時間がある。なので、この世界について予習しておく。無知のままネフティーヌ様と対面するのは失礼にあたる」

 咳払いすると、アシュリーは講釈を始める。

「昨日も言った通り、この世界において死んだ人間はアンデットとして第二の人生を歩むことができる。ただ、誰でもアンデットになれるわけではない。その審判を下しているのがネフティーヌ様だ。人間は死ぬと、まずネフティーヌ様によってカルマを審査される」

「カルマ?」

「生前の善悪を測る指標のようなもの。悪いことをすると下がって、あまりにも低すぎると転生は拒否される」

「ユー君はちゃんと転生できたからカルマは高かったってことだよね」

「別に悪いことはやった覚えがないからな」

 素行不良だと教師たちから疎まれることはなかったし、むしろどうして異世界転生する羽目になったか不思議なぐらいだ。


「アンデットとして転生すると、人間とは比べ物にならないくらい寿命が延びる。なぜなら、滅多なことでは死なないから。腕がもげたところで、転んで擦り傷になったぐらいの影響しかない。首がとれても余裕で生きてるやつもいるぐらい」

「もはや人間じゃないですよね」

「転生することで人間をかけ離れた力を手に入れることもできるが、代償として人間とはかけ離れた姿になる。ゾンビやスケルトンはまだ可愛い方だが、昨日戦ったデーモンとかは用心しておいた方がいい」

「変身すると強くなるけど醜い姿になるって、昔からの定番よね」

 美しさを優先するか、強靭な肉体を求めるかは個々人の自由ということだろう。優もまかり間違えればとんでもない怪物の姿で生まれ変わっていたのかもしれない。


「アンデットは本当に滅多なことでは死なない。それこそ、ドラゴンに食われて再生不可能なほどに全身がぐちゃぐちゃにされない限りは」

「うわ、想像したくねえ」

「だから、アンデットが罪を犯せば手がつけられない。そこで、対アンデットの専門家として私たちエクソシストがいる。エクソシストが扱える浄化魔法はアンデットを確実に倒せる唯一の魔法。これを使ってアンデットを退治するのが私たちの仕事」

「要するに、アシュリーはこの町の警察官みたいなものね」

「それも特殊部隊だろ。そう考えるとけっこうかっこいいな」

「そ、そうか。そう言われると照れる」

 尊敬のまなざしを送る優にアシュリーははにかみながら頭を掻いていた。


「アンデットとはネフティーヌ様より善人と認められた存在。だから、アンデットが罪を犯すことはネフティーヌ様への裏切りと捉えられる。だから、エクソシストはアンデットに対して基本的には悪即斬。どんなに小さな犯罪でも容赦なく消し去る」

「昨日のデーモンもあとかたもなく消え去ったというわけですか」

「正確に言うと、ネフティーヌ様の元に送られている。そこで再度審判を受け、数十年におよぶお仕置きを耐えれば再度転生できる。でも、大抵はそのままフェードアウトする」

「ネフティーヌが言ってたわよ。愚か者にお仕置きするのは楽しいのじゃって」

 何をされるのか想像するだけでも恐ろしい。捕まったら最後と分かってなお罪を犯すとは、この世界の犯罪者は余程の命知らずのようである。


 転生先の世界についての講釈を受けている内にいよいよ優たちの拝礼の順番がやってきた。ローブで全身を隠した修道女にアシュリーは数枚のコインを支払う。

「拝観料は一回二十ネフス。今回は私が払っておく。優たちは一文無しらしいし」

「拝観料がいるなんてけちくさいわね」

「神社でお参りする時に賽銭するようなものだろ」

「ちなみに、拝観料の一部は拝観税として国に収められているらしい」

「異世界も世知辛いな、おい」

 二十ネフスは子供のお小遣い程度だが、地方神社の初詣級の拝観者がいるのだ。一日の稼ぎはそれなりにあるだろう。


「それにしても、行列作って拝みに来るなんて暇人の集まりよね」

「ネフティーヌ教の教義では週に一度はネフティーヌ様へ日頃の行いを懺悔することが推奨されている。ただ、教義に関係なく悩み相談しに来る者もいるらしい」

「やっぱ暇人じゃないのか」

 イスラム教徒は毎日五回の礼拝が義務付けられているというが、それと似たようなものだろうと優は頭に入れておく。ネフティーヌ教の場合は義務ではないようだが。


 修道女の案内で通されたのは白のレースカーテンで中央が隔てられた小部屋だった。入室するやアシュリーが片膝をついて祈り出したので、優とクロナも倣う。

 しばらくは変調が無く、やはり気休めに祈っているだけではないかと優は思っていた。大多数の日本人と同じく、優も特定の神を深く信仰しているわけではないので致し方ない。


 そのままお賽銭を払っただけで終わる。そう思われたが、突如とんでもない異変が訪れた。直視できないほどの光が降り注ぐや、カーテンの向こう側に人影が現れたのだ。修道女と同じく全身をローブで覆っている。神殿の職員が通りかかったか。いや、違う。そこにいるのは明らかに人間ではない。

 なぜなら、謎の人物は地面から数十センチ浮いた位置にいるのである。

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