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Step.5 焦げないように気を付けて 那須花凛①

 柊サマンサは、姉巫女の火傷部位に『Bond』を塗っていると、何度か、白い木の枝が寺のなかに飛び込んでいくのを目にした。寺のなかでなにがおこっているのか。柊は、不安になりながらも、治療を止めることはなかった。未来がいったのだ。なんとかしてくれるに決まっている。彼は、未来のことを強く信頼していたのだ。


 しかし、柊は、突如、純金閣寺の上空に、巫女装束の女性が現れたのを見て、思わず手を止めた。空に浮かぶ巫女は、声を張り上げた。


「神術型倒達者、富士月見。ここに、神仏連の滅亡を宣言します」


 その直後、巫女の背中が後光に包まれる。そして、次の瞬間、巨大な白い木の幹のようなものが、純金閣寺全体に突き刺さった。


 光に包まれる純金閣寺。光が寺の周りの水面に反射し、まぶしさで、柊は目が開けられなくなる。

 熱風が、柊の肌を焼く。髪がなびき、額に痛みを感じる。

 二十秒ほどその光は続いた。柊は、永遠化と思うほどの灼熱に、苦しんだ。瞼の裏が暗くなり、ようやくゆっくりと目を開くと、池の中心には、煙の搭が立っていた。


「なんだ、あれは」


 ぽつり、と柊はつぶやく。空に浮く巫女は、下の光景を眺めて、恍惚の表情を浮かべている。


 富士月見。巫女は自分の名をそう名乗っていた。妹巫女と未来が寺のなかに呼びに行った幹部のなまえも、富士だった。同姓同名とするよりは、その幹部が、いま空に浮く巫女であるとするほうが合理的である。柊はそう考えた。


「でも、なんで幹部があんなことするんだ?」


「富士が裏切りものだからだよ」


 帰ってくるはずのない返事に、虚を突かれる柊。その声の居所は、自分のひざ元からだった。

 姉巫女は目をつぶっている。柊は、その顔を覗きこむ。


「起きてるよ!」


「うわあ!?」


 突然大きく目を開く姉巫女。驚きでのけぞる柊をよそに、姉巫女は、勢いよく飛び起きると、柊に手を指し伸ばした。


「大丈夫?」

「あっ……ああ。いや、おまえこそ、なんで起きれるんだよ」


 柊は、その手を握り返すことなく起き上がる。姉巫女は、快活に笑う。


「あっはは!ごめんね!驚かせて!いやー実はさ、わたし、実は神仏連の人間じゃないんだあ。双子の巫女がいたから、片割れを殺して、門番してたんだけどさ。ああ、うちに手先が器用なやつがいてマスク作ってくれたの」


 そういうと、姉巫女は、顔の端を掴むと、べりべりとはがし、その素顔を現した。


「お前はっ」


 柊は、驚愕する。


「やあ、久しぶり!みんなのアイドル、那須花凛ちゃんだよ!」


 そこにいたのは、ブレーメンを率いるテロリスト、那須花凛の姿であった。


「どうして、こんなところに……」


「んん?まー話すと長くなるけど、そのまえに」


 那須花凛は、目にもとまらぬ速さで腕を伸ばすと、柊の頬を潰すほどの力で挟んだ。


「落とし前、つけてもらおうか」

「…………!!」


 二週間前のことであった。那須花凛は、サンジェルから呪術型のチップを盗み出した。盗人の正体を特定したサンジェルは、那須に交渉を持ちかける。自らの教団に、ブレーメンともども加わらないか、と。

那須は、差し出されたその手を握ることはなかった。そして、逆に交戦の意志を表示し、さらにサンジェルから幻術型のチップを奪い取ったのだった。


 情勢を変えるほどの戦利品を手にした那須は、仲間の待つ、ブレーメンの本拠地、京都を目指した。しかし、東京を脱出するあと一歩というところで、サンジェルにより放たれた刺客を相手どった那須は、重症を負った。やむなく廃墟に身を隠していると、運の悪いことに、彼女は『グレン牙』なる盗賊団に襲われ、幻術型チップを手放すことになってしまったのだ。


「あのときは、まだ倒達者になったばかりだったからね、やすやすととられちゃったけど。いまの私は違うよ、柊くん」


「………


 鋭い目で柊を睨みつける那須。しかし、すぐに力を緩め、柊を解放する。


「でもま、自作自演だったとはいえ、熱心に治療してくれたことは感謝してるよ。アイドルは肌がいのちだからね」


 那須は、下着姿だった。柊は治療するために脱がせていたのだ。『Bond』により、急速に火傷は完治し、その肌はみずみずしい少女の柔肌となっていた。


「話の続きだけど。あ。せわしなくてごめんね。富士とは知り合いを通じて会ってさ、自分が倒達者になるために協力してほしいって頼まれたのよ。だけど、神仏連に倒達者が現れると、京都にいづらくなるから断ったんだ。でも富士は食い下がってさ、神仏連は潰していいからって言われて、のった」


 那須は、たたまれて置いてあった巫女服を探り、手のひらほどの大きさの、棒状のなにかを取り出した。棒のさきには、網目のついた球体がついており、その形状は男性の生殖器に類似していた。


 那須は、棒と球体の付け根を優しく撫でる。


「それで、わたしは、この巫女に変装して、寺の巫女たちを殺して回ったんだ。その途中で、富士にも火を触れさせ、倒達者になる条件を満たさせたんだけど……」



 寺を覆う煙が晴れる。そこには、ドロドロに溶解した金色の土台が立っていた。



 純金閣寺は、ここに焼失した。


 那須は頬をかく。


「まーあんなのが生まれるなんて思わないよねー……。おーい、富士ぃー!那須だよぉー元気ぃー!?」


 声に気が付き、富士が小さく手を振る。そして、腕を振り上げ、二人にむかってに指先を振り下ろした。


「え?」


 素っ頓狂な声を上げる那須。富士の背後が、再び光り輝く。そして。


「すみません」


 富士の謝罪とともに、白い巨木が、柊と那須のいる位置に向かって飛んでくる。


「うわあああ」


 柊は悲鳴を上げる。全体の破壊規模を見た彼にとって、直撃することによる結果の想像は容易かったのだ。


「あちゃあ、裏切られちゃった」

 呑気に頭をかく那須。そして彼女は悠々と、巨木に向かって手をかざした。


 すると、池の水を抜くように、巨木はその手のひらに吸い込まれていく。ほどなくして、それはすべて飲み込まれ、那須は無傷で立っていた。


「わたし呪術型だからさ、エネルギー吸収できるんだよね。ああ、柊くんも呪術型だっけ?」


 呪術型は、外界から吸収したエネルギーを吸収し、変換して利用できる。しかし、個人によって許容量というものがあり、限界を超えたエネルギーは取り込むことができない。その点で、那須の吸収能力は、人外であった。


「ま、何発も防げるわけじゃないけど……。ん?」


 那須は、なにかに気づいて、寺のあとのほうを向いた。つられて柊がそこを見ると、一人の巨漢が直立していた。足元には、伏した少年少女が三人。そのなかに、未来の姿を見つけ、柊は池に身を乗り出す。


「おい!未来!」


「あれは、サンジェルのとこの……へえ、富士の攻撃防げるなんてすごいじゃん。いいねえ、いい役者がそろったねえ」


 那須は、この状況を心底楽しんでいた。最高の役者がそろったなら、することはひとつ。彼女は、大きく息を吸うと、手に持った網目の球体に向かって叫んだ。




「聞けええええええええええ!!!」




 空気を震わせる声量が、辺りにいた人間すべての鼓膜を害する。気絶していた未来や伊豆、獅子頭も目を覚まし、声の主のほうを向く。


 その様子に満足した那須は、言葉を続ける。




「一週間後!午後六時から!ブレーメンは清水でライブを行う!入場料は取らない!ここにいる全員を、招待してやるよ!」



 全員が、那須花凛の声にみみを傾けるなか、獅子頭奈保は思った。


 なぜ、あの少女は下着姿なのだ、と。

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